1章―1 転生
眩い閃光の先で開けた視界が初めに視認したのは黒い空間だった。どこかから光が入り込んでいるわけでもないのに、この空間は明るい。もしかして死後の世界なのかと思ったが、そんな疑問はすぐに払拭された。※誤字というわけではありませんが、言い回しがどこか不自然だったため、直させてもらいました。
「ようこそいらっしゃいました」
背後から聞こえた声に振り向くと、そこには神々しい光を纏った女性が宙に浮いていた。羽衣を身にまとっており、告げた言葉同様に歓迎するように両腕を広げている。
「ここはいったいどこですか? あなたはいったい……」
「そうですね。いきなりのことで混乱していらっしゃることかと思いますので、ひとつづつ疑問に答えていきましょう」
そういって疑問に答えてくれた。
まずここはどこか。ここは世界と世界の狭間。生と死の間なのだそうだ。つまり俺は死んでいるということだ。ここでは死した人間の行く末を決めるらしい。
そして彼女はそれを決める女神。これまで何人もの人々を導いてきた。これから俺の行く末も決められるというわけだ。
「行く道ですが、主に二つ。魂を天に送り安らかに眠る。もしくは、異世界への転生です」
「転生ですか!?」
俺は思わず聞き返していた。転生者って言ったら生前読んでいた本ではチート能力を持っているのが通例だからだ。そんな能力を持っていたら俺だって。
「ええ。貴方のいた世界ではたいへん人気なジャンルのひとつのようでしたね。異世界転生をお望みですか?」
「はい!」
まさかこんな形で叶うものだなんて考えてもいなかったが、願ったり叶ったりのこのチャンスを逃す手はない。俺の即答した。
「……そうですか。過酷な道ですけど大丈夫ですか?」
「え、ええ。大丈夫だと思います」
ん? 初めにあった間はなんだ? 過酷と言われると委縮してしまうが、父親の期待に応えようと頑張っていた日々も今思えばだいぶ過酷な道を辿っていた。褒められたいがために頑張っていた俺はそれに気づかなかった。それに転生者が持つチート能力があれば多少のことは余裕で乗り越えられるはずだ。
「当人の判断を最優先するのが決まりですのでそのようにいたしましょう」
少しお待ちをと言い残し姿を消した。うーん、女神さまは終始笑顔を絶やしていなかったが、あの笑顔には不安、心配の色が見えた。それが悩みの種であるが、何とかなると信じよう。
その後女神さまが再び姿を現した。俺の異世界転生の手続きを行っていたようだ。
「というわけで、シロガネユウトさまは正式に転生なさることになりました」
本で読んだ異世界転生は気づいたら見知らぬ土地にいた、っていう設定が多かった気がするがここではだいぶリアリティがあるな。異世界へ行くというのに現実味を帯びていて少し拍子抜けだ。
「転生される前に通過儀礼として、シロガネさまのステータスを伝えさせていただきます」
待っていました! ついに俺のチート能力がわかる! あからさまに喜んでも恥ずかしいので歓喜の感情は胸の内にとどめておこう。各能力値もさぞ高いことだろう。
だがそんな期待は一瞬で打ち砕かれることとなった。まさしくフラグというやつだったのだろう。
「たいへん申し上げづらいのですが、シロガネさまのステータスは
過去最低の最弱です」
「……え?」
過去最低? 最弱? 二つの言葉が俺の頭の中をこだまする。ああそうか、あの時の間はそういうことだったのか。
「転生者ってのはだいたいすごい能力を持っているんじゃないんですか?」
「そうですね。今まで私が担当してきた方々は大半の方が強力な能力をお持ちでした。で、でも大丈夫ですよ! 低かった方もいないわけではないので!」
「でも最低最弱なんですよね?」
「……残念ながら」
俺は夢を描きすぎていたのかもしれない。そりゃ生前あんなだった俺なんだからそう上手くもいくはずないよな。
「転生者の方々の最終的な使命は魔王討伐ですが、ステータスの低い方々は特例として普通に暮らすことも許されていますので、安心して異世界生活を送ることは可能ですよ!」
慰めるようにそう言ってくれる女神さまはとても優しい方なんだとわかる。確かにステータスの低い俺では魔王討伐なんて夢のまた夢だろう。俺だって魔王討伐をしてやろうと思っていたわけではないからしなくていいのならそれに越したことはない。でも、
「……やります」
「え?」
「魔王討伐は無理かもしれないけど、魔物の討伐も皆の役に立ちますよね?」
「ええ、それはもちろん。一般市民にとっては小さな魔物でも脅威ですから」
「だったらそこから。いつかは魔王討伐も夢見てやります!」
チート能力はないかもしれない。でももし生前はできなかった、人の期待に応える、役に立てるなら!
「そうですか。そこまで決意したのなら私は止めません。応援します!」
「ありがとうございます!」
「ただやっぱり不安なものはあるので」
そう言ってまた姿を消した。そして先ほどより少し長く待ってから女神さまは戻ってきた。
「おまたせ致しました。前例のないことなのでいろいろと手間取ってしまい、結果的にはあまりお役には立たないかもしれませんがこの子を」
この子? どういうことか考える前に答えは出た。
宙に浮いていた女神さまはゆっくりと俺と同じ高さまで下がってくると地―この空間の素材はわからないため地が正確かは判断できないが―に降り立った。そして自分の背の後ろへ振り向いて何やら話している。少しして女神さまの後ろから人影が見えた。背格好は俺より数寸低く、肩ぐらいの長さのセミロングの髪は春を思わせる鮮やかな桜色をしていて、かわいらしい顔立ちをしている。俺の姿を見止めるなりささっと女神さまの後ろへと身を隠してしまう。
「こら、だめでしょ。初めてのあなたの役目なんだから。ほら」
そう促された少女は恥ずかしそうに俯きながらも前に出てくる。
「すみませんシロガネさま。この子はエイルといいます。見習いの女神なのですが人見知りでして。この子の成長も兼ねてシロガネさまにつかさせていただきます」
「そちらの女神さまがついてくださるんですか? 俺にとってはうれしい限りですよ!」
まさか女神さまが一緒に来てくれるだなんて最高じゃないか! 見習いというのは気になるが、ひとりよりは断然心強い。何より可愛いし。
「それでは時間も押していますので早速転生していただきます。転生した後のことはエイルにきいてくださいね」
「そんないきなり、え?」
足を踏みしめる感触がなくなり、下を見てみると、ぽっかりと穴が開いていた。
「それでは魔王討伐を目指して頑張ってください。よい異世界生活を!」
「おわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
俺と彼女、女神エイルさまの悲鳴が響き渡った。
昨日に引き続き、読んでいただいた方、今日から読み始めた方どちらもありがとうございます!
やっと始まった物語ですが引き続き読んでくださるとうれしいです.
ブックマーク、感想、ポイント待っております!