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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
28/33

27 久しぶり

 とうとう秋人さんと会う約束の日になってしまった。今現在駅に向かって歩行中。時刻は約束の40分前。

 私の家は駅の割と近くなのですぐ着いてしまう。だというのにかなり早く家を出てしまった。


 あー!緊張する!

 緊張し過ぎて頭真っ白だよ!


 昨日まで秋人さんに会うことをベッドの中でシュミレーションし、いくつも考えられる会話の返事を用意していた。そのせいでだいぶ夜遅くまで起きていたので、私は現在必然的に寝不足である。

 寝ようとすると今日のことを考えてしまって、眠れなかったんだ!そんな私にできることなんてせいぜい謝罪内容を考えるくらいだったよ!


 でもそれも朝目が覚めたら緊張で、頭が真っ白になってしまっていたので水の泡である。

 そこで苦肉の策として、私は早めに家を出て集合場所である駅で、ゆっくり昨日考えたセリフを思い出そうとした訳である。

 家で時間を待っている間、落ち着いていられなかったというのもあるのだが、それは今は置いておこう。


 一歩一歩足を進めるごとに、ただでさえ短い駅までの距離が、徐々に徐々に縮んでいく。

 胃がキリキリと悲鳴を上げて助けを求めているのが分かる。

 でも今日の日から逃げたら女が廃る!ということで行くしかないのだ。


 胃は痛むし、胸は悪い意味でドキドキしている。

 それでも、やっぱり久しぶりに秋人さんに会えるのは嬉しかった。

 秋人さんとこんなに長い間会わないのは、秋人さんと出会ってから初めてだった。

 秋人さんは優しいから、私が「会いに行ってもいいですか?」と言えばバイトのシフトを私に合わせてくれたし、女性らしくなりたいと相談すれば、休日にショッピングに連れて行ってくれて色々とアドバイスしてくれた。


 優しくてカッコいい、美人な私の好きな人。


 だからこそ、今回のことは堪えた。

 会えないことが、こんなにも辛いことだなんて思わなかった。

 好きな人に避けられることが、こんなにも苦しいことだなんて思わなかった。


 恋って、楽しいことだけじゃないんだなぁ。


 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか駅に着いていた。

 時間は集合時刻の30分前。

 これだけ時間があれば、いくらか昨日考えたセリフを思い出せるはず!そう意気込んでいたのだが、いきなり後ろから声をかけられ、セリフ思い出し作戦は中止となった。


「裕ちゃん?」


 かけられた声は、数か月前までよく聞いていた、好きな人の声。

 心臓が荒ぶっていらっしゃる。握っている手が、汗で湿って少し気持ちが悪い。

 少し間をおいてから、勇気を出してゆっくりと振り向くと、そこには大好きな人がいた。


「久しぶりだね」

「は…い、お久しぶりです」


 久しぶりに会った秋人さんは、いつもと違う恰好をしていた。

 一番最初に会ったときみたいな、男性の恰好。

 本来はおかしくもなんともない姿のはずなのに、見慣れない恰好に酷く狼狽えた。


 どうしたんだろう?なんで男性の恰好をしているんだろう?

 会えたら真っ先に謝罪をしようと思っていたのに、浮かんでくる言葉は疑問ばかり。

 戸惑っていると、秋人さんは困ったように笑った。


「そっか、裕ちゃんには見慣れない恰好だったわね」


 いつもの口調に、少しの冷静さを取り戻す。

 恰好は変わっても、やっぱり秋人さんに違いない。あんなに男性姿を切望していたのに、いざ自分と会う時にそういう恰好をされると、こんなに戸惑うとは思わなかった。

 もう私の中の秋人さんは、女装姿がデフォルトになっていたようだ。


「えっと…はい。今日は女性の恰好をしないんですか?」

「うん。今日は私、覚悟を決めてきたからあえてこの姿で裕ちゃんに会いに来たのよ」

「か、覚悟…?」

「その話はあとでね。それじゃ、行きましょうか」


 なんだか分からぬまま秋人さんに連れられ、電車に乗り込んだ。

 そのときに手を繋がれて、洋介さんが手を握ってくれたときよりも恥ずかしくておかしくなりそうだった。


 やっぱり、好きな人に触れられるのって違うんだなぁ…。

 しみじみとそんなことを思った。


 互いに電車の中では、無言のままだった。

 目的の駅に着くと、またもや手を握られどこかに連れて行かれている。嬉しいのだが、緊張で手汗が酷いので秋人さんに不快に思われていないかが心配だった。

 手汗が引っ込むように祈りながら歩いていると、不意に秋人さんが立ち止まったので私も歩みを止めた。


 目の前には、以前初デート(?)をしたときに来た、美味しいパスタ屋さん。


「お昼はここでいいかしら?」

「あ、はい!」


 どうやら昼食はここでとるらしい。

 私は秋人さんに言われるがままに従った。元々秋人さんに謝罪しようと思っていたのだ、あんな最低なことをした私に拒否権などない。秋人さんの指示には「イエス、マム!」といった具合に従って過ごした。


 パスタ屋さんの中でも相変わらず会話はない。

 気まずさが物凄いあるが、秋人さんは対して気にした様子もないので私も気まずさを忘れ、ひたすらパスタを食べることに集中した。

 カルボナーラ、美味しかったです。


 昼食を終え店を出ると、ついてきてと言われたのでそれに従う。

 今の私は傍から見たら親カルガモについて行く子カルガモのようだと断言できる。


 秋人さんの後についていくと、見覚えのある公園に来ていた。並木道の美しいその公園は、以前見たときと違って葉を赤や黄色に染めている。

 ここも、あのときに来た公園だった。


 しばらくは二人、無言で歩いた。私は後ろを歩いていたのだが、秋人さんが歩く速度を落とし、いつの間にか隣を歩いていた。並んで歩いているのが、とても緊張する。

 秋人さんの顔をチラッと見てみると、何かを考え込んでいるような顔をしていた。


 この状況、覚えがある。

 秋人さんがオカマだって打ち明けてくれた時と、同じ。

 ということは、何かこれから重要な話をされるのだろうか。


 私は震える足をなんとか動かしながら、静かに秋人さんが口を開くのを隣で待っていた。



しばらくシリアスが続くといったな、あれは嘘だ。


裕ちゃんがメインで出てくると、自然とコメディ寄りになるようです。

シリアスっぽく書こうと思っていたのにいつの間にかギャグちっくになってました。

よかった、これでキーワード詐欺にならないね!

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