プロローグ
さっきまでトイレで大便をしていたはずだ。高校をやめるかやめないかで迷っていたはずだ。
それなのに、何故今こんな白い空間にいるのだろうか。お尻が急に重くなるのを感じ疑問に思った瞬間、身体がトイレの中に吸い込まれていってしまった。
「ここは何処なんだろうか」
辺りを見回しても白色でどこが壁なのかもわからなかった。急な景色の変化についていけず、しばらくの間じっとしていた。
「お!お前さんか!」
後ろから軽く声をかけられた。
振り向いてみると、いっちょまえに伸ばした白いひげが目立つ、大分歳を取ったおじいさんに見えた。
「なんとか無事に来れたようじゃな」
言ってる意味がわからなかった。
「あの…あなたは誰ですか?」
訳が分からないまま最初に出た言葉がこれだった。
「わしか?わしは『神の使い』じゃ」
ますます意味がわからなくなっていった。
混乱している詩熊をよそに神の使いは話始めた。
「ここに滞在できる時間は少ないからさっさと話すぞ。まず、お主は勇者に選ばれたのじゃ。」
唐突な発言で目が点になる。
「それでじゃ、今までお前が住んでいた世界とは別の世界に危機が迫っておる」
「別の…世界?」
なんとか絞りでた言葉だった。
「んーそうじゃの~、お前の立場で言えばパラレルワールドと言うかの」
「パラレルワールド…」
「そう、それでお前が勇者となりその世界を救ってほしいのじゃ」
少しの沈黙の後、詩熊がそっと答えた。
「言っていることが何も理解できません。勇者になって世界を救えと急に言われても、意味が分かりません」
「なに⁉意味が分からないじゃと?世界を救ってほしいのじゃ、簡単じゃろ」
「俺には世界なんか救う前に自分の人生を救うのに精一杯なんです」
「うるさいの~ところでなんでお主、さっきからお尻を出したまんまなんじゃ?」
急に変なところに来て気が動転していたのか綺麗なお尻を出したまま今まで話していたらしい。
「これは俺がトイレで大便をしていたら急に自分ごと流されたからですよ‼」
恥ずかしさからか今までで一番大きな声が出た。
「それはすまんかった。やはり古いワープ魔法ではうまくいかんの~」
「もう、帰らせてもらいます‼」
詩熊はそう言いながら辺りを見回し適当に進んで行こうとした。
「おい」
明らかにさっきとは低く、身体がすくみあがる様な声になり、詩熊はすぐに顔を見た。これから何をされるのかわからない恐怖感が身体を駆け巡った。そして神の使いが口を開いた。
「ちゃんと紙を使ってケツは拭けたのか?神の使いだけにな~~」
自分のボケに大笑いする神の使いに対して、詩熊は怒りが一気にこみ上げてきた。
「おいジジィ‼いい加減にしろよ!」
「おっと、もう時間じゃわい」
そう言った後、怒りで罵声を言い続ける詩熊の立っていた地面が突如無くなり、真っ暗な底が見えない穴へと詩熊は落ちていった。
「頼んだぞ、我々の希望よ…」
「くそー!!あのジジィめ!!」
怒りが冷えないまま詩熊は吸い込まれていった。
初めての投稿です。
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