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 1章ー3 街まで<2>

「へー刃リスが。珍しいこともあるものですね」


 馬車の荷台にて時折がたがた鳴らしながら街へ向かう。聞くところによると近くの街まではわりと距離があるらしい。歩いて向かうつもりだったことを告げると驚かれた。彼女たちは今から向かう街から商売に出ていて帰るところだそうだ。


「珍しいのか? 人懐っこそうだったけど」

「ふつうはそんなことないですよ。別段強い魔物ってわけではないんですけど、あの牙で冒険者さんたちのカバンを裂いたり、時には私たちのような商人の馬車が削られたりするので迷惑がってる人は多いですね。でもあの可愛さは反則ですよ!」


 いやそうな顔をしたり、急に目を輝かせたりころころ表情の変わる娘だな。これまで女の子と話したことがないわけではないが、この娘のような明るいタイプとは関わりが少なかったため新鮮に感じる。

 エイルさまは会話には入ってこないが俺たちが話しているのを見て微笑みを浮かべている。省いてしまったかもと考えたが杞憂だったみたいだ。


「そうなのか。たまたま上機嫌だったのかもしれないな」

「そうかもですね。ところでユウトお兄さんたちは冒険者の方なのですか? 見たところ荷物は何もないようですし」


 どう説明したらいいか。ありのまま話しても信じてもらえないだろうし。エイルさまへ目をやると彼女も痛いところつかれたって顔をしている。


「えーとだな。気づいたら湖の近くにいたんだ。覚えていることはほとんどなくて」


 あながち嘘ではない。空から降ってきたってほうがよっぽど信じがたいことだ。


「そうなんですか。よくわかりませんがわからないことを聞いても仕方がありませんよね!」

「そうだ、細かいことは気にするな!」


 隙間からでも聞こえたのだろう。馬の手綱を握って荷台の前に位置どっているダギルさん合わせて楽観的に言ってのける。なるほどミイナの明るさはやはり父親譲りのようだ。


「ははは、ありがとうございます」

 二人の明るさに少し笑いながらお礼を言う。これまでいろいろあった俺にとってはこの明るさはとても心地よい。


「となると今のユウトお兄さんは冒険者じゃないってことですか?」

「そういうことになるな」


 ちなみにユウトお兄さんという呼び方は彼女がそう呼びたいというからだ。なんでも父親と商人業をともにしているから学校には行っておらず兄弟もいないため、俺のような歳の近い人と話す機会はあまりなく、兄という存在に憧れていたそうだ。

 俺も兄弟の末っ子だから妹に憧れていた節もあり互いに利害があった上で、俺も彼女のことをミイナと呼ぶことになった。


「じゃあ冒険者を目指すのですか?」

「ああ、なんとなくだけど前はそんなことをしていた気がする」

「それはいいですね! なにか記憶が戻るかもしれませんし! それに今向かっている街は世界有数のギルドなどが多い街で、冒険者にはうってつけの場所です」

「へえ、それはすごいな。ありがとな」


 するとミイナは頭を出してきた。どういうことか戸惑っていると、俺の手を自分の頭の上にのっけた。褒めてほしいということか。俺は頭を軽く撫でてやる。


「ふぁぁ……」


 気持ちよさそうに目を細めるミイナ。まるで猫のようだ。

 ふと視線を感じて振り返ってみるとエイルさまと目が合った。しかい目が合うとすぐさまエイルさまは顔をぷいっとそっぽへ向けてしまう。

 なにかしてしまったか? あとにでも謝っておこう。


「えへへ、本当の兄みたいで嬉しいです」


 満面の笑みで微笑むミイナ。

 刃リスなんかよりミイナの笑顔のほうがだいぶ反則だ。そんなことに耐性のない俺はドキッとしてしまう。


「ちょっといいか。まだつくのは当分先だから寝てたらどうだ?」


 ダギルさんから声がかかる。

 外をチラッと一見すると太陽が見えた。位置から察するに今は二時ぐらいか。確かつくのは夜九の時だとか言っていた。つまりあっちの世界と同じとすればざっと七時間ほど。確かにそれだけの時間を荷台でただ過ごすのは退屈ではある。


「えーもう少し話してたいー」

「じゃあ布団をかぶりながら話そうか」

「うん!」


 そうしてこのような長旅を見越してのことだろう。いくつか積まれている布団を手に取って自分にかける。

 するとミイナが俺と同じ布団に入ってきた。


「いっしょにいい?」


 いくらなんでも無防備すぎるだろと思うが、上目遣い気味にそういわれると断りづらく、俺は承諾した。

 身体を寄せてくると柔らかい感触が伝わってくる。ほのかに膨らみかけの胸が視界の端に移りこんでくるが理性で抑え込む。

 そのまま雑談をしているうちにミイナは寝てしまった。昨夜は硬い地面で寝ていたためにこの布団が心地よく、俺もそのうち眠りについた。





「おい! 起きろ!」


 叫ぶようなダギルさんの声とともに俺は目を覚ました。意識はすぐにクリアになる。


「どうしたんですか?」


 声音から何かがあったことはわかる。自分でも思う以上に落ち着いていることに驚きつつ、ダギルさんに問う。


「何匹かのゴブリンに囲まれている」


 慎重にそう口にする。その言葉に背筋に悪寒が走った。


「ゴブリン……?」


 ゴブリンといえば、有名な魔物だ。主に雑魚だといわれるがその実態は。


「人を襲う魔物だ。くそ、いつもはこんな場所にはいないのに」


 そう。いくら雑魚とはいえ人を襲う。つまりこのままでは。

 気づけば目を覚ましていた二人はごくりと喉を鳴らす。

 寝起きで意識が覚醒しきっていないせいもあるだろうが、落ち着いているのは立派だ。俺が以前やったゲームには、


「そうだ。みんなよく落ち着いている。騒げば騒ぐほどあいつらは近づいてくる」


 ダギルさんが言っていることと同じようなことをいっているものがあった。ゲームであるがゆえ設定上のことなのだが実際に役に立つとは。

 だんだんと意識がクリアになってきたのか、落ち着いてはいるが二人の顔は青ざめていく。


「何か手は……?」


 一応この馬車には武器が乗っているがそれはあくまで、刃リスのような小型の魔物を追い払うためで、ましてゴブリンなんて相手にできない。冒険者という魔物討伐を生業とするものならあるいは。

 だったら、


「俺が行きます」

「え?」

「俺が外に出てゴブリンどもを倒してきます」


 そういう俺の声は震えている。身体だって。これからしようとしていることは死と隣り合わせなのだから。

 なにより俺が転生を志した理由。人の役に立ちたい。魔王討伐はできなくても魔物の討伐なら。

 

「でもユウトは冒険者じゃないんだろ? いくらなんでも危険すぎる」


 確かにその通りだ。ましてや俺のステータスは最弱。戦い方だって知らない。辛うじてゲームで得た知識があるにしても実際に体を動かしてみたことはない。

 それでも誰かがやらなければ皆共倒れとなってしまうかもしれない。だったら俺が。


「心配してくれてありがとうございます。でもこれから冒険者を目指すつもりなんです。多少順序が変わるだけ。それに冒険者になる前に魔物を倒してことがあるなんてカッコよくないですか?」


 自分を鼓舞することも含めた言葉とともに力強く笑みを浮かべて見せる。


「これ借りていきますね」

「あ、ああ」


 そして俺は端に置かれている鉄製の剣を手に取る。ズシリをした重さが感じられる。触れないことはなさそうだが、何度もはきつそうだ。最弱ステータスだから最悪持つことさえままならないか心配したが何とかなった。

 意識を馬車の外へと向ける。顔を外へ出してみると闇の中にギラリと目が見える。すくむ足をたたき外へと出る。

 見えた眼光は六つ。単純に考えれば二つで一体として三体のゴブリンがいるということ。

 外へ出てきた俺を見止めるなり近づいてきた。剣を持っている俺を警戒してか歩みは遅い。

 こちらからは何もしないと見るや、一体が馬車の前に出てきた。ゴブリンは集団で動くものだと思っていたが俺をだいぶ下に見ているのか、なんにせよ一体だけなのは幸いだ。

 そのゴブリンは蛮刀を手にしている。数秒の間にらみ合いが続き、先に動いたのはゴブリンだった。叫び声を上げながら迫ってくる。

 俺は重い剣をなんとか振り蛮刀と交差させる。ゴブリンの力を相まって剣の重さが何倍にも感じられる。


(このままじゃ押し込まれる!)


 そう判断した俺は剣に全体重をかける。あげっぱなしにしている腕が悲鳴をあげ始める。

 重さを増した鉄剣は蛮刀をジリジリと押し込んでいく。


「はあぁぁぁぁああ!!」

 負けじと声を張る。数秒の末。ついに耐えられなくなったのはゴブリンの持つ蛮刀。破砕の音を立てて半ばから折れた。

 鉄剣はそのまま勢いのままゴブリンへと降りりかかり、肩口から身体を縦に切り裂いた。


「グアァァァァァァアア!!!」


 絶叫を上げる目前のゴブリン。異様なにおいを放つどす黒い赤色の血が大量に地面に広がっていく。

 激痛となぜこうなったという混乱が合わさり、そのゴブリンは絶命した。

 

「はあ、はあ」


 地面に突き刺さった剣に手をつき肩で息をする。視界を埋め尽くす血。吐き気を催しそうな光景になぜだか何も感じない。意識がもうろうとして、満ちるのは爽快感・・・


「大丈夫か!?」


 ダギルさんの声が後ろから聞こえてくる。ゴブリンの絶叫を聞いて出てきたのだろう。


(うっ。俺は何を考えて)


 彼の声で我に返る。改めて目下の凄まじい光景を目にすると吐き気が催してきた。気づけば全身に返り血浴びている。


「このにおい。さっきの鳴き声と言い、まさか」


 近づいてきたダギルさんは凄絶なゴブリンの様に茫然と立ち尽くす。


「なんとか、なり、ました」


 ダギルさんへそう言って見せると同時。急に全身の力が抜けていく。剣に寄りかかろうとするも腕の力も入らず。

 後方へと背中から倒れた。


「おい!しっかりしろ!」


 遅れて聞こえてくるダギルさんの声。ほどなくして意識はブラックアウトした。


約一週間ぶりとなってしまいました。

遅筆すぎますね(笑)

ほかにもやりたいこと(ゲームや部活のための体力付け、筋トレなど)が多くどうしても時間がうまく取れない...。ほんとに他の作者様たちはすごいですね

僕も頑張らなくては...!

ブックマーク等よろしくお願いします!

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