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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
22/33

21 ◆桜庭綾子

 あなたと友達になってからの日々は、私の毎日を鮮やかに彩った。宣言通り、彼女の友人を中心に私がどんな人間であるのかを伝え、私にも彼女以外の友人ができた。クラスが違かったので教室にいるときは苦痛だったが、それでも以前の学校生活からは考えられないくらい幸せな日々だった。

 図書室で一緒に本を読んだりお喋りをしたり、彼女が友達とサッカーをするのを見学したり。ときには私も混ぜてもらって一緒になってサッカーをした。運動が得意なわけじゃないからほとんど役には立たなかったけど、それでも彼女は私と一緒にサッカーをすると楽しいって言ってくれた。

 中学は地区が違うので同じところに通えないと知り、両親を説得した。彼女と同じ中学へ通えないのなら私は中学校には行かない、また登校を拒否すると言ったのだ。それは説得というよりは脅しという方が正しかったかもしれない。

 そして私は両親を丸め込むことに成功し、学区外通学許可の申請して無事許可をもらい、彼女と同じ中学へ通うこととなった。学区外通学許可の申請が通ったのは、小学生のときに虐められて転校した過去や、彼女に依存しきっている私の現状を見ての判断だろう。何はともあれ、彼女と同じ中学に通えてよかった。


 中学生になり、私はよく告白をされるようになった。小学生のときもあったにはあったが、小学生とはやはり子供である。恋より友人と遊ぶことに夢中な男子が多かったのでそんなに告白されることはなかった。

 しかし中学生にもなると、少しだけ大人に成長するわけで。今まで友人と遊ぶことに夢中だった男子たちも異性に興味を持ち始める。そうすると、容姿がいいというのは好かれる大きな理由となった。

 私は、それが煩わしかった。中学生になった今でも私は自分の容姿が大嫌いである。それなのに好かれた理由が容姿であれば、告白されることには苛立ちしか生まれなかった。

 私がモテることが女子に嫌われる最たる理由である。中学生になる頃には私は立派な男嫌いになっていた。男子に話しかけられれば嫌な顔をして彼らに応えた。だけど彼女の友人の男子たちにはそんな顔をする訳にはいかない。私は彼女に嫌われることを最も恐れていたので、彼女の友人の男子たちには話しかけられてもなるべく笑顔で応えた。

 それがいけなかったようで、たまたま笑顔で彼女の友人の男子と話す私を見た女子が、男子に媚びを売る女だと言ったらしい。私が男子に媚びを売る女だという話は瞬く間に校内に広がった。

 せっかく新しい女子の友人ができ、交友関係を少ないながらも広げていた私は、中学の新しい女子の友人に避けられるようになった。さすがに小学生の頃からの友人は避けないでいてくれたが、新しくできた友人たちは私のことをよく知らない。噂を鵜呑みにして離れて行ってしまった。


 だけど対して辛くもなんともなかった。

 いつだって、あなたは私のそばにいてくれたから。


 相変わらず女子に囲まれたりすることはあった。だけどそのたびに彼女は私を助けてくれた。そしてそのたびにあなたへの想いは募っていった。

 どうしようもなく好きだ。私に笑いかけるあなたの顔が。落ち込んでいると優しく頭を撫でてくれる、あなたの手が。私をいつも守ってくれる、凛々しいあなたが。

 嫌いだった自分の容姿も、中学の三年間で少し好きになれた。あなたが可愛い、綺麗だって言ってくれるから。


 でも同性であるということは大きく私の心に影を落とした。皆好きな人は異性だと言う。

 同性を好きになるのは普通ではないのだと知った。

 あなたに私の想いを伝えられないことが、とても苦しかった。


 そんなとき、ある小説に出会った。

 それは小学生高学年の頃から読んでいる『早乙女琴音の恋愛事件簿』というシリーズの新刊だった。私はこの作者の恋愛描写が好きで、筆が遅い作者ではあったけど毎回楽しみにしていた。

 その恋愛事件簿シリーズの新刊は、私の心を揺さぶった。テーマが”同性愛”だったからだ。彼女への想いに悩んでいた私は夢中で読んだ。次の日が学校なのも気にせず徹夜で読んだ。


 このシリーズは、早乙女琴音をメインとしつつも毎回主人公が変わるタイプの小説だった。

 今回も当然語り部は変わっていた。主人公は琴音と同じクラスメイトで、幼馴染の女の子に恋をしている。中学生の頃に自分の気持ちに気付いたが、ずっと幼馴染に気持ちを告げられずにいた。何故なら主人公は、幼馴染と同じ女性だったから。

 幼馴染は可愛い人だったため、男子に人気があった。告白されたという話を幼馴染から聞くたびに、主人公は苦しんだ。幸い今も幼馴染は誰とも付き合ってはいないが、いつ彼女が彼氏をつくるか分からない。自分が男だったなら躊躇わずにこの気持ちを伝えられたのに。いっそこの気持ちを彼女に吐露してしまおうか。葛藤し、苦しい毎日を過ごしていた。

 『見届け屋』という不思議な活動をしている人たちがいることを知った主人公は、百葉箱に手紙を入れた。苦しい恋をしている。想いを告げるか否か悩んでいるのでどうか話だけでも聞いてほしい。こんな恋は、誰にも話せない。気持ち悪いと言われるかもしれないし、理解され難いことも分かっていたから。

 そして琴音に相談に乗ってもらい、ついに幼馴染に気持ちを伝えることにした主人公は、彼女を放課後の校舎裏に教呼び出した。

 気持ちをありのままに伝えると、幼馴染は困惑していた。当然だ、今まで仲の良い()()として接してきた女から突然好きだなどど言われるのだから。

 幼馴染の答えは、主人公の気持ちには応えられないというものだった。もちろんそうなる可能性が高いことは分かっていたし、琴音にもそう言われていた。それでも一縷の希望にかけてしまったのは、報われたいという利己的な思いから。

 主人公は泣き崩れた。分かってはいても、やはり現実を突きつけらえると忍耐よりも辛さが勝った。

「もう友達ではいられないね。迷惑だったよね、ごめん」

 それだけをなんとか幼馴染に伝えてその場を去ろうとすると、彼女に呼び止めれた。

「気持ちには応えられないけど、今でも友達だと思っているよ」

 酷く残酷で優しい言葉だった。だけど幼馴染がいない生活なんて考えられない主人公は涙を拭い、答えた。

「気持ち悪くないの?」

「うん。あなたの好きとは違うけど、今でも私はあなたが好きだよ」

「ありがとう…いい、友達でいよう」

「うん!」

 それが、結末だった。想い合うことはできなかったけれど、主人公はこうなることを予想していたのもあって納得していた。報われなくても、幼馴染が好きだと言ってくれるのは変わらない。自分が気持ちを封じ込めれば今までの関係でいられるのだから、これでよかったのだと琴音に伝えて小説は終わりを迎えた。


 私は納得ができなかった。私だったら、きっとこんな風にあっさり今まで通り友人でいることを受け入れられない。もちろん主人公はあっさり受け入れた訳ではない。沢山葛藤し、悩み抜いた結果だったのだから。でも振られた後、主人公はスッキリしていたようだった。秘めていた想いを伝えられたことで、胸のつかえが取れたのかもしれない。幼馴染と友人でいられることを、ただただ幸せに感じていた。

 新刊を読み終え、小さく息を吐く。私はやっぱり、最後の方の主人公の気持ちにだけは共感できなかった。このシリーズで涙を流さずに読み終えたのは、初めてだった。


 私は今まで以上に彼女に気持ちを伝えるかを悩んだ。

 伝えたら、彼女はなんて思うのだろう。

 この小説のように、それでも友人でいてくれるだろうか。

 もしそうなったとして、私はその関係に耐えられるのだろうか。


 悩んでいる間に朝が来た。答えは出なかった。


 高校生になった。当然彼女と同じ高校を受験し、同じ高校に進学することができた。私によく話しかけてくる彼女の男の友人も同じ高校に通うことだけが不満なくらいで、私は幸せ一杯な高校生活をスタートさせた。



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