第六百九十一話 燎原之火(中編)
---三人称視点---
阿鼻叫喚。
この場の状況を例えるなら、まさにそれであった。
マリウス王弟が王城ニャンドランドに逃げ去って、
現場に残された猫族兵は、
蜘蛛の子を散らしたように、右往左往していた。
メギドの炎に加えて、
低周波ミサイル20発の直撃を喰らって、
25000以上の兵士が一瞬にして命を奪われた。
これによって丘陵部隊に配置した猫族軍と魔王軍は、
壊滅状態となり、ニャンドランド城まで無防備な状態となっていた。
この状況に熾天使ラファエルは、
勝利の余韻に酔いしれながらも、
液晶スクリーンに双眸を向けて戦況を見据えた。
「これで猫族の王城まで、
一気に攻められるようになったな」
「それは些か早計であろう」
そう釘を刺したのは天使長ミカエル。
この言葉にラファエルはやや気を悪くしながらも、
司令官として、天使長の意見を聞く事を決意。
「……敵はまだ動くというのか?」
「そうだ、同士ラファエル。
レスシーバ平原にはまだ多くの戦力が残っている。
恐らく奴等はその戦力の大半を次の戦いに投入してくるであろう」
「確かにその可能性は高いな。
王城を攻めている時に背面攻撃してきそうだな」
「こちらの空戦部隊や地上部隊はそれ程多くない。
いざ大軍で攻められると厳しいぞ」
「ならばこのメルカバーの対空砲や
ミサイル、ビーム、レーザー攻撃で迎撃してみせよう」
「だがメルカバーの総エネルギーも50パーセント代に落ち込んでいる。
ここで無理な戦闘を重ねると、航行不能になりかねん」
あくまで慎重論を唱えるミカエル。
だが彼の言うことは理にかなっていたので、
ラファエルも反論する事は控えた。
「ならな再度ソロネ達を空戦部隊として派遣するか」
「それが良かろう」
と、天使長ミカエル。
「だが次の攻撃では敵も総攻撃を仕掛けて来るだろう。
その際にメルカバーが応戦するのは構わんが、
派手に攻撃して総エネルギー不足にならないように配慮してくれ」
「……善処するよ」
こうしてメルカバーの空戦部隊として、
座天使ソロネとその配下が再び空戦部隊として、
ウェルガリア軍の空戦部隊の前に立ちはだかろうとしていた。
---------
「良し、無事に戻れたな。
これより空戦部隊に再度通告せよ。
全兵力を持って、あの空飛ぶ黒い船を攻めよとな」
「……伝える事は伝えますが、
兵士達の士気も下がっております。
何の対価もなければ、彼等も戦う気が起きぬでしょう」
魔王レクサーに対して、現実的問題を伝えるシーネンレムス。
するとレクサーも思うところがあったようだ。
「そうか、ならばどうすれば良いと思う」
「そうですな、まずは多額の報奨金を与える。
あるいは戦果をあげた者を昇進させる。
などの分かりやすいメリットを提示すべきでしょう」
「そうか、ならば報奨金や昇進も約束しよう」
「でもそれだけだと兵士の心は動かないかもしれません。
ここは危険ですが、魔王陛下ご自身も前線に出て、
兵士達を鼓舞するしかないでしょう」
「貴公が余の出陣を許可するとはな。
だが確かにそれくらいしないと、
兵士達の士気は上がらんかもな」
「ですがくれぐれもお気をつけてください。
最悪、陛下が戦死しそうであれば、
私がまた瞬間移動魔法で陛下を逃がせます」
「出来ればその事態は避けたいものだな。
では伝令兵に各部隊にその趣旨を伝えよ」
「御意」
二十五分後。
各部隊に派遣された伝令兵が魔王の言葉を
各部隊のリーダーに伝えたが、
魔族は別として、他の種族の者は難色を示した。
「正直、報償金や昇進だけでは兵士達の士気は上がらんだろう。
だが我等、猫族はやれるだけの事はするニャ。
ここであの黒い船の進軍を止めないと、
王城が火の海になるからな、それは何としても避けたい」
「ご協力感謝します。
ニャラード団長のご意向を魔王陛下に伝えます」
「ウム」
ニャラード団長が出兵に同意したので、
他の魔族の幹部やレフ団長達も同様に出兵に賛成の意を示した。
まずは空戦部隊として、
サキュバス・クイーンのエンドラがサキュバス部隊を三百人。
若手幹部のとキャスパーには、
バーナック隊の残存部隊を合流させて、約六千の兵が与えられた。
レフ団長率いる竜騎士団の二百五十名の竜騎士。
ニャラード団長率いる魔導猫騎士団に、
「猫天使の鎧」を装着させた三百匹を空戦部隊に配置。
残った数千匹以上の猫騎士達は、
竜騎士団の飛竜に相乗り、あるいは飛行魔法で支援。
また地上部隊として配置される事となった。
本陣に魔王レクサーが率いる魔王軍の本隊約七万の兵士。
参謀役として大賢者シーネンレムス。
魔将軍グリファムの約二万五千万の兵力。
レストマイヤーとアグネシャールの各一万の兵力。
またシャルク団長率いる約八千人の竜人軍。
ラサミス達や剣聖ヨハン率いる「ヴァンキッシュ」の面々は、
引き族き、強襲揚陸艇に一台につき五十人を搭乗させて、
合計十台の強襲揚陸艇に五百人近くの兵士を詰め込んだ。
全軍あわせてまだ十数万以上の兵力が残っていが、
先の電磁砲攻撃で、
多くの兵士の脳裏に恐怖心が刻まれていた。
それを払拭すべく、
魔王レクサーはシーネンレムス。
そして親衛隊長ミルトバッハを引き連れて、
前線に出て、大声で兵士達を鼓舞する。
「こちらも苦しいが、
敵も無制限にあのような攻撃を出来る筈もない。
だから苦しいだろうが、兵士諸君には更に耐えて欲しい。
だが何の代価も与えずそれを望むのは、
魔王のエゴでしかない。 故にこの戦いに勝てば、
全兵士に報奨金、そして昇進する事を約束しよう。
だから兵士諸君、余と共に戦ってくれっ!」
魔王のアジ演説で全軍の士気は少し盛り返したが、
空戦部隊を指揮するニャラード団長は、渋い表情を浮かべていた。
「報奨金に昇進か、何もないよりはマシだが、
ここから挽回するのは楽ではないニャ。
だがやるからには勝つ、だからツシマン、サポートを頼む」
「了解でニャんす!」
「良し、では突撃開始っ!」
ニャラード団長達は、装着した「猫天使の鎧」の両翼に魔力を篭めて、
自由自在に空を飛びながら、天使軍の空戦部隊と相対するのであった。
次回の更新は2025年10月21日(火)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。




