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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
25/33

24 ◆如月彰

 理由が分かったのは、高校二年生になった初夏の頃。

 ある日見たい映画があった俺は、映画館に向かって街中を歩いていた。そしたら正面の方からカップルらしき男女が歩いてきたんだ。

 その女の方が、友人に似ていた。雰囲気が違うから人違いかとも思ったが、やっぱり友人だった。

 その友人はいつもは男っぽいはずなのに、女みたいな恰好をしていたから雰囲気がいつもと違ったようだった。思わず二度見した。高校に入ってからは徐々に髪を伸ばして男らしさが薄れてはいたが、休日の服装は完全に男だったし俺のその友人の認識はやっぱり男みたいな奴だった。

 だから、本当に驚いた。見間違いかと思って何回も見てみたが、やっぱり顔はよく見知った友人の顔。


 川田だった。


 スカートを履いてるし、めんどくさがりなあいつが髪型をわざわざ変えて。しかも、知らない男と手を繋いで歩いていた。川田は恥ずかしそうに頬を染めて、そのまま映画館に入って行った。


 川田は彼氏の気配なんて全くない、恋愛の「れ」の字も知らんような奴だった。

 だから信じられなくて。

 俺は映画を見るのを止めて家に帰った。家に帰るまでの間、川田のことを想う彼女の憂い顔がひらすら頭を埋め尽くした。


 家に帰って部屋に戻り、俺はドアを背にしてずるずると座り込んだ。

 彼女が憂いた表情をしていたのは。時折悲しそうな顔をしていたのは、あれが理由?

 確定ではないにしろ、かなり答えに近づいた気がした。俺はがしがしと頭をかいて、大きく息を吐いた。


 今日見たことは、慎重に扱わなくてはならない。


 彼女が、これ以上悲しまずに済むにはどうしたらいい?

 俺は彼女が悲しむ顔なんて見たくない。彼女の笑う顔が、幸せそうな顔が見たい。でもそれができるのは川田だけで、俺にはどうしようもなくて。

 彼女が好きなのは、川田。だけど川田は…。


 彼女の恋を応援すると決めたが、俺は自分の決心が鈍るのを確かに感じた。

 やっぱり彼女が好きだ。彼女と付き合いたいし、俺だって普通の男だから彼女が許すなら俺は彼女に触れたい。

 だけど彼女に自分の気持ちを伝えたら、きっと彼女は俺から離れていく。

 俺は、どうしたらいいんだろう。

 その後も色々考えを巡らせたが、答えが出ないまま一日が終わってしまった。





 そして次の日の朝、教室で川田を見つけた。川田は昨日のことなどなかったかのように、いつもの顔でクラスメイトに挨拶をしている。

 俺は迷ったが、川田の隣の席にいる彼女を見たら、いつの間にかいつもの調子で川田に話しかけていた。


「おはよう」

「おはよう」


 いつもと変わらない挨拶。でも今はそれがとても憎らしい。

 だから、顔をにやけさせて川田に昨日のことを聞いてやった。


「昨日男とデートしてたみたいだけどあれ彼氏か?」


 そのときの川田の顔は、一言で言うなら『絶望』というのが相応しいと思う。そして続けて声をかけようとしたら机に思いっきり頭を打ち付けていた。余程さっきの言葉がショックだったのだろうか…なんか、すまん。

 隣の席にいた彼女がぎょっとした顔で川田を見ている。そりゃいきなり机に頭打ち付けたら驚くわな。申し訳なさもあって聞きたかったことを後回しにした。


「おい、大丈夫かよ。凄い音したけど」

「いやうん…え、見たの、昨日の」


 物凄い小声で返事をされた。やっぱり見られたくないことだったらしい。

 詳しい話を聞いてみると、どうやら昨日の男は恋人ではないという。しかも偵察とか意味の分からないことを言いだす始末。

 怪しいのでカマをかけてみると、思わぬ答えが帰ってきた。


「いやほんとに彼氏じゃないから!他に好きな人いるし!」


 恋愛なんて興味ない、男子小学生みたいなやつだったのに、まさかの好きな人だと!?

 思わず素で驚いて返事をした後にハッとして彼女の顔を見た。彼女は一瞬泣きそうな顔をした後、すぐいつもの顔に戻って川田を質問攻めにしていた。そして黒いオーラを纏って微笑んでいる。

 川田、ご愁傷さまです。

 怒ったときの彼女は怖い。逆らえない空気がある。でもそんなとこも俺は好きだ…報われないけどな。

 そして放課後に詳しい話を聞くということでその場での話は終わった。


 放課後、しれっと俺も二人の会話に混ざり話を聞いた。川田がなんでお前がいるんだといった視線を寄こしていたが無視した。

 どうやら川田はよく通っている喫茶店に好きな人がいるらしい。で、その好きな人がデートするらしいからそれを偵察するってことであの男と一緒にいたらしい。

 どうしたら俺にはそういう流れになったのかが理解できなかったが、一つだけ不思議なことがあった。あれだけ恥ずかしそうにして手を繋いでいたあの男が、川田の好きな人ではないということだ。あれは単に恥ずかしかっただけなのか?それとも恥ずかしくて嘘をついてるだけなのか?

 判断するにも材料が足りない。真相を暴くためにも俺は川田が通う喫茶店に行かねばならない。

 そこでそれとなく喫茶店に行く流れに持ち込み、彼女の許可を得て一緒に行く約束を取り付けることに成功した。


 約束の日になれば、全てが分かる。

 好きな人の好きな人がどんなやつなのかは正直興味はないけれど、好きな人が悲しまないようどうフォローをすべきかを考えながら、約束の日まで心の休まらない日々を送った。

思ったより長くなったのでもう一話分如月君の話が続きます。

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