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第3話:最強教師は聞き流す

 決闘で俺の実力の一端を見せてからというもの、メリナの評価が大きく変わったらしい。


「……それで、決闘はどうする? 建物の崩壊で中断しているが、まだ決着してないはずだ」


 メリナとの取り決めは、どちらかの戦闘不能か敗北宣言(リザイン)により決着するというもの。引き分けはありえない。


「そのことなら私の負けです。あれだけの力の差を見せられて大きな口叩けないですよっ!」


「それならそれでいいが……負けたのになんか嬉しそうじゃないか?」


 メリナは笑みを隠そうとしているのか、終始ニヤニヤしていた。何があったんだろう?


「ふふっ試合に負けて勝負に勝ったとはこのことなんですね♪」


「どういうことだ?」


「内緒ですっ!」


 メリナは今日一番の笑顔で答えた。

 やれやれ、仕方がない奴だな。まあメリナが満足しているのならいいだろう。


「ところでリオン先生、この後お時間いいですか?」


「構わないが……どうした?」


 ◇


 メリナの提案で学院内の食堂で昼食を摂ることにした。掃除に関しては放っておけばいい。やらなくても良いというわけではないのだが、例外もある。メルヴィン魔法学院では生徒からの相談は教師にとって最優先事項なのだ。メリナからの相談は掃除を凌駕する。――以上、言い訳終わり。


 昼食は俺がラーメン、メリナはサラダを選んだ。

 二人掛けの席に腰を下ろし、顔を突き合わせる。


「それで、どうかしたのか?」


 スープを三口啜ってから話を切り出した。


「……それでは、一つお訊ねしますが、昨日のメルヴィン歓迎祭で、リオン先生は本気を出していませんでしたよね?」


 ああ、そのことか。

 しかし本当に俺の実力を見抜いたのか? それとも鎌をかけているのだろうか。情報不足ではっきりしない。


「手を抜いていたのは確かだが、レイラルドが強かったのも嘘じゃない」


 これも本当だ。俺との相対的な実力では比べるまでもないが、絶対的にはレイラルドも弱くはない。王国騎士団で上位に入れるくらいの実力はある。

 まあ、王国騎士団なんて()()()みたいなものではあるがな。


「それ、嘘ですよね?」


「ほう?」


 メリナは食い入るように俺の瞳を覗く。

 純粋な瞳を凝視するのが辛くなって、俺はそっと目を逸らした。


「あんなの勝負になっていませんでしたよ。リオン先生は始まりから終わりまで、一度も余裕のある身のこなしを崩しませんでした。……こんなの、大きな実力差がないとありえないことです」


「それで俺が強いと判断して教師に選んだというわけか」


「そうです」


 ふむ……。

 どうやら本当にメリナは俺の実力を見抜いていたらしい。この歳でA級の風魔法を使えるという時点で人を見る目があることは察していたが、これほどとはな。

 昨日のレイラルドとの戦いではどうせ大した生徒はいないだろうと思って実力を隠すことの注意を怠っていた。詰めが甘かったな。


「リオン先生はこの学院で一番の実力者です。多分、学院長よりも」


「それは違うぞ」


「え?」


 俺はラーメンを勢いよく啜る。

 それから、


「世界一だ。こんな小さな学院の中だけじゃなく、俺が世界で一番強いと言っている」


 箸をメリナに向けながら指摘した。

 俺の答えを聞いた瞬間、メリナの肩がブルっと震えた。

 しまった、ついつい魔力を少しだけ放出してしまった。……普段は抑えているんだがな。


「失礼しました。……まさかここまでとは思いませんでした。決闘場を破壊した時も本気を出されていなかったんですね……」


「そういうことだ。そして、俺の指導を受ければお前たちも必ず強くなる。……だから俺は授業をしない」


「ど、どうしてですか! みんな強くなるためにこの学院に入学しました。先生だって卒業生が出世すればそれが功績になるじゃないですか!」


「それが嫌なんだよ。出世、功績、勲章……これがうんざりだと言っている。そんなもののために強くなろうとするなんて間違ってる。普通でいい、普通で」


 俺は言い終わると同時に勢いよくスープを呷った。


「ご馳走様。話は以上だ。俺は仕事が忙しいからな」


 そう言い残して、俺はメリナと別れた。


 ◇


「さて、面倒だが教科書を取りに戻るか」


 今日の授業で初めて教科書を確認した。くだらない書物でしかなかったが、職員室に置いたままだと文句を言われるかもしれない。あんなものを読む時間があればランニングしたほうが何万倍もマシなのだが、権威主義者はどうやら教科書を神格化しているらしいので、無用なトラブルの種は除いておいたほうがいい。レイラルドがその手のタイプらしいからな。


「おやおや、リオン先生じゃないか。掃除が終わっていないようだがこんなところで油を売っていたのか?」


 職員室に向かう途中にレイラルドに声を掛けられた。彼の手には一冊の教科書が握られている。その教科書は既に何度も読み返したのか、ボロボロになっていた。

 本当にいつも意地の悪い顔をしてるな。


「言っておくがサボったわけじゃないぞ。生徒から相談を受けたものでな。時間も時間だし今日の掃除はその場で終わることにしたというだけのことだ」


「貴様のような無能教師に相談をする生徒がいたとは驚いたな。昨日の決闘で君が私に成す術なく敗北した姿を見ただろうに。第五希望で仕方なく君のクラスに配置されたのだろうが……ああ、本当に可哀想だ!」


 レイラルドはワザとらしく手を左右にひらひらと振りながらのたまう。


「言いたいことはそれだけか? 俺は忙しいんだが」


「何を言う。貴様は教科書を職員室に置いてきているだろう。教師たるもの一秒たりとも学びを止めないものだ。……ふふっ君に貶すつもりはないが、つまるところ君は教科書を読む努力すらしていない。つまり暇を持て余しているということだ!」


「……何を勘違いしているつもりか知らないが、教科書云々の話はどうでもいい。お前と話す時間が無駄だということだ。お前も俺と話している時間で教科書でも読んでいればいいんじゃないのか?」


 俺の返答に、レイラルドの顔が怒りで真っ赤になる。

 挑発したのではなく、心からの親切心で教えてやっただけなのだが、どうやらレイラルドの逆鱗に触れてしまったらしい。

 ほんと沸点低いな、こいつ。


「貴様ァ! 先輩に口応えしてんじゃねえぞっ! ああ本題に入ってやろうじゃねえか。ずばり、メリナ・マウリエロをどうやって引き込みやがった!」


「は? メリナがどうしたんだよ」


「とぼけてるんじゃねえ! 今年の主席入学者がカリスマ教師の俺ではなく、無能のお前のクラスを希望したって話で持ち切りになってるんだ! お前が何かやったんだろ? 金か? いくら渡した?」


 どんどんレイラルドの顔が近づいてくる。気持ち悪いな。


「そんなもん知らん。生徒が誰を選ぼうが勝手だろ。自分の思い通りにならなかったからってキレてんじゃねえよ!」


「お前なんかを選ぶ生徒がいてたまるかよ! いつか暴いてやる! 震えて待ってやがれ!」


 レイラルドはそう言い残して俺の前から去った。

 やれやれ、あんな教師の教育を受ける生徒はたまったものじゃないな。


 俺は溜息をつき、職員室への道を回れ右した。

 道を戻って最初の曲がり角に向かって話しかける。


「メリナ、聞いてたんだろ?」


「……はい」


 そこには小さな金髪の少女――メリナが隠れていた。

 その声には震えが混じっていた。


「許せません、リオン先生にあんなこと……。確かに授業はまともにしてくれませんが、実力は学院一です。……それに、あんな暴言、教師失格です」


「実力に関しては広めたいわけではないからどうでもいいが、教師失格ってのは同感だな。……だが、今日のことは他言しないでくれ」


「なぜですか? あんな人を放置しておけば学院の品位が地に落ちますよ!」


「暴言程度では数日の謹慎で終わりだ。何の意味もない」


「それは……確かにそうですが」


「何かやらかしたときに今回のこともまとめて話せばいい。攻撃するときは一気に攻めろ。それまでは我慢するというのも大切なことだ」


「……それは魔法においても大切なことだ、ということですか?」


「そうだ――っておい!」


「ふふっ、貴重なご指導ありがとうございます♪」


 メリナの声にはいつのまにか震えが消えていた。可愛い小さな微笑みを浮かべて俺を上目遣いで見ている。してやったりとでも言いたげだ。

 はぁ、まんまとハメられたな。


「ちなみに、レイラルド先生を見返すためにも、本気を出す気にはなりましたか?」


「なるわけないだろっ!」

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