序章 終わりと始まり
続きは早めに投稿したいと思いますので良かったらブックマークしてお待ちを!
「おまえはどうして兄たちのようにできないんだ」
「兄を見習いなさい」
これまで幾度となく言われてきた言葉だ。
両親からは特に多く。家族に限らず、兄さんたちと俺のことを知る人たちも、兄さんたちと俺を比べてはよく口をそろえて言った。
二人の兄さんはどちらも秀外恵中で運動も全国大会へ行けるほどであり、俺はそんな兄さんたちに憧れていた。
俺も小さかった頃は優秀な兄さんたちの弟だからと、期待されて育った。俺自身兄さんたちのように立派な人になりたいと思っていた。期待されるのはプレッシャーでもあったが、当時の俺はそれ以上によくできたなと褒められるのが嬉しくて頑張っていた。
いつしかその期待は当たり前になっていた。
「そんなことはできて当たり前だ」
頑張ったよと、こんな賞を取ったよと言ってもそう返され、褒められることはなくなっていた。そうして俺の思考も段々と、兄さんたちができたのだから俺もできないといけないというふうな洗脳めいたようになっていった。そんな日々の中のある日、俺はオーバーワークで倒れた。その時見た父親の顔は、こんなものかと呆れているような気がした。
翌日から父親は興味を失ったように俺には見向きもしなくなった。優しい兄さんたちは心配する視線を向けてくるが何か言われているのか、それ以上は干渉してこようとしなかった。そして気づいた。俺はもう用済みなのだと。できて当たり前のノルマもクリアできなかった俺はできそこないなのだと。
それからは何をするにしてもやるきがでなくなった。学校にも行かなくなったが、親は何も言ってこなかった。一日の大半を自分の部屋で過ごすようになり、食事はもちろん一緒に取ることはなく、毎週月曜日の朝にリビングの机の上に置かれるお金で買って食べた。今までは期待にこたえたいがために自分のしたいことをしてこなかったので、娯楽系統のものに触れてみようと思った。ゲームをしたり、漫画や小説を読んだり、音楽を聴いたりと様々なことをしてみたが、何にしてもすぐに飽きてしまった。
ただ、その中でも主人公が皆から必要とされ、その期待に応えるように戦っていくようなものは自分が辿りたかった道のようで少しハマった。この主人公のようにチート能力があれば俺も皆の期待に応えて兄さんたちのようになれたのかなと。
「ん? ああ、もうなくなったか」
暇つぶしに菓子片手にネットサーフィンをしていたある日、包装のなかへ伸ばした手が空虚掴んでいることに気付いた。仕方がない買いに行くか、と重い腰を上げて椅子から立ち上がる。決して太っているわけではなく、運動をろくにしていないがゆえだ。誰もいない昼間のリビングを抜けて玄関から靴を履き外へ出る。ふと空を見上げるとどんよりとした様子がわかった。そういえばさっきみたニュースの中に、これから雨が降るって言っていたか。そう思ってドア横の傘立てから適当に傘を取り出してコンビニへ向かった。
日々いろいろな魅力的な商品が並ぶコンビニで今日もまた、長く悩んだ末ようやく買うものを決めて会計を済ませて外へ出る。するとすでに雨が降っていた。思いのほか悩んでいた時間は長かったようだ。しっかりと傘をさし、買った商品が濡れないように気を付けながら歩く。
歩いているとどんどんと雨脚が強くなっていき、次第に雷も聞こえてくるようになった。
「ああ、どうせ俺がいる意味なんてないし、ここで雷にでもあたって死のうかな」
本気と冗談半々ぐらいのつもりで呟いてみる。いや、本気のほうが強かった。兄さんたちのようになれなかった俺は誰にとっても無価値なのだろう。だったらここでもう終わっても構わない。
ひとつ望みがあるとすればそうだな……もし来世があるのならチート能力のようなものを持っていて、人の期待に応えられるようになりたいな。
そんな夢のようなことを考えながら、突如視界を真っ白に染めた光と耳を劈く轟音とともに、俺の意識は途絶えた。
異世界転生系の話を試しに書いてみようと思い投稿しました!
メイン小説ではないため今のところはどのくらいの頻度で投稿するかはわかりませんが、思い着き次第投稿するかもです