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第7話:最強教師は合宿を企画する

 一週間後の放課後。

 俺はヴィーナ学院長の呼び出しを受けて学院長室を訪れていた。

 扉を三回ノックする。


「リオン・リーリルです」


「入れ」


「失礼します」


 扉を開けて学院長室に入る。ヴィーナ学院長は豪奢な椅子に腰かけ、ニヤニヤと唇を緩めていた。彼女が肘をついている木製の机には、数枚の報告書が並べられている。

 俺の他に呼び出しを受けた者はいないらしく、部屋には俺とヴィーナ学院長の二人きり。机の前まで歩みを進め、直立姿勢で言葉を待つ。


「そう(かしこ)まることはない。私と君の仲なのだからな。うむ、コーヒーでも入れてやろう、そこの応接セットに座っていてくれ」


「では、お言葉に甘えて」


 すぐ隣に設置されている応接セットのソファーに腰を落ち着ける。高級感のある黒のソファーが二脚。その間にはガラス製の机がある。来客用に凄腕の職人に作らせたものだと聞いたことがある。この椅子もふかふかではあるが、余計な沈み込みがなく最高の座り心地だ。


 ほどなくしてヴィーナ学院長がコーヒーを淹れたカップをトレイに乗せてこちらにやってくる。

 スプーン二杯の砂糖を入れたカップを俺に渡すと、彼女はブラックコーヒーを啜った。コーヒーはあまり好きではないのだが、せっかく淹れてくれたのだから飲まないのも悪い気がする。

 俺は一口だけコーヒーを飲んでから、ヴィーナ学院長に訊ねた。


「それで、俺を呼んだのはどういったご用件で?」


「うむ、リオンがレイラルドを懲らしめてくれたということで労おうと思ってな。あいつはなかなかの問題児でな。性根が腐ってはいるが結果を出しているだけにどうにもならなかった。お前のおかげで少しは反省しているようだぞ?」


「俺は懲らしめようと思って決闘したわけじゃないですけどね」


 あの時はメリナを取り戻すために必死だったのと、レイラルドに怒りをぶつけていただけだ。奴を反省させようとか、学院のことを思ってやったわけじゃない。


「まあいい、本題に入ろう」


 ヴィーナ学院長はコーヒーを一気飲みしてから話し始めた。


「それで問題のレイラルドなのだが、ちょっと黒い噂が流れていてな」


「具体的には?」


「最近巷を騒がせている反王政組織『黒神教会』というのを知っているな?」


「先月に姫を拉致しようとしたアレのことですか?」


「そうだ」


 黒神教会は現王政の転覆を狙うテロ組織だ。やることがかなり過激で、王と親密な関係にある貴族を虐殺したことで広く知れ渡った。先月にはエルネスト王国の姫への拉致未遂があった。幸いにもその場で実行犯は捕らえられたが、拷問に掛けても口を割らないという。


「レイラルドがその組織と何らかの関りがある可能性がある。リオンには監視を頼みたい」


「なんで俺に頼むんです? どうしてもというならレイラルドを解雇すればいい」


「確たる証拠がない限りはこちらも動けないのだ。それなりに教師としては優秀だからな」


 ヴィーナ学院長の言いたいこともわかるが、そんな面倒ごとを頼まれても困るというのが本音だ。業務命令なら断れないが、彼女は一言も命令とは口にしていない。つまり、俺が引き受けるかどうかは自由だ。


「頼む……リオン。私には君しか信頼できる者がいないのだ。どうしてもと言うなら……」


 ヴィーナ学院長は俺の座るソファーまで移動すると、腕を絡ませて密着してくる。甘い吐息が耳に当たって、ドキドキした。これ以上はヤバい!


「わ、わかったから! 監視は引き受ける! だけど、本当に監視するだけだぞ!」


「ありがとう、本当に助かるよ、リオン……」


 はぁ、厄介ごとを引き受けちまったな。とはいえ、噂は噂だ。レイラルドが変な組織と関りを持っていない可能性も十分にある。あまり気にしないことにしよう。


「では、失礼します」


 学院長室を出ようとしたその時。


「待て、一つ言い忘れていたことがある」


「……?」


「来月の中頃に新入生対抗試合があることは知っているな?」


「入学してから一か月時点の実力を競うクラス対抗形式の催し……と理解していますが」


「うむ、その通りだ。リオンがそこで優勝すれば私のポケットマネーで超高い焼肉をご馳走してやろう。一度の食事でお前の給金の半月分はするくらい高価なものだ。ふふっどうする?」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。


「マ、マジですか?」


「もちろんだ。私は嘘をつかない。レイラルドの件で君には働いてもらうのだからな。その代わり優勝が条件だ。たとえ二位でも何もなし! だが、負けてもペナルティは無いから超お得だぞ」


 俺はヴィーナ学院長の手を握った。


「もちろんやらせていただきます。リオン・リーリル、必ずE組を優勝に導きます! ……じゅるり」


「そうかそうか! では頑張ってくれたまえ! 期待しているぞ」


 ◇


 翌日の朝。授業開始のチャイムが鳴ったことを確認して、口を開いた。


「あー、唐突なんだが、今日から一週間合宿をする。ということで今から寮に戻って荷物を詰めろ。一時間後に外で集合な。以上!」


 今日も魔法式の暗記をするつもりだった生徒たちは、皆が唖然としていた。無理もない、今まで一度も合宿をするなんて匂わせたことがなかったのだからな。

 さっき決めたので、俺ですら準備できていない。


「せ、先生! いくらなんでも唐突すぎませんか!? まだ魔法式の勉強も中途半端だし……」


 メリナがいつものように正論をぶつけてくる。うーん、どうしようか。


「来月に新入生対抗試合があることは知っているよな?」


「それは知ってますけど……」


「とりあえずそこで優勝させることにした。……ということで、魔法式の勉強は基礎まで終わったから、次は実戦の練習ってわけだ。お前らも少しは強くなった実感がほしいだろ?」


「な、なるほど……! 新入生対抗試合で優勝させることで私たちに自信をつけさせて更なるモチベーションアップを狙っているということなんですね! さすがはリオン先生ですっ!」


 『おおっ!』『さすが!』『すごい!』とそこかしこから聞こえてくる。

 もちろんそんなつもりはなく、ヴィーナ学院長から優勝のボーナスとしてご馳走してもらえるという高級焼肉のために張り切っていたのだが……言えないな。


 ◇


 タオルと水筒、着替え、歯ブラシセット、ナイフ、ポーション、鈴……と、こんなもんか。

 食料と水は自給自足で賄うので、持ち物はそれほど多くない。大きめのバッグに詰め込むと、俺は教員寮を出た。


 教員寮の隣に建っている学生寮の前には、E組の生徒たちが既に全員集合していた。


「よし、全員集合しているな。この合宿の目的はさっき言った通り、新入生対抗試合に向けての特訓だ。場所はこの学院から三十キロ離れた【イリス平原】で行う。皆知っての通り、危険な魔物も住むエリアだ。常に周りには注意するようにな」


 イリス平原と聞いて、生徒たちの表情が変わる。この平原には中級の魔物が多数潜んでおり、油断していると手練れの魔法師でも命を失うこともある。今から行く場所は命懸けなのだと、この場の全員が理解していた。


「よし、今が十時だから……着くのは十二時くらいだな。早速行くぞ。……ってどうした?」


 女子生徒の一人が、必死の形相で訴えていた。


「二時間で三十キロって正気ですか!?」


「何を言う、普通の人間でもそれくらい走れるんだ。荷物を持ってはいるが、大して変わらん」


「そ、そんな……無茶苦茶です……!」


「文句を言うんじゃない。これだって良い修行になるんだぞ? A組をギャフンと言わせたくないのか?」


「そ、それは言わせたいですけど……」


「なら、頑張ってついてこい。いくぞ」


 気が進まない様子の生徒を煽り、歩みを進めた。

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