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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
21/33

20 ◆桜庭綾子

 私とあなたが出会ったのは、小学生の頃だった。

 私は自分で言うのもなんだが、容姿が良い。なので男子に人気がある。しかしそれは本人の意思に関わらず、女子の反感を買うには十分だった。小学生といっても女は女だ。女と言う生き物は男と違って小さな頃から()()である。そして一人目立っている同性は気に食わないものだ。

 私は同性の友人というものを幼稚園の頃から持てなかった。男子に人気のある私はきっと女子たちには目障りだったのだろう。小学生になってからも私の周りに集まるのは男子ばかりで、女子は憎らし気に私を遠巻きに見ているばかりだった。

 そして私は小学4年生の頃、遂に同級生の女子に虐めのターゲットにされた。物を盗まれたりクラスの女子全員に無視されたり。幼かった私の心はボロボロになり、私は登校拒否という方法で虐めから逃れた。


 容姿なんて両親に貰ったもので、自分で選べるものではない。それなのに見た目が良いから、男子に人気だからといって虐められるのは、どうしても耐えられなかった。何故私がそんな理不尽な理由で虐められなくてはならないのか。

 私は両親が可愛いよと言ってくれた自分の容姿が大っ嫌いになった。虐められた原因となったこの容姿は、今や憎むべき要素でしかなくなっていた。


 そして学校へ通わないまま一か月を過ごし、最終的に私は転校することになった。私の通っていた小学生はそれなりに有名な私立の学校だったので両親は渋っていたのだが、だんまりしていた口を開き、虐めが原因で登校拒否をしていると両親に話すと転校することとなったのだ。

 何故両親に虐めのことを一か月も話さなかったのかというと、()()()容姿に産んでくれた両親に対しての反抗だった。両親が可愛いと言ってくれるから大好きだった自分の容姿は、今は憎たらしく忌々しい。せめてもの両親への反抗だった。


 そして私は少し離れた地区の公立の小学校に転校した。だけど、やっぱり同性に嫌われる運命にあるらしい。男子は声をかけてくれるが、女子は近づいてすら来なかった。ひそひそと私を見て内緒話をする。きっと私の粗探しや悪口でこれから盛り上がるのだろうな、と思うとガッカリした。せっかく理不尽な理由の虐めから逃れてきたのにこれでは同じではないか。私は自分のこれからの学校生活が暗いものとなるだろうことを思い、絶望した。


 私は転校してからの休み時間をほぼ人気のない図書室で過ごした。この学校は読書を推しているらしく、図書室が二つあった。一つは元々あった図書室で第一図書室、もう一つは新しい図書室で第二図書室。第二図書室には娯楽小説や最新の本などが多く、本を借りに来る生徒はほとんどがこちらに来る。第一図書室は分厚い本や古い本が多かったので、もの好きな生徒が数人行くくらいでほとんど人は来なかった。

 だから第一図書室は私の安息の地だった。男子たちは私を遊びに誘いたがる。きっと好意を持ってくれているのだろうが、私はその理由が容姿であることを知っているので不愉快だった。自分の嫌悪すべき要素を好いている奴らとは関わりたくもなかった。

 私に声をかけてくる男子たちも図書室、しかも第一図書室であればなんの面白みもない場所なので、流石についてはこなかった。

 虐められはしなかったものの、女子には嫌味や悪口を言われた。避けられないことだろうと登校初日に思っていたので、気にしないように心を無にして日々を過ごしていた。


 だからあなたと出会ったときも、私は同級生の女子に囲まれていた。家に帰ろうと校庭の隅を歩いていたところを、ネチネチと嫌味を言う為だけに呼び止められたのだ。一体私が何をしたというのか。嫌味を言われながら苛々していると、後ろから声を掛けられた。


「何してるの?」


 振り返ると、そこには少年がいた。サッカーボールを持っていたので、さっきまで校庭でサッカーをしていたのだろう。Tシャツやズボンに少し土がついて汚れている。

 私より頭一つ分背が高く、意志の強い目をした凛々しい少年だった。


「ゆーちゃん!ねえゆーちゃんもこの子ムカつかない?男子にモテるからって調子乗ってるんだよ」


 少年はゆーちゃんというらしい。彼女たちの気軽さからして同級生だとは思うが、見たことがなかったので他のクラスの子なのだろうか。ゆー君ではなくちゃんなのが不思議だったが、ちゃん付けで呼んでもらえるくらい彼女たちと仲が良いのだろうか。


「へーそうなの?」


 しかし彼は嫌味を言ってくる同級生たちの前まで歩みを進め、彼女たちを一瞥した後、私にそう問いかけてきた。彼女たちの言葉を信じている様子はないので公平な目を持つ人なのだろうか。

 私は驚いて目を見開いた。ちやほやしてきた男子の中には、クラスの女子に何か吹き込まれたのか掌を返したように態度を変える人が結構いたから。

 こんな反応を返してきた人は初めてだった。このとき妙に胸が高鳴ったのをよく覚えている。私はドキドキしながら少年に答えた。


「違います。別に調子に乗った覚えはないです」

「だってさ。よっちゃんたちの勘違いじゃないの?」

「勘違いじゃないよ!ゆーちゃんなんでその子の味方なの!?」

「別に味方じゃないよ。ただ彼女のことよく見かけるけど、悪い子じゃないよ」

「なんでそんなこと言うの!?桜庭さんは男子にイロメを使うアクジョなんだから!」

「…別にそんな風には見えないけど。それよりいいの?近くに先生いるから桜庭さんを取り囲んでたの見つかるよ?」

「え!?帰ろうみっちゃん、やーちゃん!」

「う、うん」


 先ほどまで嫌味を言っていた子たちは、先生と聞くや否やそそくさとこの場を去っていった。突然のことでお礼も言えず立ち竦んでいると、少年はやれやれといった表情をして彼女たちを見たまま声を掛けてきた。


「災難だったね。よっちゃんたち、結構思い込み激しいから桜庭さんのことも勘違いしたんだと思う」

「え?そうなんですか…あ、助けてくれてありがとうございます」

「気にしないで。桜庭さんがアクジョじゃないの知ってるから見て見ぬふりできなくて」

「どうして私のこと知ってるの?」

「よく第一図書室にいるでしょ?実は私もよくあそこに行くんだ。昼寝をしにだけどね」


 そう言って笑う少年の笑顔は、とても眩しかった。


「そこでよく桜庭さんを見かけた。女の子の友達は皆桜庭さんを悪く言うけど、私はそんな風には思えなかった」

「…どうして?」

「だって私が昼寝しててぐっすり寝ちゃったときに、一度だけ声かけてくれたじゃん」


 そういえばそんなことがあったかもしれない。

 転校して間もない第一図書室を見つけたばかりの頃、チャイムがもうすぐ鳴る時間なのに眠っていた男子生徒がいた。だから声を掛けてチャイムが鳴るよと教えたことがあったのを思い出した。まさかそのときの生徒だったとは。


「そういえばそんなことが…」

「いつもはちゃんと自分で起きるんだけど、四時間目が体育だったから疲れてたし、給食食べた後の眠気が凄くてその日は起きれなかったんだよね。あのままだったら確実に寝過ごして授業に遅れてた。ほんとに感謝してるんだ」

「い、いえ」

「ずっとお礼したいなって思ってたけど、なんだか桜庭さん話しかけて欲しくなさそうだったから声かけられなくて。やっとお話できた。よかったら友達にならない?」


 お礼を言われるどころか友達にならないかと聞かれ、私は焦った。きっと彼の言葉は純粋な好意でのみで成り立っている。でも私は女子には沢山嫌われているし、彼の迷惑にならないだろうか?

 困惑しているのが少年に伝わったのか、彼は少しだけ悲しそうに笑った。


「別に困らせたかった訳じゃないんだ、ごめん」

「ち、違うの!ただ私女子には皆に嫌われてるし、今日みたいなことも多いからあなたの迷惑になるんじゃないかと思って…」

「なんだそんなこと?迷惑だなんて思わないよ。それにまた今日みたいに女子に囲まれたら守ってあげる」


 少年は意志の強い瞳で真っ直ぐに私を見つめ、力強くそう言った。

 私は彼に強く惹かれた。胸に”ときめき”のようなものを抱いた。

 だってまるで、絵本で読んだ王子様みたいだったから。


「あと一つ訂正。女子皆に嫌われているっていうのは違うよ」

「なんで?私今までずっと女の子に嫌われてしかこなかったし、この学校でも嫌われてるよ」

「…皆桜庭さんのことをよく知らないんだよ。大丈夫、私が桜庭さんと友達になって、桜庭さんの良いところを今以上に沢山知って、皆に教えてあげる」

「…ほんとに?」

「ほんとに。あと違うよっていった理由。私も女子だけど、桜庭さんのこと別に嫌いじゃないから」


 そう言って笑う少年は、少女だった。見た目は完全に男の子だったから気付かなかった。

 だけど少年ではないと分かっても、この胸のときめきが失われることはなかった。


 そのとき私は確かに落ちたのだ。

 先のことを思うと苦しく辛いものとなるであろう、初めての恋に。



キーワードにガールズラブをつける原因となった人。

次も彼女のお話です。

ああ、コメディ要素が足りない!

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