00 私と彼
昔から考えていたお話です。
終わりは決めていますが、物語がどういう道筋を辿って行くかは大雑把にしか決めておりません。
なので完結までどれくらいかかるか分かりませんが、宜しくお願い致します。
カラン。
「いらっしゃいませー!」
シックな色合いでまとめられた外観。落ち着いた上品な雰囲気を持つ喫茶店。
その扉を開いて中に入るとそこは…
「あら裕ちゃん久しぶりね~!テスト期間はもう終わったのかしら?」
大輪の美しい花が咲いたような眩しい笑顔。
細い体に着ている服は紺色のロングワンピースに白いエプロン。所謂メイド服という奴だ。髪はビターチョコレートのような焦げ茶色でキューティクルが眩しいショートボブ。綺麗に整った顔。ナチュラルメイクがその顔をより引き立たせている。
美しい、という言葉が似合うまるで芸能人のような美人…の男性。
そう、ここは…女装喫茶「LaLa」なのです。
※ ※ ※ ※ ※ ※
私は川田裕、高校2年生になる花の女子高生である。
身長が167cmと無駄にあるのと少し中性的らしい容姿への反抗で、せめてもの女性らしさとして髪をセミロングまで伸ばしている。ロングに挑戦しようとしたが、私はガサツでめんどくさがり屋なので髪の手入れはセミロングが限界だった。元々長いことショートでいたのもあって長い髪の手入れは得意ではない。
勿論そんな性格なのでメイクなどしていない。最低限のスキンケアをして日焼け止めを塗ってあるくらいである。だが年齢的に化粧をしなくてもOKだろうと高校生活の3年間をこれで通すつもりである。毎朝メイクをして学校に来る同級生の女子たちは凄い、逞しい。私には朝にそんな重労働をする根性はない。
…決して憧れていないわけではない。綺麗だな、可愛いな、自分もあんな風になってみたいな、とは思う。だが朝起きるのが苦手な私にはそんな時間を捻出することは出来ないのは自覚している。なのできっぱり諦めている。
さて、そんな私が何故普通の喫茶店ではなく女装喫茶にわざわざ来ているのかというと、勿論理由がある。
「ご注文はお決まりですか?」
「はい…えっと、ココアで」
「かしこまりました!」
にっこり女神のような微笑みを残してオーダーを伝えに行くメイドさん。
彼、「秋ちゃん」こと藤堂秋人さんに会うためだ!
秋人さんはここ、女装喫茶「LaLa」でバイトをしている大学2年生で、私の師匠である。何の師匠かというと、女性らしくなる為の美の師匠だ。秋人さんは男性だというのに美容にもファッションにも詳しい。ここで働いているときの彼は本当に女性の様で、彼にここで出会ったときは最初、秋人さんだと気付かなかった。
というのも、私と彼の最初の出会いは少し変わったものだったのだが、その時に男性の姿の秋人さんと知り合った。良かったらバイト先に遊びに来て、と言われて2度目に会ったのが女装した秋人さん。
気付いた時は驚きのあまり暫くフリーズしていたので大層心配された。恥ずかしい思い出である。
女性らしいや女装とここまで表現していたが、それは正しい表現ではない。彼は女性である。所謂『オカマ』という奴だ。
そもそもこの女装喫茶でバイトをしているのは、女性の恰好をしても堂々としていられるかららしい。普段の生活の中ではオカマであるということは隠しているんだと彼に教えてもらったことがある。
彼、と表現しているのは以前、男性として認識すべきか女性として認識すべきか真剣に悩んでいた時に「好きな方で認識してくれていいよ」と言っていくれたので私は彼として認識している。
そんな彼に、私は男みたいな自分が恥ずかしかったので女性らしさを教えてくれと頼み込んだのだ。情けないが私は女性でありながら美容やファッションに疎く、男っぽいところがある。仕草も女性らしさはない。以前は髪が短かったのと、女性にしては無駄に身長があること、女性にしては低めの声というのも手伝ってたまに男性に間違えられたりもした。今は髪を伸ばしたり女性らしい服装をするようになったのでそういうことはなくなった。秋人さんのご指導のおかげである。非常に嬉しい。
秋人さんは優しい人で、そんな私の身勝手な頼みを聞いてくれた。それ以来、たまに休日に一緒に買い物に行ったりしてそこで女性っぽさをレクチャーしてもらっている。髪を伸ばそうと思ったのもその時。
レクチャーして頂いているのだからめんどくさいとか言ってないで少しは自分でも頑張ろう!と決意したのだ。秋人さんみたいに素敵になりたいのだ。
秋人さんは私にとって男性でありながら、私の理想の女性なのだ。
…まぁその頼みは彼に会うための建前でしかないのだが。これは私が彼として認識していることにも関わる。
私は彼に初めて出会った時に、恋に落ちたのだ。
ストックがあるうちは毎日0時に更新したいと思います。