第六百八十三話 主天使ドミニオン(中編)
---三人称視点---
魔王レクサーは声高らかに叫び、
勝ち誇った表情で、
主天使ドミニオンとその使い魔グレミーを見据えた。
階級能力「魔神降臨」によって、
魔王レクサーの能力値は見事倍加された。
尚、魔族は他の四大種族と違って、
魔族の階級によって使える能力やスキルが変わる。
魔族の階級は基本的に下級階級、中級階級、上級階級の三階級に分かれるが、
その三クラスの頂点に立つのが魔王という階級だ。
下級階級ならば初級及び中級の魔法や技。
中級階級は上級から魔人級の魔法や技。
上級階級は魔王級から魔帝級の技とスキルが使える。
そして魔王はこの三クラスの階級の魔族と契約を結んでいる。
その恩恵は様々な形で現れるが、
戦闘面において効果が高いのは「階級リンク」であった。
この階級能力を発動する事によって、
魔王レクサーは眷属の中から好きな者と能力や技を共有化出来る。
例えばこの「階級リンク」で、
レクサーがエンドラと能力や技をリンクさせたとする。
するとレクサーはエンドラが得意とする「空圧弾」や魅了攻撃を使う事が出来る。但し「階級リンク」の対象者は一名のみ。
エンドラとリンクしつつ、グリファムともリンクする。
という事は不可能である。
新たな眷属とリンクする際には、
今の眷属とリンクを解除する必要がある。
またグリファムと「階級リンク」した場合は、
彼は戦斧の使い手なので、
共有出来る武器スキルは斧スキルのみとなる。
レクサーは剣士なので、
このようにグリファムとリンクしてもメリットは得られない。
だから「階級リンク」の対象者は、
魔法や能力は別として、
武器スキルは魔王と同じ剣士などが好ましい。
だが魔王の側近である幹部の中で、
剣士なのは親衛隊長ミルトバッハやキャスパーぐらいで、
尚かつレクサーは殆どの剣技を使えるので、
わざわざ剣士と「階級リンク」してもメリットは少ない。
このように便利なようで、使い勝手はあまり良くない。
だがレクサーはこの状況において、最良の選択肢を選んだ。
「階級リンク発動、対象者はシーネンレムス!」
レクサーは「階級リンク」のリンク対象者にシーネンレムスを選んだ。
彼は武器スキルの類いは殆ど使えないが、
魔法に関しては、様々の種類の魔法を使う事が出来た。
レクサーの多彩な剣技に、
多くの魔法が加われば……まさに虎に翼である。
その状態でレクサーが最初に選んだ選択肢は、
「大賢者」の階級能力である「魔力覚醒」だ。
「――魔力覚醒っ!!!」
「魔力覚醒」が発動して、
レクサーの魔力と攻撃魔力が瞬く間に倍加されて、
彼の周囲が目映い光で覆われた。
「な、なっ!? 何という魔力だぁっ!!」
「間違イナイ、奴ノ魔力ハ大幅ニ増幅サレタ!」
再び戦くドミニオンと使い魔のグレミー。
その姿を見て、レクサーは勝利を確信したかのように、
「ふっ」と小さく笑って、左手を前上空に掲げた。
「――我は汝、汝は我。 我が名は魔王レクサー。
我は力を求める。 偉大なる水の精霊よ、我が願いを叶えたまえ!
嗚呼、氷よ! 全ての物を凍てつかせよっ!!」
レクサーがそう呪文を唱えると、
彼の周囲に膨大な魔力が生じた。
レクサーの周囲の大気が激しく振動する。
「アニャー、マスター! トンデモナイ魔力ダヨッ!!」
「見れば分かるっ!
我は汝、汝は我。 我が名はドミニオン!
嗚呼、創造神グノーシアよ! この空を光で埋め尽くしたまえ!
ハアアアァッ! ――シャイニング・ウォールッ!!」
ドミニオンの前方に長方形方の白く輝いた障壁が張られた。
護るドミニオンに対して、魔王レクサーは攻めに入る。
「天の覇者、氷帝よ!
我が名は魔王レクサー!
我が身を氷帝に捧ぐ!
偉大なる氷帝よ。 我に力を与えたまえ!」
そう呪文を紡ぎ、レクサーは左腕を真っ直ぐ頭上に伸ばす。
攻撃する座標地点は、ドミニオンとグレミー達が居る前上空。
彼我の距離は、
凡そ500メーレル(約500メートル)といったところ。
やや遠距離なので、魔法の威力は通常に設定。
だが速度に関しては最高に設定。
そして最後の呪文を力強く叫んだ。
「――ピアシング・コールドッ!!」
最後の呪文が紡がれるなり、
レクサーの前方に凍てつくような冷気が生じた。
それから数秒もしないうち広がり、
ドミニオンが張った長方形方の白く輝いた障壁があっという間に凍りついた。
「うぐっ……これは神帝級の氷結魔法っ!
だが想像以上に強力な威力だぁっ!」
「アニャー、強化能力で強化サレテイルカラ、
通常ノ神帝級ノ何倍モノ威力ダヨッ!」
予想外の威力に戸惑うドミニオンと使い魔のグレミー。
その姿を見ながら、レクサーは不敵に笑った。
「これで終わりではない。 ここからが本番だっ!」
次回の更新は2025年10月2日(木)の予定です。
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