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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
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04 再会

 いよいよ藤堂さんの喫茶店に行く日。待ち合わせは午前10時に駅。

 今日は日曜日だから時間は沢山ある。なくても作るけどね!


 短いショートの髪は念入りに寝ぐせを確認。よし、はねてないな。

 服は未だかつてない程に選ぶのに時間をかけた。前日からそれはもう、悩みに悩んだ。

 そして選んだのは上は青いシャツにグレーのジャケット。下は黒いスキニージーンズにスニーカー。


 …男かよ!自分で言うのもなんだがもっと女らしい服はないんか!

 短い髪と少し男っぽい顔、背の高さも相まってほんとに男みたいになっている。


 あああ!なんで2日もあったのに服を新調しなかったんだ!

 こんなに女の子らしい服がないなんて!今までそんなに気にしたことなかったから盲点だった!


 あまり服に拘りがなく、兄のおさがりをありがたく貰っていたので服は男性物が多い。

 兄は男性にしては華奢で、身長も私より少し高いくらいなので違和感なくおさがりを着こなせていた。


 それが仇になった。

 今日の服もジーパンとスニーカー以外は兄のおさがりである。

 Oh!オトコモノノフク!

 次に藤堂さんに会いに行くときは絶対女物の服を着ていこう。そう強く決意した。




 意気消沈しながら綾子との待ち合わせ場所に向かう。

 綾子はもう来ていたようだ。


 春らしい、黄色いパステルカラーの膝丈スカートに小さい花が散りばめられた花柄のTシャツ。

 そこにベージュのジャケットを羽織っている。

 風に靡く胸まである髪は栗色でふんわりとしている。顔は綺麗なお人形のようだ。

 こちらに気付くとにっこりと微笑み、嬉しそうに目を細めた。

 いやん、女の子だ!女の子がいる!


 それに対して私の恰好…男かよ!

 私の身長は167cm。綾子は女性としては一般的であろう158cm。結構身長差がある。


 そこに右手をあげながら向かう私はさながらデートの待ち合わせに少し遅れてやってきた彼氏だな!

 完璧カップルだよ!悲しくて涙でそう!

 ただでさえ男みたいな自分に落ち込んでいたのに、更に落ち込んだよ!

 でも可愛い!綾子天使!朝から眼福である!


「おはよう、綾子。ごめん、少し遅れたかな?」

「大丈夫、遅れてないよ。私が早く来ちゃっただけだから」

「そっか。じゃあ電車に乗って行きますか」

「行っきましょー!」


 藤堂さんのバイト先の喫茶店は私たちの最寄り駅から電車に乗って5分の隣の駅のすぐ近く。

 私の家は駅の近くにあるので電車時間含めて約20分くらいで彼の喫茶店に着く。意外と近い所で働いておられる。

 やったぜ。あとでひっそり一人で行こう。


「意外と近い所だね」

「ねー!裕ちゃんの家からだとほんと近いよね」

「うん。そう言えばまだ聞いてなかったけど例の新刊どうだった?」

「面白かったよー!やっぱり朝比奈先生は天才だよ!今回は切ない要素が多くて涙なしには読めなかった!」

「ってことは泣いたんだ」

「泣いたよー!今回の6巻はテーマが悲恋だったみたいで切なかった。叶わない恋をした女の子に共感し過ぎて最後のほうは涙が大洪水おこしてたよー」


 そういえば読み終えたと言っていた日は少し目元が赤かったな。あれは泣きすぎて赤くなっていたのか。


「その巻ごとにテーマがあるんだっけ?」

「そうそう、1巻は純愛、2巻は友情の延長線の恋、3巻は年の差の恋、4巻は執着した恋、5巻は同性愛だね」

「色んなテーマを題材にしてるんだね」

「そう!そのテーマに沿った恋愛の事件が起きるの。それを解決するのが主人公の琴音!」

「その事件はどうやって解決するの?」

「琴音は『その恋、見届けます』っていう見届け屋っていうのをやってるの。校庭の隅に使われてない百葉箱があるんだけど、それが依頼箱。そこに依頼の手紙を入れるの。内容は恋愛を相談したいとか、手伝ってほしいとかそんな感じのことが書かれてることが多いよ。そして要望に合わせて恋が叶うように尽力するんだ」

「見届けるの?叶えるんじゃなくて?」

「うん、見届けるの。手伝ったりはするけど、必ず恋が叶うわけじゃないからね。今回の悲恋みたいに恋が実らなくても、恋の行き着く先を最後まで見届けるから、見届け屋」

「なるほどねー」

「前の5巻も恋が実らなかったから次こそは実ってほしいよー」

「前回も悲恋?」

「ううん、恋は実らなかったけど、友情に落ち着いたよ。同性愛だからかな。今回みたいな哀しさはなかったけど、あれも切なかったなー」


 綾子は目をうるうるとさせている。彼女は感情移入しやすいから共感もしやすいのだろう。

 相変わらず素直で可愛い子だな。


 そんな話をしている間に隣の駅に着いた。

 最近改装工事を終えて新しくなったその駅は、休日なのもあって人で溢れている。この駅がある町は大きな町で、若者が多い。

 今日も学生と思われる年若い男女が休日の装いをして町を歩いている。私たちもその中の一人だ。


 駅を出て大通りを少し歩いたらモスグリーンと白のヨーロピアンな外観が可愛らしい雑貨屋を曲がり、少し細い路地に入る。

 大通りの喧騒が少し薄れたその路地には落ち着いたお店が立ち並んでいる。バーや喫茶店、洋食屋などがひっそりと佇んでいる。

 その丁度真ん中あたりにその喫茶店はあった。


「えっと…お店の名前は『LaLa』だよね…うん、ここだね」


 古めかしい、落ち着いた色合いの煉瓦の壁。濃い茶色をした木製の木枠で囲まれた窓。ガラスはすりガラスで中は良く見えない。

 窓の近くは観葉植物が沢山置かれており、茶色とグリーンでまとめられた外観が落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 扉と窓の間には看板が置かれている。ミルク色をした板に「LaLa」とモスグリーンの字が書かれている。


 私はこの時見落としていたのだ。

 観葉植物の葉が重なって丁度見えなくなっていたから。

 『女装喫茶』という文字が、看板に書かれていたことを。

 


「わぁ…入るの緊張するね」

「そうだね…知る人ぞ知るお店!みたいな雰囲気あるね」

「私たちみたいな学生が入っていいのだろうか…」

「扉の前で立ち往生してても埒が明かない。ええい、入ってしまおう!」


 深く息を吐いた後「よしっ」と気合を入れた綾子が扉の取っ手に手を伸ばす。


 扉は窓の木枠と同じ素材のようだ。十字に組まれた木枠の間には窓と同じすりガラス。

 綾子が手を伸ばしは扉の取っ手は鈍い金色をしている。


 扉を開けるとカランカランっと鈴の音がなる。



「いらっしゃいませ!何名様ですか?」



 そこには藤堂さんに良く似た女性がいた。

「168cm→167cm」に修正しました。

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