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思い通りにならぬ恋  作者: 遊々
本編
17/33

16 偵察の終わり

いつもふわっと書いているので文章がまとまってなくてすみません。

 映画館を出て秋人さんたちにばれないように隠れて待った。映画の内容はうっすらと覚えている程度で頭に残る話ではなかったが、胸は抉られるように痛んだ。片想いをしているときに両想いの恋愛映画なんて見るものじゃない。じくじくと痛む傷は、偵察に来たことを後悔させるのに十分な痛みを伴った。


「…なかなか出てきませんね」

「あの子映画見て泣いてたっぽいし化粧直しでもしてるんじゃないか?」

「成程、化粧直しですか…。そういうこともするんですね」

「裕はまだ化粧なんてしなくていいよ」

「興味ありますけど」

「スッピン派なのでお兄さんは反対です」

「洋介お兄さんには関係ありません」

「なんだよー。じゃあ秋人がスッピン好きって言ったら化粧しないの?」

「…」

「…ごめん、今のなし」


 真面目に考えてしまっただけなのだが、顔が険しくなっていたのか洋介さんがばつの悪そうな顔で謝った。別に秋人さん関連のことでいちいち謝らなくてもいいのに。


 少しの気まずさが漂う中に明るい笑い声が響いてきた。声のする方を見ると秋人さんと聡美さんが映画館から出てきたところだった。聡美さんは心底嬉しそうに笑い、秋人さんもそれに応えるように笑ってた。二人はとても楽しそうで、洋介さんから秋人さんがこのデートに乗り気ではないと聞いていてもそのことを信じる気にはなれなかった。

 相も変わらず女神のような笑みを浮かべる秋人さんを見ると胸が苦しくて。聡美さんが熱っぽく秋人さんを見ているのが許せなくて。自分の恋人でもないのに、そんな風に思う権利は私にはないのにそう思っていしまう自分が苛立たしくて。この気持ちを隠せなくなる前に早くこのデートが終わればいいのにと思ってしまう。


 その後も二人はデートで楽し気にしていた。映画館の後は喫茶店に寄ってお喋りをし、喫茶店を出た後はウィンドウショッピング。最後は秋人さんが聡美さんに何かをプレゼントして別れたところで二人のデートは終わったようだった。

 二人はどこからどうみても素敵な恋人たちにしか見えず、幸せオーラを終始放っていた。特に聡美さんの方は最後のデートになるからだろう、全力で楽しんでいるのが見ているこちらにも伝わるほど、幸せそうだった。秋人さんは告白を断っているのもあって一線を引いている感じもあったが、それでも聡美さんに真摯に向き合って、彼女の願いに応えるように今日の日を楽しんでいるように感じられた。

 別れ際、聡美さんは泣きそうな顔で秋人さんを見ていた。断られてもやっぱり諦めきれないんだろう、秋人さんに何かを伝えていた。聡美さんの顔はとても必死で、見ている私の方が辛くなった。それでも秋人さんは困ったように微笑むだけで、聡美さんの気持ちには応えなかったようだった。聡美さんは目を潤ませて走って秋人さんの元を去っていった。彼女は今、どこかで泣いているのだろうか。


 聡美さんの去り際の顔を見たとき、彼女たちのデートを盗み見ていた自分を思い出した。罪悪感が足元から這い上がった。私は何をしているんだろう、と後悔が身体中を駆け巡る。

 聡美さんのあの涙を堪えた顔は、いつかくる私の未来を思わせる。私も秋人さんに振られたら、あんな風に泣くのだろうか。それとも彼女みたいにきちんと気持ちを告げることが出来ずに、自分でその想いの芽を摘み取るのだろうか。それとも枯れるまで待つのだろうか。

 同じ舞台にも立てていない私が聡美さんの恋の終わりを見てしまった。彼女に対して申し訳なくて、今日の偵察を暗い気持ちで終えた私は最低の気分だった。

 

「…洋介さん。私今日偵察に来たこと今後悔してます。結構辛いですね、好きな人が別の女性と楽しそうに笑っているのって」


 思わず口から零れた言葉は紛れもない、私の本音だった。秋人さんが他の女性に微笑む姿は、痛く胸を締め付けた。洋介さんの前で口に出してしまう程、私は今回のことがショックだったようだ。だけどそれだけじゃない。彼女のあの顔が、罪悪感が思わず本音を吐き出させた。


「ごめん、誘って。俺が楽しそうとか思って軽い気持ちで誘っちゃったんだ。裕の…川田ちゃんの気持ちをあんまり考えてなかった」

「いや、これは自己責任ですから洋介さんのせいじゃありませんよ。私が好奇心に負けてしまった結果です」


 洋介さんは苦々しい顔をして俯いている。彼のせいではない、私が好奇心に打ち勝てばよかった話なのだ。それなのに秋人さんが他の女性と出掛けるときはどんな感じなのかが知りたくてこうしてのこのこと偵察に来た訳だ。そして勝手に傷ついて、洋介さんに迷惑かけて心配までさせてしまって。最低だ、私。


「私、自分ってもっと精神的に強いタイプだと思ってたんです。昔から打たれ強かったですから。でもそうじゃなかったみたいで今、かなり堪えてます。ごめんなさい、いきなりこんなこと言われても困りますよね」


 洋介さんは兄のようで、思わず色々と話してしまいたくなる。こんな風に悩んでいることも口に出してしまうくらいには、私は洋介さんと仲良くなれているのかもしれない。苦笑していると、洋介さんが顔を上げた。


「いや、川田ちゃんがこんな風に色々俺に言ってくれるのは嬉しいよ。お兄さん結構信頼させてるのかな?」


 暗くなってしまった空気を明るくするためか、少し茶化して笑う洋介さんはとても大人びて見えた。本当に優しい、面倒見のいい人だ。


「そうかもしれないです。私あんまり友達にもこういうこと言ったことないから」

「…それはそれは。お兄さん照れちゃうな!」

「流石年上ですね、なんだか包容力がある感じがします」

「年上だからじゃなくて、洋介お兄さんだから包容力があるんですー」

「はいはい、そういうことにしておきます」


 いつもの軽口が今日はとても心地良い。苦しかった心が、少しだけ楽になった気がした。

 空気が和んできたとき、急に洋介さんが真面目な顔をして私の目をじっと見た。いきなり見られて私は驚きつつも、少し照れてしまう。こんなにじっくり見られたことがないから恥ずかしい。


「川田ちゃん、好きな人が別の人と楽しそうにしてるのを見るのは誰だって辛いよ。俺だってそう言う場面を見たら辛くなるから。誰だってさ、堪えると思うんだ。だから気にしなくていいよ。皆同じだから」


 急に何を言いだすのかと思ったら先ほどの悩みの答えだったようだ。真面目に答えてくれることが嬉しくて、思わず顔が赤くなる。少しだけ、涙が出そうになった。


「川田ちゃんはタフじゃないよ。『LaLa』で話してたから分かるよ。恋なんて楽しいことばかりじゃないんだ、辛くて悲しいことだって沢山ある。好きな人のことで悩んで変わろうとして…君は恋する女の子だ。傷付きやすい、恋に戸惑う普通の女の子」


 あまりにそう言う洋介さんの顔が優しくて、声音が優しくて。張り詰めていた心が少し緩んだと同時に、頬を涙が伝い落ちる。人前で泣いたことなんかなくて、恥ずかしいから急いで服の袖で涙を拭うのに、涙はぽろぽろこぼれてくる。


 恋愛経験がなくて自分の気持ちに上手く向き合えなかった。だから恋をして生まれた醜い部分に蓋をして見ないフリをした。だけど蓋をしても溢れて顔を出してしまうその部分を、上手く消化できずにいた。そんな自分が嫌で、耐えられなくて。

 だけど洋介さんが『普通の女の子』って言ったとき、ああこれは皆体験していることなのかなって思えた。私なんかより経験のある洋介さんが言うんだからきっとそうなんだろう。自分だけが恋でこんな最低に思える人間になる訳じゃないって思うと、心が救われた気がした。


 安心感が涙になってこぼれるから、とまらなかった。拭っても拭ってもこぼれてきて、恥ずかしい。


「ご、ごめんなさっ」


 みっともない姿を晒して申し訳なくなり謝ろうとしたら急に洋介さんに抱きしめられた。がっしりとした胸は大きくて、彼が男性であることを意識させる。

 そう思ったら恥ずかしくなって腕の中から出ようともがくけれど、なかなか解放してくれない。


「ちょっ!何するんですか!」

「泣き顔皆に見られちゃうよ?」

「今の状態見られるのもどうかと思うんですけどっ!?」

「…それもそーだね。残念だなー」


 笑いながら腕を解く洋介さんは悪戯に成功した子供みたいだった。


「全然残念じゃないんで」

「あらら、恥ずかしかった?」

「当たり前じゃないですか!」


 顔を真っ赤にして怒ると洋介さんは笑いながら私の目元の涙をそっと拭った。


「泣いてちょっとスッキリした?」

「え?…まあそうですね。いきなり泣き出しちゃってすみません」

「お気になさらず。いーもん見れましたなー」

「くっ…一生の不覚。泣き顔晒すなんて初めてですよ」

「…秋人にも見せたことない感じ?」

「当たり前でしょ!こんな不甲斐ない姿秋人さんには見せられませんよ!いや洋介さんにも見せるつもりありませんでしたけど!」


 洋介さんの優しさにほろりと涙が出てしまったが次はこんなことがないようにしなければ。恥ずかし過ぎてみっともなさ過ぎて新たな黒歴史となってしまった。洋介さんには情けない姿を見られてばかりだ。


「はぁー…川田ちゃんって俺のツボを着実についてくるよね。やばいわ俺…」

「今日は意味不明なことよく呟きますね」

「まあね。でも元気取り戻したみたいで良かった」

「洋介さんが余計なこと言うからとっくに涙なんて引っ込みましたよまったく」

「それでこそいつもの川田ちゃんだ」


 うんうんと頷く洋介さん。なんだか彼と話していると気が抜けてしまう。思わず苦笑いをすると彼は楽しそうに笑顔を返してくれた。


 偵察も終わったので私は洋介さんと別れて家に帰った。色々思うところのあった一日だったけれど、少しだけ自分の恋に向き合えた気がする。もう失恋したと逃げていたけれど、いつかは気持ちを伝えてきっちり芽を摘み取ろう。枯れるまで待っていたら、新しい芽はずっと見つからないだろうから。

 そういえばいつの間にか川田ちゃん呼びに戻っていたけれど、良かったのだろうか?まあ今回のデート限りだったので良いんだろうけど…少しだけ残念な気がしたのは気のせいだろう。



言いたいことが言えない(まとまらない)こんな世の中じゃ~

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