第七百十話 神化(前編)
---三人称視点---
ラサミス達は、突然の事態に眼を奪われた。
静寂の中、いずこからともなく現れた光の闘気が渦巻き、
うねりを生じて人型の形状を取る。
冥界の黒水晶を研磨して、削りだしたかのような、妖しく、美しい黒い輝き。
体長は190セレチ(約190センチ)以上。
V字型で美しく鋭利なフェイスマスクの前面は漆黒のゴーグルとなっており、
その内側に二つの銀色の眼が輝いている。
中世の騎士のような漆黒の装甲を全身に纏い、四肢は細くて長い。
そして腰には黒く輝く長剣が鞘に収められている。
ラサミス達はその見事な姿に眼を奪われて、その場に立ち尽くした。
その妖しいまでの美しい姿から発せられる魔力と闘気に全員固唾を呑む。
そしてその漆黒の人型の物体。
――神化したウリエルは高らかに叫んだ。
『――我は熾天使ウリエル。
これが熾天使の進化ならぬ神化した真の姿。
この姿を見た者で生き残った者は居ない。
だから貴様等にもこの場で神罰の鉄槌を喰らわせてくれよう」
「……マジかよ」
ラサミスは穴が空くように突如現れた黒い人影を凝視している。
象牙細工のように洗練された華麗なフォルムの黒い人型の物体。
神化したウリエルがラサミス達の前に立ち塞がり、
鞘から長くて鋭い神剣を抜剣して、
その切っ先を前方に向ける。
その姿はまるで決闘を申し込む中世の騎士のように様になっている。
ウリエルは、手にした神剣を天を突き刺すように掲げる。
そしてその腕を力強く引き絞ると――
『――ナイトメア・ブレード!!』
凛とした声で技名を発して、猛烈な突きを放った。
すると剣先から迸る黒い閃光が、轟音を轟かせて目の前の標的を捉える。
ガキイィィィン!! と凄まじい衝撃音が轟き、大気が揺れた。
「う、う、うわあああぁぁぁっ――――」
壮絶な一撃を受けて、ジウバルトは野獣のような絶叫をあげる。
だがウリエルは更に激しい斬撃を繰り出した。
ガキン、ガキン、ガキン、という硬質な音を立てて、
今度は前進して、目の前に居たジュリーに渾身の一撃を繰り出した。
「ニャ、ニャアアアァ……アアアァッ!!」
声にならない悲鳴を上げるジュリー。
ウリエルが何度も神剣を振り、
その都度、ジュリーの身体に鋭い切り傷が生じて、全身から赤い鮮血が宙に飛散する。
「くっ……トリプル・スラストッ!!」
ジュリーを救うべく、ミネルバが猛烈な勢いで突きを繰り出す。
視認不可視な速度で光の闘気に満ちた渾身の突きで連打を放つ。
流星のように繰り出される突き。
それを神化したウリエルは優雅な仕草で交わす。
舞うように避け、あるいは剣で受け止めるウリエル。
「――ペンタ・トゥレラッ!!」
更に突きを放つミネルバ。
終わることのない猛烈なラッシュで、ジリジリと押されながらも、
ウリエルの闘志はわずかにも鈍る気配を見せない。
全身に光の闘気を漲らせ、ミネルバの動きに僅かな隙を見つけては、
鋭い反撃を撃ち込む。 ミネルバの漆黒の軽鎧に深い切り傷が刻まれて、定規で測ったような正確さで何度も何度も神剣で突き、斬り、薙ぎ払う。
ウリエルのその仕草は優雅かつ覇気に満ちており、そして王者の風格を漂わせている。
「くっ……コイツ! つ、強すぎる」
「ミネルバ、一端下がれ!
我は汝、我が名はラサミス。
我は力を求める。 母なる大地ウェルガリアよ!
我に大いなる恵みを与えたまえ! 『ライジング・サン』!!』
ラサミスはここで職業能力・『ライジング・サン』を発動させた。
職業能力が発動するなり、
ラサミスの居る位置を中心に目映い光が生じて、
周囲の傷ついた仲間を優しく包み込んだ。
これによってジウバルトとジュリーの傷が癒やされ、
行動不能及び瀕死状態から回復。
だが一度受けた精神的なダメージが大きくて、
行動可能な状態になっても、ジウバルトとジュリーは戦いていた。
「ここで奴の能力を分析してみるから、
ヨハン団長とミネルバ、フォローを頼みます!」
「了解だ」「分かったわ」
「――能力分析っ!!」
ラサミスはここで職業能力・『能力分析』を発動させた。
「――龍の鼓動っ!!!」
そしてミネルバも職業能力「龍の鼓動」を使い、
自分の耐久力と敏捷、そして耐魔力が大幅に上げる向上させた。
「ラサミスくん、分析はまだかっ!?」
「ヨハン団長、そろそろ終わります!!」
ラサミスがそう言葉を交わすと丁度、分析が終わり、
ウリエルの能力値の数値がラサミスの脳裏に浮かび上がった。
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名前:ウリエル
種族:天使
階級:熾天使・レベル88
能力値
力 :8850/10000
防御力 :8250/10000
器用さ :6485/10000
素早さ :8115/10000
知力 :7300/10000
魔力 :10000/10000
攻撃魔力:7365/10000
回復魔力:7750/10000
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「何だ!! この数値は……!?
レベル88で力8850に、魔力10000だとっ!?」
「それはとんでもない数字だな。
でも少し安心したよ、全能力フルカンストでなくてね」
「確かに、とてつもなく強いが、
数値の上では戦えなくもないですね。
とはいえ油断は禁物、皆、厳しい戦いになるだろうが、
最大限の警戒心を払って、眼前の熾天使を倒すぞ」
ラサミスの一言で戦意喪失していたジュリーとジウバルトも
再び武器を手にして身構えた。
だが正直言えばラサミスと剣聖ヨハン以外の者は、
この絶望的状況に肝を冷やしながら、
周囲の空気を読んで、戦闘態勢に入るのがやっとであった。
次回の更新は2025年12月4日(木)の予定です。
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