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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
19/33

18 突撃!偵察共犯の洋介さん!

 洋介さんに突撃をかけることとなった日曜日、待ち合わせ場所である駅に行くと二人はもう来ていたようだった。綾子は今日も可愛らしい服装に身を包み、私に気付くと柔らかく微笑んだ。彰については特筆すべきことはない。


「おはよう、裕ちゃん!」

「おはよう、綾子。ついでに彰も」

「俺はおまけか」

「当たり前だ」


 何故こいつを連れて『LaLa』に行かねばならないのだ。

 私は今だに納得していない。そんな私に気付いたのか、彰はニヤニヤと笑っている。こいつとも長い付き合いになるが、昔から絶妙に私をイラつかせる奴だ。それでも友人であり続けるのは、なんだかんだ言って話していて楽だし楽しいからなのだがやっぱりムカつくものはムカつく。

 彰に睨みをきかせていると綾子は楽しそうに本日の目的を喜々として口にした。


「さて、じゃあさっそく噂の彼に行こう!楽しみね」

「…そうだね」


 全然楽しみじゃない。そして洋介さんごめんなさい。

 私のごたごたに巻き込んでしまった洋介さんに謝罪しつつも重い足を動かし電車に乗り込んだ。他愛無い話をしながら電車に揺られる。

 今私の目の前では綾子と彰が私のデート相手のことでこそこそと何かを話している。こうしてみていると、どちらも綺麗な顔をしていてお似合いなのだが、綾子にそんなことを言ったらまた怒られそうなので黙って見ていた。


 目的の駅に着き、洋介さんのいる喫茶店へと歩みを進める。重い足取りを止めることが出来ないのは、私の隣で綾子がにこにこと楽しそうにしているからだ。

 なんだかんだ言って、私は綾子には弱い。可愛くて綺麗で一緒にいると楽しい。そんな彼女に私は昔から逆らえない。綾子が楽しそうにしていると、私もうれしいから。

 …例えそれが私にとって楽しいことでなくでも、だ。


 喫茶店の前に着く。相変わらずここの看板の「女装」の文字は見えづらい。直した方がいいのではないだろうかといつもここに来るたびに思う。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開いた。開いた扉の先からは、珈琲のいい匂いが漂ってくる。そして私たちを出迎えてくれたのは、偵察の共犯者である今回の喫茶店突撃の目的の人、洋介さんだった。


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「3人です」

「かしこまりました、こちらへどうぞ」


 案内されるままにテーブルに向かう。彰の顔をちらっと見ると、彼は驚きでその場でフリーズしていた。きっと綾子にどんな喫茶店に行くのかは知らされなかったのだろう…私も知らせなかったけど。

 彰の知っている喫茶店とは趣向の異なる喫茶店だったことに驚いたのだな。分かる、分かるぞその気持ち。かく言う私もその場でフリーズした経験があるからな。

 仕方がないので彰に声を掛けると、どこかへ行っていた彼の意識が戻ってきたらしく慌てて着いてきた。


 席について注文をする。私はいつも通りココアを頼み、綾子は紅茶を、彰は珈琲を頼んだ。オーダーを届けに行く洋介さんは、やっぱり姉御な雰囲気でカッコいいタイプの綺麗な女装メイドだと改めて認識する。

 あの偵察デートの日は完全に男だったから狼狽して言い負けることが多かったが、今の彼にならいつも通り接することができるだろうと少し安堵した。

 洋介さんが厨房の方へ向かい姿が見えなくなると、彰が怪訝な顔で話しかけてきた。


「…おい、あの人体格的にたぶん男だよな?」

「当たり前じゃん」

「でも恰好が…あれはメイド服だよな…?」

「そうだよ。でも一応言っとくとここはメイド喫茶じゃなくて女装喫茶だから」

「いやそういうこと聞きたいんじゃ…ってえ!?女装喫茶!?」


 聞き慣れない単語に狼狽する彰。

 まるで初来店時の私を見ているみたいでなんだか複雑だった。


「如月君、初めてここに来たときの裕ちゃんみたいになってる」


 自分でも思っていたことをサラッと言われ、頬が熱を持つ。

 恥ずかしいからやめて綾子!


「綾子さんそのお話はやめましょうよ…」

「ふふ、そうだね。これは私と裕ちゃんだけの思い出にしておこう」


 嬉しそうに笑う綾子は天使みたいだった。

 ええ、是非とも私たちだけの思い出にしましょう。あんな黒歴史、他の誰にも知られたくはない。


「…ところでさ、こないだデートしてた男って誰よ」


 狼狽した姿を見られたのが恥ずかしかったのか彰が話題を変えてきた。

 ついに本題に入ってしまったか…。


「偵察に行くくらいには仲良いんでしょ?どんな人?」

「俺も気になるわ。見た感じこないだの人は見当たらないけど…」


 女装してるから見てるけど気付いていないだけだけどな。

 そう思いながら口を開こうとしたら、洋介さんが注文していたドリンクを持ってきた。お待たせしましたーと相変わらずゆるく軽い。ドリンクを置いている彼をじっと見ると、察しのいい彼はそれだけで気付いてくれたようだった。丁度いい、今言ってしまおう。


「この人だよ」

「どーも。偵察に誘って川田ちゃんとデートしてた男です、よろしく」


 チャラい、この一言に尽きる。軽い感じで挨拶をしてへらっと笑った彼に対し、二人はどんな反応をするのだろうか。

 まず彰を見ると口をぽかんと開けて呆然としていた。偵察デートのときに見かけた姿と今の姿が一致しないのかもしれない。女装してるしカツラ被ってるし化粧してるし、これは呆然としてもしょうがないよね。

 綾子を見ると何故か笑顔のまま固まっていた。そういえば綾子もチャラ男が苦手なんだっけか。私の友人にはチャラ男タイプはいなかったので、洋介さんが意外なタイプで戸惑っているのかもしれない。いつもの対男性用武装モードに入っている。


「あれ、なんか二人とも固まっちゃってるけど。川田ちゃん俺のこと話したんでしょ?」

「話しましたけど、二人ともそれぞれの理由で衝撃を受けているんじゃないでしょうか」

「そっかー。川田ちゃんもそうだけど川田ちゃんの友達も面白いなー」

「そうですか?私自分は普通のタイプで面白い人ではないと思ってますけど」

「いやいや、川田ちゃん面白いよ。からかいがいあるし」


 悪戯っぽく笑った洋介さんの顔を見て先週の偵察デートを思い出す。散々からかわれて酷い目にあったものだ、今でも悔しい。


「おのれ洋介さん…これからはあんな風にはいきませんからね」

「おー川田ちゃん怖いわー。お兄さん泣いちゃうわー」

「泣けばいいですよ、ええ。その姿を目に焼き付けてさらに写メにとって永久保存してあげます」

「え、ちょ川田ちゃん酷いよ!いつもみたいに軽く流してよ!」

「嫌です。先週は翻弄されましたが…もう負けませんからね」

「おおう…ちょっとからかい過ぎたかな?まあからかったつもりはなかったんだけど…」


 最後の方は小さくて聞こえなかったが、いつもみたいにやりこめたことにガッツポーズをしたくなった。負けっぱなしは嫌だし、これからも洋介さんを兄のように適当にあしらってあげよう。

 そんな小さな誓いを立てていると、フリーズしていた二人がやっと動き始めた。綾子は静かに紅茶を飲み、彰は目で詳しく話せと催促してくる。

 しょうがないので洋介さんを交え、あの日のことをもう一度二人に話した。



明日も0時に投稿します。

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