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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
6/33

05 女装喫茶

 店内は木製の天井と床。壁は紺色。木製家具で溢れた温もりを感じる造りになっていた。

 席は全部テーブル席で、近すぎない位置におそらく5席ある。仕切りがあり、他の席が見えないようになっている。

 あまり大きなお店ではないが、それ程狭いという訳でもない、落ち着くくらいの広さ。

 家具はどれも品のいいものばかりで、お高いお店の雰囲気を醸し出している。


 店員は確認できたのが3人。皆紺色のロングワンピースに白いエプロン。

 昔のメイド服?みたいな服を着ている。多分制服だろう。そういう方針のお店なのだろうか。

 どうやらホールにいる店員は女の人ばかりのようだ。

 藤堂さんは厨房担当なのかな?


 にしても皆背が高い。私より高い人もいる。

 ここなら背が高くても私も目立たないな!


 藤堂さんに良く似た女性は私たちを見ると、嬉しそうに笑った。


「いらっしゃい、来てくれてありがとうね。席は用意してあるの。こちらへどうぞ」

「ありがとうございます!でも席を用意して下さってたんですか?」

「ええ、時間帯によっては満席になるし、私の知り合いを招くって店長に言ったら予約席にしてくれたのよ」

「なんかわざわざすみません…私の本のお礼の件で来たのに色々と便宜を図っていただいて…」

「いいのよ、私も楽しみに待っていたのよ。さ、こっちよ」


 綾子はその女性に招かれて後をついていく。


 待って。色々待って。

 ん?何か話の内容的に藤堂さんっぽいけど、え?服は古風なメイド服みたいなの着てるよ?


 私は混乱して入り口から動けずにいたら綾子が呼びに来た。


「裕ちゃん何してるの?こっちだよこっち」

「え?え?」

「ほらとりあえず席に行く!」


 ぐいぐいと腕を引っ張られてお店の一番奥の席に座らされる。


「川田さん、大丈夫?」


 そう心配そうに私を見るメイドさんの顔はどこか既視感がある。

 私は完全にフリーズした。


 待って?やっぱりこの人は…


「川田さん固まっちゃったけど、大丈夫かしら」

「あ、もしかして裕ちゃんここがどういう喫茶店だか気付いてない?」

「あら、川田さんに言わなかったの?」

「すっかり忘れてました」

「あらあら。だから固まっているのね。川田さーん?僕です、藤堂秋人です」



 …Oh,myGod!



「暫くこのままにしといてあげて下さい。今多分頭をフル回転させてますから。私はホットの紅茶を一つ。裕ちゃんは多分ココアで大丈夫です」

「かしこまりました。…ほんとに大丈夫?」

「大丈夫です、いつものことです。すぐ直りますから」


 藤堂さんは心配そうな顔をしたまま厨房があるであろう方へ向かった。


「ごめん、そういえば言ってなかったよね。藤堂さんが働いてるのは女装喫茶っていう変わった喫茶店だよ」

「じょ、女装…」

「看板で気付かな…かったみたいだね。おーい、裕ちゃん大丈夫ですかー?」

「か、看板…え?女装…?」

「駄目だこりゃ。容量オーバーだね」


 綾子が何やらブツブツ言っている。

 え?女装?女装喫茶?


 …やっぱりあの女性は藤堂さんだったのかー!!


 どうりで既視感あるわけだよ!あんな美形早々いないもんね!

 でもメイド服着てるしメイクしてるし、髪型も前より女性っぽい髪型してるし普通に女性だと思ったよ!

 

「お待たせしました。…少しは落ち着いたかしら?」


 藤堂さんがいつの間にか頼んだらしいドリンクを持ってきた。

 わーい、ココアだ。綾子が頼んでくれたのかな。好きなんだよね、ココア。

 ちょっと脳みそが疲れたし、甘いものでも飲んで糖分を補給しよう。


「ありがとうございます。すみません、少し取り乱しました…」

「いいのよ。こちらこそごめんなさいね。吃驚したでしょう?」

「あの…えっと…はい、かなり…」


 思わず思ったことをそのまま言ってしまった。

 失礼なことを言ってしまったのではないだろうか。女装喫茶に知らないとはいえ来たのは私なのだ。


「すみません、大変失礼な態度を…」

「そんなことないわ。ふふ、でも私だって気付かないくらい女性になりきれていたのかしら?」

「はい…最初は藤堂さんに良く似た女性だなぁなんて思ってました…まさか本人とは」

「あらあら嬉しいわ」


 本当に嬉しそうに笑う藤堂さんは、今見ても女性にしか見えない。

 ナチュラルメイクによって女性らしさの増した顔は完全に女性。髪型は少し短めのショートボブで、長い前髪を片方だけ耳にかけている。

 そして藤堂さんは男性にしては華奢で線が細い。私の兄と同じような体型をしている。顔は全然違うがな!

 背は高いが、背の高い女性にしか見えない。


 中性的な美形男性が本気を出すと凄いんだな。

 完全なる女性、いや女神だよ!


「ここでは皆に『秋ちゃん』って呼ばれてるから気軽に秋ちゃんって呼んでね。藤堂さんは嫌よ?」

「えっ!?」

「秋人だから秋ちゃん。ほら、呼んでみて」


 そうにっこり笑顔で私を見る藤堂さんからは呼べと圧力を感じる。

 なんなのだ!これは何の試練なのだ!

 うわーまただよこの圧力…。意外と押しが強いよ藤堂さん!


「あ、秋…ちゃん」

「その調子よ。私も裕ちゃんって呼ばせてもらうわね。よろしく、裕ちゃん」


 私はまた固まった。

 裕ちゃん。

 …裕ちゃん。


 神様仏様、私川田裕16歳は今、人生で一番この世に生を受けたことに感謝しています。

 好きな人に名前を呼ばれるこの威力!

 私は今日、興奮して眠れそうにありません!


「秋ちゃん、裕ちゃんがまたフリーズしたわ」

「あらまあ。よくフリーズするのね。本当に面白い子だわ」

「そうなんです。裕ちゃんは見てて飽きないんですよ」


 …恥ずかしい。またフリーズしてしまった。

 ココアでも飲んで色々一旦忘れよう。うん、そうしよう。


「ココア、おかわり下さい」



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