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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
26/33

25 ◆如月彰

思ったより苦戦して遅くなりました。

 遂に約束の日が来た。待ち合わせ場所に行くと、彼女は先に来ていた。本来の目的は川田のデート相手を探ることなので川田は今日の約束には来てもらわなければ困るのだが、それでも川田がこなかったら彼女とこれからデートをするみたいだな、なんて思わずにいられなかった。

 まあ、川田が伴わなければ彼女はそもそも俺と一緒に出掛けてはくれないけれど。

 彼女と軽く挨拶を交わしている間に、不服そうな顔をした川田がやってきた。俺を憎々し気に、不服そうに見ている川田を見ると少しだけ胸がスッとした。


 目的の場所に行く為に電車に乗り、彼女と川田のデートの相手についてこそこそと話した。それを川田が生暖かい目で見ていて凄く居心地が悪かったのを言っておこう。

 電車から降りて目的地着いた。そこは落ち着いた雰囲気の上品な喫茶店だった。俺は普段喫茶店なんかは行かなし、こんな上品な店に入ったこともないので緊張していたが、川田がなんてことないいつものこといわんばかりに扉を開いた。俺はこんな店に足しげく通っているらしい川田を少しだけ尊敬した。

 そして扉を開けた先にいた店員を見て、俺はフリーズした。


 …体格的に男、だよな?


 綺麗な長い黒髪(カツラだろうか?)をしていて男らしい、だけど少し女性的な要素も持つ顔のメイド服を着た人がいた。

 顔だけを見たら一瞬女の人かとも思ったのだが、それにしては体格がいい。メイド服を着ているので体の線が見えないから確証はないが、身長はあるし、何より腕が筋肉質だ。女性らしい丸みを感じない。

 自分でも何を言っているのか分からなくなってきたが、それくらい衝撃を受けた。因みに川田に声をかけられるまで俺は頭が真っ白だった。


 案内された席に座って川田に聞いてみると、やっぱりあのメイドは男性らしい。詳しく聞くとここは”女装喫茶”という特殊な喫茶店らしい。

 俺は思わず狼狽えてしまい、それを彼女に見られたのが恥ずかしくて話題を逸らした。思わず逸らした話題が本来聞きたかったことだったのは幸いだった。何せこのときの俺は酷く混乱していたからな!


 どうやらこの店にいるらしいデート相手が見つからないので川田に聞いてみた。店内をちょろっと見回してみたがそれらしい男は見つからなかった。まあ女装喫茶らしいから俺が気付かなかっただけかもしれないが。

 川田が答える前にさっきの店員が注文の品を持ってきた。そして川田がとんでもないことを言った。


「この人だよ」

「どーも。偵察に誘って川田ちゃんとデートしてた男です、よろしく」


 この店に来て二度目の衝撃を受けた。このメイドが、あのときの男?

 確かに身長はこれくらいだったような…。


 俺が衝撃を受けている間に川田のその男は軽快な会話をしていた。仲の良い友人と話すときのような、仲の良い兄妹のような、なんとも言えない空気を醸し出しながら。

 動揺したが、その空気にハッとして川田に詳しく話すよう目で訴えかけた。

 すると川田は諦めたように小さくため息を零して”洋介さん”と呼ぶメイド服姿の男を交えてあの日のことを詳しく話し始めた。





 詳細は、以前川田から聞いた通りだった。洋介さんと呼ばれた男性、速水洋介が「川田ちゃんの好きな人は別な人だよ」と改めて言っていたのでやっぱり川田の彼氏ではないようだ。

 にしても。にしても川田と速水さんは仲が良い。気安いこの関係は、友人とは少し違うような気がする。あの日のことを説明している間も少し漫才みたいなやり取りをしながら話していた。

 彼女もそれが気になったのか、速水さんとの仲を川田に聞いた。するとまた軽快な会話をし出したので、少し探るように「お似合いだね」的なことを言ってみた。

 すると何が目的なのか、速水さんがニヤリと笑い俺の言葉に乗っかった。それに対する川田は塩対応だったが。


 だけど二人を見ていて気付いたことがある。彼は、速水さんは割と本気で川田が好きなんじゃないかということだ。川田をからかうけど、俺と同じで本気で怒らないラインを知ってる。その上でわざわざ川田をからかう。こんなに川田に関わるのは、川田と接点を少しでも持ちたいからじゃないのだろうか。

 そして彼の川田を見る目は優しくて、切なげで。自分のことじゃないのに胸が苦しくなった。

 だって、俺はそれを知っているから。


 俺が彼女を、桜庭を見るときみたいな目をしているから。


 でもだとしたら、なんて不毛な恋なんだろう。

 話を聞く限り、川田の好きな”秋人さん”は彼の友人だという。だったら、川田がここに来る理由も知ってるはずだ。偵察デートにそもそも誘ったのもこの人だ。


 川田が自分じゃない他の人に焦がれる顔を見るのは、辛くないのだろうか。


 そこまで考えたとき、俺は彼に同情と共感を抱いていたことに気付いた。

 あまりにも、俺と同じような立ち位置の人だから。

 川田には悪いが、俺は彼を応援したくなってしまっていた。

 だから、会話をしている最中に思わず言ってしまった。


「はー本当に彼氏じゃなかったんだな。俺ちょっとガッカリだわ」


 ヤバいと言ってから後悔したが、なんとかその後の会話は誤魔化した。だけどその誤魔化しの会話のせいで彼女がピンチに陥ってしまったので俺はやっぱり後悔した。


「ありがとう、綾子。やっぱり私は綾子が好きだよ」

「ゆ、裕ちゃん!?急にどうしたの!?」

「いや嬉しくて…改めて綾子の優しさに感謝したの。綾子大好き」


 やってしまった。

 川田は別に彼女に恋愛感情なんて抱いてないから、簡単に彼女に”好き”と口にする。それはきっと、友人に対するごくごく自然な感謝から出た言葉。

 だけどそれは、彼女にとっては酷く残酷で甘い言葉なのだ。彼女の頬は赤く染まり、目は歓喜の色を乗せている。川田がその意味に気付かぬまま頬を撫でると、さらに赤くなっていた。


 ああ、なんて残酷なんだろう。

 彼女の気持ちを知らないから仕方がないんだけれど、それでも俺は川田に苛立ち、いつもより少し低くなってしまった声で川田を止めた。


「そのくらいにしてやれ」

「え、何が?」

「はぁー…。川田ってほんと罪な女だな」

「彰どうした?ついにおかしくなったか?」

「ついにってなんだよ!おかしくねーよ!」


 とりあえず彼女を助けられたことに安堵し、速水さんが変な扉を開けそうになっているのを止めた。面倒になってきたし目的は果たしたので、だんだん帰るかと言って店を出ることを促した。

 会計を終えて一番に店を出た彼女を追うように会計を済ませ、店を出た。

 店を出ると、彼女は苦しそうな、今にも泣きそうな顔をしていた。だけど俺が来たことに気付くといつもの顔に戻ってしまった。


 彼女は気持ちを隠すのが上手い。今日は川田の言葉に動揺したせいで顔に出てしまっていたが、鈍い川田が気付くとは思えないから大丈夫だろう。

 ああ、川田は本当にムカつく奴だ。友人としてはいい奴だと思うけど、やっぱり彼女にこんな顔をさせるのは許せない。だけど、俺にはどうしようもない。


 どうして俺の好きな人は、俺が好きじゃないんだろう。

 俺なら、あんな顔させないのに。


 解散して家に帰り、自分の部屋のベッドに寝転がった。

 そして色々考えた結果、俺は彼女を振り向かせようという結論になった。


 彼女は、桜庭は川田が好きだ。これはどうしようもない、変えようのない事実。

 だけど今日速水さんを見て、気が付いた。人の気持ちは変えられないけど、アプローチをするのは自由だ。もしかしたら、そのアプローチで気持ちが変わるかもしれない。

 俺は彼女の為に一度彼女から引いたけど、やっぱり諦めきれなかった。

 だったら、せめて諦められるまで俺の気持ちが伝わるように努力しよう。桜庭に押し付けない程度に、さりげなくアプローチをしよう。


 いつか、いつか桜庭が俺を振り向いてくれるかもしれないから。

 無いに等しくても、ゼロじゃない。

 だったら出来ることはしよう。もう気持ちを押し込めるのは止めよう。

 彼女の恋が叶っても、叶わなくても。

 俺は桜庭が好きだから。


 そう新たに決意をした、実に濃厚な一日だった。



如月君は人の気持ちによく気付く子です。故に苦しみます。

とりあえず如月君の話はここまでで、次からは元に戻ります。

あと誤字見つけて修正しました。

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