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第六百九十八話 強行接舷

---三人称視点---



「よーし、あの黒い船が怯んでいるうちに、

 強襲揚陸艦を船に強行接舷するんニャ!」


 ニャラード団長は、押せ押せの状態でありながらも、

 冷静に戦況を分析して、周囲の者達に指示を出した。


 いくらニャラード団長でもメルカバーを撃沈する事は出来ない。

 となればメルカバーに強行接舷して、

 大量の兵士を艦内に送り、白兵戦を行い船を拿捕する。

 という基本戦略に基づいて戦うのがこの場においては正しいであろう。


 ニャラード団長やツシマン、その周囲の魔導猫騎士まどうねこきし達は、

 メルカバーに目掛けて、魔法攻撃で攻め立てた。

 その攻撃を受けて、メルカバーが急速回頭して、

 ビーム及びレーザー攻撃で反撃態勢を取ろうとしたが――


「良し、ここから強行接舷するニャ!

 艦内の皆も衝撃に耐えてねっ!!!」


 ラサミス達を乗せた強襲揚陸艇を操縦する茶トラの猫族ニャーマン

 そう言いながら、相手の間隙を突いて、

 メルカバーの艦複に強烈な体当たりを喰らわせた。


 それによって激しい衝撃が伝わり、

 メルカバーと数台の強襲揚陸艇は、強力な電磁石で密着状態となった。


 そこから強襲揚陸艇が強力な酸化剤を噴きつけて、

 双方を隔てるメルカバーの装甲に大きな穴が穿たれた。


「よーし、ここからが真の勝負だぁっ!!

 艦内に居る敵兵を全部蹴散らすんだっ!!!

 もし大天使と遭遇した際には、無理に交戦せず、

 大天使の居場所をオレ達「暁の大地」か、「ヴァンキッシュ」に知らせろ!

 そうしたらオレか、剣聖ヨハンがその大天使を蹴散らせてみせよう!」

 

 ラサミスがそう高らかに宣言すると、

 メルカバーに強制接舷された5台の強襲揚陸艇から、

 総勢250名に及ぶ傭兵及び冒険者部隊がメルカバーの艦内に突入した。


 時間にして午後の十七時十分過ぎ。

 ウェルガリア軍と天使軍の存亡をかけた戦いが開始された。



---------


 物理的衝撃もだが、このメルカバーの艦内突入という事実は、

 メルカバー艦内の天使兵及び機械兵。

 また艦外に残された天使軍に大きな心理的衝撃を与えた。


 天使の叡智の結晶であるメルカバーに地上人の侵入を赦したのだ。

 その信じられない事実と現実に天使軍は、少なからず動揺した。


『警告! 警告しますっ!

 メルカバーの艦内に敵部隊が侵入しましたっ!

 艦内に居る防衛部隊は、直ちに動き敵部隊を食い止めてください!

 非戦闘員は恐れる事なく、持ち場に残り、

 味方の防衛部隊のフォローとサポートに専念してください』


 AIエーアイ制御システムの無機質な女性の声が艦内に響き渡り、

 中央発令所に居るミカエル達も少なからぬ衝撃を受けていた。


「まさかこのメルカバーが地上人に侵入されるとはな。

 これは由々しき事態だが、今それを言っても始まらん。

 とりあえず的確な指示を出して、我等は様子を見て行動するぞ」


「だが天使長、敵がこの中央発令所に侵入して来る可能性もあるぞ?」


「同士ラファエル、無論その事は百も承知だ。

 その上で我等は理性を優先して動く必要がある」


「具体的にどう動くつもりなの?」


 と、熾天使してんしガブリエル。


「そうだな、最悪の事態を想定して、

 我等、熾天使してんしは艦内の時空転移装置を使って、

 天界エリシオンに帰還した方がいいかもしれんな」


「だが全員が帰還する事は出来ないであろう。

 誰かがメルカバー内に残って総指揮を執る必要がある。

 そして僭越ながら、自分がその大役を引き受けようと思う」


「同士ウリエル、確かに誰かが残る必要があるな。

 分かった、私とラファエル、ガブリエルはこのまま時空転移装置で、

 天界まで時空転移するから、

 後の事はウリエル――貴公に任せたいと思う」


「天使長、任されましょう」


「……仕方あるまい、では俺と天使長。

 そしてガブリエルの三人はこのまま時空転移装置のある部屋へ移ろう」


「同士ラファエル、悪いが私は少し遅れて移動するつもりだ」」


「……構わんが何か理由でもあるのか?」


 ラファエルの問いに天使長ミカエルが「嗚呼」と頷く。


「この目で一目、特異点を見ておきたい」


「……分かった、そこは天使長の権限で好きにするが良いさ」


「同士ラファエル、私も一目、特異点を見ておきたいわ」


「……貴公もか、まあ良かろう。

 正直、状況を考えて欲しい、と思わなくもないが、

 我々が地上の民にここまで追い詰められたのも滅多にない事だ。

 だからその原因を探る必要はあるかもしれんな」


「同士ラファエル、理解が早くて助かるわ。

 それでお願いがあるのだけど、

 アナタが入力したマスターディスクの情報を消去して、

 新たな総司令官に私か、天使長を任命して欲しいのよ」


「天使長は分かるが、貴公にその権限を与えるのは、

 少しばかり不安要素が高いな」


「同士ラファエル、それは気にする必要はなかろう。

 ガブリエルとて熾天使してんしの一人。

 地上人――ウェルガリアの民に情けはかけても、

 我等を裏切るような利敵行為はしないと、私は信じている」


「天使長、信頼してくれてありがとう」


「まあ貴公が何を企んでいるかは分からんが、

 貴公に我々とウェルガリアの民の仲介人をしてもらう。

 というのも一つの選択肢かもしれん」


「……私を信じて、私も熾天使してんしの一人よ。

 同士を売るような真似は決してしないわ」


「嗚呼、私もそう信じているよ。

 同士ラファエル、とりあえずマスターディスクを使用して、

 メルカバーの総指揮権を貴公からガブリエルに変更してくれ」


「……分かった、天使長がそう言うなら俺も素直に従うよ」


 そしてラファエルは、懐から透明のディスクを取り出した。

 言うまでもない、メルカバーのマスターディスクである。


 その時、艦内に大きな衝撃が走った。

 どうやら既に艦内で戦闘が始まった模様。


「……時間がないようだな。

 ではこれより総指揮権の譲渡を行う」


 ラファエルは艦長席用の液晶スクリーンと、

 そこに接続された高性能コンピュータに視線を落とす。

 そして挿入口を確認して、ラファエルは右手に持った透明なディスクを挿入した。


 事実上の撤退を選んだミカエル達だが、

 これで敗北を喫したつもりはなかった。


「大丈夫さ、私は「ディバイン・ストーン」を使ってでも、

 彼奴等きゃつらを食い止めて見せるさ」


 そう言うウリエルの目は、何処までも真剣で強い意志が宿っていた。


次回の更新は2025年11月6日(木)の予定です。


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― 新着の感想 ―
ウェルガリア愛読者です……って言いたいけど江保場さんが熱烈に読まれているのをみて何故だか震えています(笑)どうしよう……ラジオに来たら勢いでウェルガリアの話になるかも(笑) さてさて。ニャーマン人気…
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