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第5話:最強教師は取り戻す

 勝利を確信したレイラルドは、俺の提案を快諾した。この決闘を受けさせるかどうかが勝負だった。奥の手も考えていたのだが、あっさりと受けてくれたおかげで手間が省けて良かった。


「まさかここでやるつもりなのかね?」


「何か問題があるか?」


「いやいや、俺には何の問題もないんだが、生徒の前で二度も醜態を晒すのは可哀想だと思ってね。先輩からのささやかな気持ちだよ?」


 いちいち挑発するようなもの言いをしてくる。いまさらキレるほどのことでもないのでスルーを決め込んだ。


「審判、すまないがもう一試合やってくれるか?」


「は、はい! 大丈夫です!」


 観客席から「おおおおおおおっっっっ!」と歓声が漏れる。

 教師同士の本気の戦いを見る機会は非常に少ない。年に一度のメルヴィン歓迎祭以外では見たことがない生徒もいるはずだ。

 ……もっとも、俺は本気を出すつもりなどないのだが。


「リオン・リーリル先生とレイラルド・ルーカス先生の決闘を開始します!」


 審判の宣言で決闘が開始される。


「五秒だ」


 俺からの言葉にレイラルドは訝し気な目を俺に向ける。


「五秒で俺を倒そうっていうのか? 舐められたもんだなァ!」


「違う」


 何を勘違いしているんだこいつは。こいつが勝つことはありえないのだから、せめてもの情けとして悪あがきさせてやろうというだけのことなのに。


「俺は五秒間、ここから一歩も動かない。俺がここから一歩でも動けばその場で敗北宣言(リザイン)してやろうと言っているんだ」


 レイラルドの顔面に青筋が浮き出し、ピクピクと痙攣する。


「な、なにを……! このクソガキ、ぶっ殺してやるっ!」


 レイラルドは【火斬球】を同時に二発発射し、正面と背後から俺を挟み撃ちにする。

 ……こいつ、馬鹿じゃないのか?

 二発を同時に撃つということは、一撃の火力が分散するということだ。算数程度の理解があればやらない。実際、十五歳のメリナでもやらなかった。


 俺は抑えていた魔力を少しだけ発散し、【火斬球】に応戦する。【火斬球】は俺の魔力に力負けし、形を失って霧散する。


「おいおい、まさかこれがお前の本気じゃないだろうな? 攻撃が当たってすらいないぞ?」


「なっ……嘘だろっ!」


 レイラルドは顔面蒼白になった。一歩後ずさる。


「あと二秒だ。時間がないが、どうするつもりだ?」


「く、くそっ!」


 レイラルドは慌てて【剣製】を発動。炎を纏った剣が発生する。【火滅】を同時に発動し、俺に斬りかかる。【火滅】はメリルの使っていた【風滅】の属性違いの魔法だ。効果は同様に、概念を切り裂く効果がある。俺を殺す気で攻撃してきたというわけだ。


「なあ、レイラルド。火は水に弱いって知ってるか?」


 俺はE級魔法【水生成】を発動し、手の平から水を噴射する。狙いはレイラルドの剣だ。俺の噴射した水が当たるや否や、レイラルドの剣はスパッと真っ二つに斬れた。形を失った剣は光の粒子なり、虚空に消滅する。


「な、なにをやりやがった!? ただの水で俺の剣が斬れるわけがない! ふ、不正だ!」


「無知もここまで来ると恥ずかしいな。水圧って知ってるか? 科学の常識だぞ」


「か、科学だと!? 聞いたことねえよ!」


 ああ、忘れていた。この世界には科学がないんだったな。……まあ、知っていたところで勝敗には全く関係ないのだが。


「そ、そんなことよりお前、おかしいじゃねえか!」


「何がだ?」


「昨日は風魔法を使ってただろ! なんで水魔法を使えるんだ! 魔法の属性は一人の人間につき一つのはずだ! ま、まさか禁忌の魔道具を使ったのか!?」


 俺は左手の甲をレイラルドに見せつける。そこには『賢者』の文様が浮かんでいる。


「賢者は六大属性全てに精通し、強大な魔力を持った存在だ。お前ごときが知ったか知識で俺に勝てると思わないことだな」


「ろ、六大属性全てだと!? ば、馬鹿げている、そんなはずがない。ありえないっ!」


 レイラルドは明らかに狼狽していた。圧倒的な力量の差を見せつけられ、打つ手がないことを悟ったのだろう。


「さて、既に五秒は過ぎている。そろそろ反撃させてもらおうか」


「ま、待ってくれ! この決闘で負けてくれたら金はいくらでも払う! 約束する! 本当に、頼む!」


「それは魅力的な提案だな。……だが、お代が足りねえなあ!」


 メリルという人間の価値は決して金に換算できるものではない。発想はそれなりに良かったが、俺の心を動かすには弱すぎる。


「さて、歯食いしばっとけ!」


「ひ、ひぃぃぃぃいいいいっっっ!」


 ボディブローで身体を吹き飛ばし、決闘場の壁に打ち付けた。何本か骨が折れたかもしれない。加減はしておいたから、死ぬことはないはずだ。


「それで、試合結果は?」


「は、はい!」


 唖然としていた審判に結果発表を促す。


「しょ、勝者、リオン・リーリル先生!」


 俺はふぅと一息ついた。一仕事終えた後の達成感は気持ちがいい。

 無数の拍手と歓声に包まれる。俺はメリナの手を引き、決闘場を後にした。


 ◇


 第一決闘場から少し離れた校舎の影。そこでやっとメリナの手を離した。


「あ、あの……すみませんでした!」


 メリナは頭を下げ、俺に謝った。蒼い瞳に涙が浮かび、キラキラと輝いていた。


「なぜメリナが謝る?」


「だ、だって……私が勝手なことをして……そのせいでリオン先生に迷惑をかけて……」


 はあ……。

 なんて勘違いをしているんだこいつは。


「メリル、頭を上げろ」


 俺の一言で、メリナは肩を震わせながら頭を上げた。


「って――なんで先生が頭を下げてるんですかっ!」


「本当にすまない、俺が悪かった! もとはと言えば俺が撒いた種だ。あの時お前が後ろをついてきているのはわかっていた。あの時追い返していれば……お前とレイラルドが話しているときに駆け付けることができていれば……こんなことにはならなかった」


 俺は全力で頭を下げた。こんなにも誠意を込めて謝罪したのは生まれて初めてだ。


「でも、助けてくれたのもリオン先生じゃないですか」


 メリルの小さな手が俺の頭を撫でた。

 その刹那、何か柔らかいモノが触れた気がした。あれ……? なんか温かい……。


 顔を上げてメリナを見る。

 メリナはその小さな身体で、俺を抱いていた。


「おま……なんで?」


「私はあなたを許します。……だから、もう謝らないでください」


 メリルの俺を抱く力が一層強くなった。こいつはどこまでも実直で、優しくて、そして包容力まである。……まったく、適わないな。


「わかった。……この件はもう終わりだ」


 俺はメリナの腕を解き、彼女の頭を優しく撫でた。


「ちょっとは本気を出す気にはなりましたか?」


「……いや、それはどうだかな」

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