第六百九十二話 燎原之火(後編)
---三人称視点---
制空権を奪うべく、
ウェルガリア軍と天使軍の空戦部隊は激しく戦った。
旋風が巻き起こり、大地はうなり、
爆発によって、空が激しく振動した。
ウェルガリア軍と天使軍の戦いは苛烈を極めていた。
「いいぞ、いいぞ、数では我が軍が勝っている。
焦らず確実に敵を各個撃破していくニャン。
そうすればおのずと勝利の道が切り開かれる」
「しかしニャラード団長、敵艦に接舷するのは、
少々厳しいと思うでニャンすっ!」
「ツシマン、いざとなれば私が巨大化して、
あの黒い船の横っ腹にドス穴を開けてみせよう。
但し今はまだその時ではニャい。
兎に角、今は一体でも多く敵を倒すのニャ!」
「了解でごわすっ!!!」
その後、ニャラード団長の魔導猫騎士部隊。
エンドラのサキュバス部隊、レフ団長の竜騎士部隊。
キャスパーの龍族部隊などが一丸となって戦った。
対する座天使ソロネは、前回同様に銀色の円盤の上に乗り、
天使兵やエア・バイクに乗った戦闘バイオロイドを従えて、
得意の無詠唱魔法攻撃で応戦する。
「ニャラード団長、天使兵や鉄馬に乗った機械兵は、
アタシ達サキュバス部隊や龍族部隊が引き受けるわ」
「ええ、バーナックの仇は取らせてもらう」
銀色の飛竜に乗ったキャスパーがそう告げる。
「それは助かりますニャ。
良し、ツシマン。 あの銀の円盤に乗った大天使と交戦するぞ!」
「はいでニャンすっ!!」
各自がそれぞれの役割を果たして、
目の前の時と戦い、確実に一体一体と敵兵を倒していく。
その最中、ニャラード団長と座天使ソロネが再び相まみえた。
「アラ? また会ったわね。 猫の大将さん」
「貴様の相手はこの私が務める。
だがその前に貴公の名前を聞いておきたい」
「猫に名乗る名前はない……と言いたいところだけど、
アナタは別格だから、あえて教えてあげるわ。
私の名前は座天使ソロネよっ!」
「座天使ソロネか、その名前……覚えておこう」
「猫の癖に気取らないで!
さあ、お喋りの時間は終わりよっ!」
「座天使ソロネ、いざ尋常に勝負!」
ニャラード団長はそう言って、
背中の両翼に魔力を篭めて、自由自在に空を飛翔する。
そして近くに居たツシマンに対して念話を送った。
――ツシマン、私の念話は聞こえているか?
――聞こえているなら、同様に念話で返信せよ。
すると五秒後にツシマンから念話が送られてきた。
――ニャラード団長、聞こえてるでごわす!
――そうか、ならば単刀直入に云う。
――私はこれからあのソロネと交戦するが、
――君にもフォローしてもらいたい。
――はい、フォローするでごわす!
――私の狙いは奴が乗っている銀色の円盤だ。
――あの円盤を氷結魔法から風魔法のコンボで、
――分解を発生させて破壊しようと思う。
――ニャー、それは名案でニャンす!
――だから君も上手くフォローしてくれ。
――了解でニャンす!
――では戦闘を開始するっ!
念話でお互いの意思の疎通を図り、
ニャラード団長はぐるぐると回りながら、空を飛ぶ。
一方のソロネも銀色の円盤の上に乗り、
その円盤をサーフボードのように滑らせて空を滑空する。
「じゃあ猫の大将さん、今度こそ決着をつけてみせるわ!」
ソロネはそう言うなり、
銀色の円盤を左右に振りながら、大空を自由に行き来した。
そしてソロネは、左手に魔力を篭めて、
無詠唱で中級の風魔法「ワール・ウインド」を唱えた。
一瞬にして十回分の魔法を唱えて、
ソロネの左手の周辺に十近い旋風が一瞬で生じた。
その旋風がこちらに迫って来たが、
ニャラード団長も背中の両翼を羽ばたかせて、
上下左右に空を飛びながら、
旋風を回避、あるいは土属性魔法でレジストを発生させた。
魔法の詠唱の速度、威力に関しては互角。
いや恐らくニャラード団長の方が上回っていたであろう。
だがこういう素早く移動されて、
連発で無詠唱魔法攻撃を仕掛けられたら、
回避や防御で手一杯でなかなか反撃する事が出来なかった。
――ニャラード団長、おいどんが仕掛けます!
――ツシマン、頼む! なんとかして隙を作ってくれ。
「――フロスト・キャノンでニャンす!」
無詠唱を使えないツシマンは、
短縮詠唱で氷結魔法「フロスト・キャノン」を連射した。
威力は中規模、但し速度は最大に設定。
そして氷の砲弾が高速で連射されたが、
ソロネは銀色の円盤を滑らかに動かして、
迫り来る氷の砲弾をスイスイと楽々と躱した。
だがここまでは想定内。
そして銀色の円盤の移動コースを読んだニャラード団長は、
その移動先を想定して、無詠唱で評決魔法を何連射も放った。
使用する魔法は「シューティング・ブリザード」。
威力は中規模、範囲と速度は広範囲かつ最高速度。
それによって放たれた「シューティング・ブリザード」は,
一発、二発と回避されたが、
三発目と四発目で見事に銀色の円盤に命中した。
「なっ……」
完全凍結ではなかったが、
ソロネを乗せた銀色の円盤は凍り付いて、
急に物理法則に従い、落下するように降下して行く。
再度、ニャラード団長は氷結魔法を放つ。
今度の使用魔法は「ハイパー・ブリザード」だ。
威力と範囲は中規模、それに対して速度は最高速度に設定。
「――ハイパー・ブリザードッ!!!」
無詠唱でなく、短縮詠唱で魔法を唱えるニャラード団長。
だがそのおかげで威力と範囲を保ったまま、
ニャラード団長の左手から凍てつく大冷気が放射された。
そしてその大冷気は落下する銀の円盤に命中。
それによって銀色の円盤は、完全に凍り付いた。
――良し、この好機を逃す手はないっ!
そう胸に刻み込み、
ニャラード団長は今度は短縮詠唱で風属性魔法を解き放った。
「――竜巻ッ!!!」
次回の更新は2025年10月23日(木)の予定です。
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