06 思い出を振り返る
ココアをおかわりした私は少しの冷静さを取り戻していた。
藤堂さ…秋ちゃんは皆気軽に秋ちゃんと呼ぶと言っていた。ここは客と店員との距離が近いお店なのか?
「あの…ここってお客さんと店員さんはお話したりすること多いんですか?」
綾子と談笑している秋ちゃんに疑問を投げかけてみる。
「そうよ。こういう特殊な喫茶店じゃない?大体来るお客さんも決まってるのよ。店長にもお客さんとこんな風にお話するのも仕事の一つよみたいに言われたわ」
「そうなんですか。だから他の店員さんもお客さんとお喋りしていたんですね」
冷静さを取り戻した時に他の席を見てみると、仕切りでよくは見えないがおそらく2席が埋まっている。
残りの店員さんがその席の所で談笑しているのが見えるからだ。
「お客さんの相手までお仕事のうちなら時給とかいいんですか?」
綾子が小声で秋ちゃんに尋ねている。
「そうね、この辺の時給の相場より数百円上よ」
「ほんとですか!?じゃあ結構高いですね…なんて素敵なバイト!」
「ふふ、そうなの。でも採用基準は厳しめみたいなの。詳しいことは店長にしか分からないんだけど、女装がある程度似合うようなタイプの男性が採用されてるわよ」
「あーそっかぁ。女装喫茶だもん、男性しか採用されないよね…いいバイトなのに…」
綾子はここでバイトする気だったんかい!
確かに凄く魅力的な時給だけどね!
「たまに女性も雇うことがあるのよ?普段は女装喫茶だけど、イベントで期間限定で男性の恰好…っていっても執事服なんだけど、給仕をするの。その時に雇ったバイトの女性に男装してもらうのよ」
「へー!いいですね!臨時バイトみたいな感じですか?」
「そうよ、その期間はもの凄い混むのよ。でも臨時バイトの人も決まった人が多いかしら。店長、執事服が似合う女の子がいないとこのイベントをする意味がないじゃない!って毎回店長の審査をくぐり抜けた子に臨時バイトの誘いの連絡をしてるみたいなの」
「拘りが強い店長さんなんですね」
「そうなのよ~。本当は女装・男装喫茶にしたいらしいんだけどなかなか男装が似合う子が捕まらないらしくて未だにここは女装喫茶のままなのよ」
店長さんは色々凄いな。この喫茶店もきっと店長さんの趣味が色濃く出てるんだろうな…。
そんな話をしながら秋ちゃんとの時間を過ごした。
至福の時である。眼福だった!
「段々暗くなってきたね、そろそろ帰る?」
「うん、そうだね。帰ろうか」
「今日はわざわざ来てくれてありがとうね」
「いえ、こちらこそ本、ありがとうございました!家に帰ってその日のうちに読み終えちゃいました!」
「私もよ!今回も面白かったわね~」
「はい!また是非、この感動を分かち合いましょう!」
「ええ、楽しみにしてるわ。二人とも、良かったらまた来てね」
「ぜひぜひ、来させていただきます!」
「私も、また来ます…」
貴方に会いに。
「ご来店、ありがとうございました。また是非、お越し下さい」
「ご馳走様でしたー!」
会計を済ませ、お店を出た。名残惜しいけど、また今度。
その後他愛無い会話をしながら綾子と一緒に帰った。また明日学校で、と言って別れた後、短い帰り道で今日の出来事を思い出す。
未だかつてない程驚いた一日だったけど、今日は宝物のような一日だった。嬉しくてつい、顔が綻ぶ。
秋ちゃんと話せるだけでこんなに嬉しいなんて。恋は人を狂わすっていうのは本当かもしれない。
今度は一人で行って、今日聞けなかったことを聞いてみよう。
私は次の休みに思いを馳せながら家に帰った。
※ ※ ※ ※ ※ ※
これが私と秋人さんとの出会いである。
何故秋人さんと呼ぶようになったのか、何故彼がオカマだと知ったのか。
それはまた今度、語っていこう。
私は今日もココアを飲みながら、秋人さんとの会話を楽しむのだった。
ストックがなくなったので不定期連載となります。
投稿時間は変わらず0時にしていきたいと思います。