14 荒れる心
サブタイトルをつけるのが苦手すぎて番号だけ振っておけばよかったと早くも後悔し始めています。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。洋介さんはとんでもない人だ。秋人さんとゼミの女性早く来てぇ!
洋介さんは本気デート発言からずっと私に向かって可愛いだの綺麗だのと言ってくる。いつものチャラ男モードならなんとも思わないのに、顔がおちゃらけてないマジな感じなので私の体力は既に尽きかけていた。
怖いよ!やばいよ!照れるよぉ!
カッコいいとか男みたいとか言われるのが常だった私はこういう言葉を言われることに免疫がない。なんて返事したらいいの?無難な返事ってなんなの?どういう対応したらいいの?教えて綾子ぉ!
「裕顔真っ赤だよ?」
「誰のせいだと思ってるんですか!洋介さん私で遊んでるでしょ!」
「実はちょっとだけ。だって照れる裕が可愛いんだもん」
この男はまた…!何がだもんだよ!
モテ男許すまじ!
「色んな女の子に言ってるんでしょ?私にそんなこと言ったって無駄ですよ!負けませんからね!」
「負けませんって…あはは!ほんと裕は面白いね。そういうとこ凄い好き」
「だー!このモテ男め!そうやって女を手玉に取ってるんですね!恐ろしい!」
「酷いなー。そんなことしてないよ。思ったこと言ってるだけだよ?」
「そういうとこですよ!そういうとこ!」
「可愛いなぁ…食べちゃいたい」
「私は食べ物じゃありません!」
ほんとに恐ろしい男や…!
兄みたいだと思っていた認識を覆されてしまった。
恥ずかし過ぎてさっと顔を逸らすと秋人さんがいた。
「あ!洋介さん秋人さん来ましたよ!」
「あー来ちゃったかー。しょうがない、このくらいにしてあげましょう」
「やっぱり私で遊んでましたね…!」
「そんなことないよー。ほらほら、秋人の様子見るんでしょ?」
絶妙に話を逸らされた気がするが、結局秋人さんが気になったので秋人さんの方を見た。
秋人さんは普通に男の人の恰好をしていた。私と出掛ける時にはしない恰好。
ジャケットをカッコよく着こなし、スラリとしたパンツを履いている。靴は革靴だろうか?久々に見た男性らしい姿。
芸能人のようなオーラを放ち、道行く女性の視線を集めている。
今日も麗しい美しさが損なわれることはなく、女神のような美しさを惜しむことなく漂わせていた。
…分かってる、分かっているのだ。
秋人さんはきっと望ましい恰好で来たわけじゃない。女性らしい恰好で来たかったはずだ。いつも好きなブランドの新作について話していて、今の流行はこれだあれだと楽しそうに話す人だから。
それでもやっぱり、羨ましい。
男性の姿の秋人さんに最初に惹かれたから。一目惚れしたのが、男性姿の彼だったから。
私が秋人さんに釘付けになっていたら、徐に洋介さんが口を開いた。
「やっぱ好きなんだね、秋人のこと」
「…未練がましく喫茶店に通うくらいには」
「じゃなきゃ今日も偵察になんか来ないよなー」
「まあ…そうですね」
どことなく寂しそうに笑う洋介さんは秋人さんを見つめたまま言った。
「新しい恋をするつもりとかはないの?」
「…今はまだ。でも忘れようとは思っているんです。新しい恋をしなきゃって。でも私の初恋ですし…諦められない」
「…そっか」
なんだかしんみりした空気になっていたら、秋人さんに向かって可愛らしい女性が近づいていった。
ロングの髪を可愛くまとめた、小さい女性らしい人だった。
「あれが今回の秋人のデートの相手だよ。控えめな性格をした男性に人気の子。普段は自分から告白したりするようなタイプじゃないらしいんだけど、秋人に告白して玉砕。ショックでしばらく寝込んだらしいよ。だけど秋人のことが諦められなかったみたいで付き合ってくれなくていいから一度だけデートして欲しいって頼み込んだみたい。ああいう子の方が意外と肉食系だよなー」
「随分詳しいですね…」
「女性の友人が沢山いますからね。秋人と仲良いのもあって勝手に情報を教えてくれるんだよねー。まあそれで今回もデート情報を知った訳です」
「なるほど、納得です」
「妬いた?俺に女性の友達沢山いるのに妬いた?」
「いえ、まったく」
「調子が戻ってきたね!辛辣ぅ!」
色々落ち込んでいたが洋介さんと話していたらすっかり元に戻っていた。
なんだかんだ優しくて尊敬できる人である。それでも優しくするつもりはない。優しくすると調子に乗るからなこの人。
「はー…可愛らしい人ですね。デートか…」
「って言っても別に秋人が望んでデートしてるわけじゃないからね?」
「分かってますよ。でもやっぱり…はぁー」
「俺とのデートじゃ不満?」
「不満しかない」
「変わらぬ塩対応にお兄さん泣いちゃうよ?」
「泣いたってハンカチは貸しませんから」
「酷いよ裕!お兄さん心が今凄く傷ついてる。あー泣いちゃうわーこれ泣いちゃうわー」
「どうぞ泣いてください。泣いてカラになったコーヒーカップを満たしたらいい」
「それはあんまりだよ裕…よよよよ…」
「何がよよよよですかまったく」
相変わらずしょうもないことを言う人だ。
だけどそんな洋介さんの言葉に救われているのも確かだ。まあ落ち込む原因の偵察に誘ってきたのもこの人だけど。
「…感謝してます。今日は秋人さんの男装姿が見れましたし。ありがとう、洋介さん」
いいものが見れたのも確かだ。秋人さんの男性の恰好なんて激レアだからね!
思わず笑顔になって洋介さんの方を見ると、何故か顔を真っ赤にしていた。
急にどうした?
「それは反則だよ…」
「は?」
「何でもない、こっちの話。よし!張り切って偵察しようぜ!」
話を逸らされたがやる気に満ち溢れたようで何より。
これから秋人さんがどんな風にデートをするのか観察しなきゃいけないからな!
こうして長い長い一日が始まったのである。
対洋介用の飴と鞭の使い方が上手い(無意識)裕ちゃんに翻弄される洋介さんはきっと不憫系キャラ。