一人目、二話
異常だ。この状況が異常すぎる。俺は間違いなく死ぬ。それは理解できる。だが、異常犯罪者ってなんなんだ!? 俺が犯罪者だと? 俺にそんな記憶はない。
いや、待て。そんなこと考えている暇はない。自殺しろってことだよな。ここには何もない。高さも五メートルしかないなら上って飛び降りることも不可能。
「何で俺がお前の言うことをきかなければいけないんだ! 」
『……』
返事は返ってこなかった。そんなことわかりきっていた。どうせコウは何も言わないさ。
『あと七分』
スピーカーから聞こえたのは、俺を急かす声だった。
「これは木箱なんだよな? 壊せばいいのか」
俺がせっかく名案を思い付いてそれを言ったのに、実行しようとすると、コウに遮られた。
『言っとくけど、水が入るように木の繋ぎ目に隙間はあるけど他は超合金でおおってるからね。鉄より固いから素手では到底壊せないよ』
見事に対策済みか。死なせるつもりもないし、ここから出すつもりもないってことか。
「おい、死んでくださいって言っても、死ぬ方法なんかあんのかよ! 」
『……』
どうせ無言だ。そう思ってた。が、返事はきた。
『一つだけある。貴方が苦しみ続ければいい。そうやって時間を無駄にし続ければいいんだ』
は? 苦しみ続ければいい? どういうつもりだ? 時間を無駄にしていたらいずれ時間切れになり、俺は殺される。
「それは時間切れでお前に殺されるってことか? そうなのか? 」
『違う。自殺だ』
「ますます意味がわからない! なあ、お前みたいなガキがどうしてこんなことするんだ! 」
『……』
やっぱり無言だ。本当に俺が、いったい何をしたというんだ。俺はなにもしていないはずだ。何度考えても記憶にない。
『あと五分』
いつの間にか、残り時間もあと五分になっていた。俺は、こいつの言うことをきかなければならないのか? こいつの言うことをきいて死ぬか、きかないで殺されることしか俺にはできないのか?
マイナス思考しか出てこなくなる。これが死の恐怖なのか? それとも、こんなガキに殺されることに対する屈辱感か? 俺は、先輩に言われたから、だから仕事をしていた。本当にただそれだけなんだ。
『あと三分』
「なあ、答えてくれよ。俺のどこが犯罪者なんだよ……」
半分、泣いているかのような声になっていた。でもその事に関してはもうどうでもいいんだ。俺は、大学を卒業して、就職して……それからはずっと先輩の手伝いに尽くしてきた。仕事以外には趣味も持たずに一生懸命やって来た。いったいどこが犯罪者だというんだ。
『……はぁ。貴方のしてきた仕事が何のためだか知らなかったのかい? 正しくは異常犯罪者って言うのは貴方じゃなくてその先輩のことだね』
は? 俺じゃないのか?
「何で俺がこんな目にあわなければいけないんだ! 俺は犯罪者じゃあないんだろ? 早くここから出せよ! 」
『いい加減にしな! あんたのせいで何人が死んだと思ってんだ! 』
ピピピピピピピ
タイマーのようなものの音が聞こえた。コウがいるところに付いているのだろう。もしかすると、もう時間なのかもしれない。そう考えるだけでコウのさっき言った言葉もろくに頭に入ってこない。
『あと一分』
冷静に戻ったコウの声が再び聞こえてきた。俺がいったい何をしたというんだ。俺が人を殺したなんてことありえない。
俺は、人殺しじゃない。
『時間だ』
コウの短い一言が聞こえた。その瞬間、絶望からか、意識が遠退くのを感じた。いや、あの空気穴から何かガスが出てきていたのだ。恐らく、海に沈める間、騒がないように眠らせたのだろう。
俺は、死ぬのだ。どうして異常犯罪者呼ばわりされたかもわからないまま、コウという謎の少女 (? )に殺されるのだ。
本当に、何が悪かったというんだよ……。
犯罪者に犯罪者呼ばわりされる、最悪な最期だった……。
次から二人目に入ります。松成奏はゲームでいうチュートリアルなので、かなり短い方です。ただし、これより短い人がいないとは限らない。何人いるかは秘密です。二人かも知れないし、百人かもしれません。では、また。