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第六百八十話 魔王の進撃(前編)


第九十七章 魔王の進撃



---三人称視点---



 魔王レクサーは大声でそう叫ぶと、

 黒鹿毛の軍馬を走らせ前線へ斬り込んだ。


 それと同時に親衛隊長ミルトバッハは、

 青毛の軍馬を、シーネンレムスは鹿毛の軍馬を走らせた。


「行くぞ、機械兵きかいへい共!

 我が魔王剣を威力を思い知るが良いっ!」


 魔王は左手で手綱を操りながら、

 右手一本で持った漆黒の大剣を力強く横に振った。


 それと同時に漆黒の衝撃波が生み出されて、

 前方で固まっていた機械兵――戦闘バイオロイドに見事に命中。


「アア、アアアァァァッ!」


 声にならない声を上げる戦闘バイオロイド達。

 炎に加えて、今度は闇属性の衝撃波を受けて、

 機械兵を構成する高性能AI(エーアイ)が破壊されて、

 その機械の身体の回路も見事に破壊された。


「フン、噂ほどではないな」


「魔王陛下が強すぎるのですよ」


 魔王の左隣で軍馬に跨がってそう言うシーネンレムス。

 すると魔王は気を良くしたように、「フッ」と小さく笑った。


 その後、何度も何度も魔王剣を振って、

 次々と漆黒の衝撃波を生み出して、

 前線から中衛に待機していた機械兵を一網打尽にする。


 ここまでの戦闘時間は僅か五分足らず。

 その僅かの期間で150体以上の戦闘バイオロイドが破壊された。

 この事実には後衛に陣取る主天使しゅてんしドミニオンも激しい衝撃を受けた。


「な、何だ? 何が起きているんだぁ?」


「前方ノアノ黒イ馬ニ乗ッタ奴ノ仕業ダヨッ。

 アイツノ使ッテイルアノ大キナ大剣カラ、

 強力ナ衝撃波ヲ放ッテイルミタイダヨッ!

 コノママジャ危険、マスターハドウスルノ?」


 使い魔のグレムリンがそう問いかけてきたが、

 突然の事態にドミニオンの判断もやや遅れた。


「敵は戸惑っているようだな。 ここは追撃すべき!

 闇の覇者、暗黒神ドルガネスよ! 我が名は魔王レクサー! 

 我が身を暗黒神に捧ぐ! 偉大なる暗黒神ドルガネスよ。 

 我に力を与えたまえ! 『ダーク審判・ジャッジメント』っ!」


 レクサーがそう呪文を紡ぐと、

 彼の左腕に強力な魔力を帯びた漆黒の波動が宿された。


「――せいっ!!!」


 そして魔王は左腕を大きく引き絞った。

 次の瞬間、魔王の左手から、

 迸った漆黒の波動が敵の前衛部隊めがけて解き放たれた。

 

 魔王級まおうきゅうの闇属性魔法が放たれて、

 迸った漆黒の波動が暴力的に前線の機械兵を呑み込んだ。


 それと同時に大爆発が起こり、

 耳朶を打つ爆音と共に機械兵の身体は破壊されて、

 その周辺にクレーター状の大きな穴を穿った。


 この一撃で再び百体を超える機械兵が一瞬にして、

 破壊及び戦闘不能状態へと追いやられた。


「マタダッ! マタ百体以上ガヤラレタヨッ!」


「あの男、只者ではないな」


「モシカシタラ彼奴アイツガ魔王カモ?」


「確かに周囲の兵士がさりげなく奴の左右に陣取っている。

 魔王に関する情報もある程度はあるが、

 ここまで強かったとは、予想外だっ!」


「マスター、ココカラドウスルノ?」


 小さい使い魔の言葉を聞きながら、

 ドミニオンはしばらく沈思黙考に耽っていた。


 ――気持ち的には奴と戦いたいが、

 ――奴の力は未知数だ。

 

 ――下手に手を出すと、やぶ蛇になるかもしれん。

 ――とりえあえずもう少し様子を見よう。


天使騎士エンジェル・ナイトは、対魔結界及び障壁バリアを張れっ!」


「ははっ! ――ライト・ウォールッ!」


「――ライト・ウォールッ」


「良し、今のうちに戦闘バイオロイドは、

 隊列を整えて、中列まで後退して様子を見よっ!」


「了解デスッ!」


 ドミニオンの言葉に従い、

 戦闘バイオロイドは、隊列を整えて後退するが、

 レクサーもその意図を瞬時で見破った。


「敵は対魔結界でこちらの攻撃を防いでるうちに、

 隊列を整えて、機械兵を後退させるつもりだ」


「……そのようですな、それで魔王陛下はどうなさるつもりで?」


 と、シーネンレムス。


「決まっているだろう。

 魔王剣で遠隔攻撃、あるいは魔法攻撃で、

 奴等の張った結界けっかい障壁しょうへきを破壊するまでさ」


「単純明快で良いですな。 私も付き合いましょう」


「嗚呼、どっちが多く敵兵を倒せるか、勝負だ!」


 まるで子供のような台詞だ。

 内心でそう思いつつ、

 シーネンレムスも右手に持った漆黒の杖を頭上に掲げた。


 魔大陸でしか採れない暗黒樹で作成した杖である。

 魔力の伝達力も非常に良くて、

 シーネンレムスのお気に入りの一本であった。


「ふんっ!」


 シーネンレムスは眉間に力を込めて、

 右手に持つ漆黒の杖に自分の魔力を注いだ。

 すると杖の先端に嵌められた黒い宝石が妖しく光った。


 そこからシーネンレムスは、

 無詠唱で「ダークネス・フレア」を二発、三発と連射する。


 杖の先端から闇の炎が放出されて、

 天使兵達が張った対魔結界や障壁バリアに命中。


 爆音と共に爆発が沸き起こり、

 対魔結界や障壁バリアは物の見事に爆破された。


「――陛下、対魔結界や障壁バリアを破壊しました!」


 それを聞くなり、

 レクサーは待ちわびてたように「ふっ」と笑った。

 そして右手に持った魔王剣を再び頭上に掲げた。


「良し、これより突撃を開始する。

 勇気ある者は余に続けっ!

 天使共に魔王とその臣下の力を見せてくれようっ!」


 魔王は意気揚々と黒鹿毛の軍馬を走らせた。

 その後を親衛隊長の青毛の軍馬が続くが――


「やれやれ、とんだおもりだな。

 でもこんな元気そうな陛下は初めてみる」


 と、誰にも聞こえない声で独りごちる親衛隊長。

 こうして魔王の進撃が始まったが、

 付き合わされる部下は、

 何処か面倒臭そうな表情を浮かべていた。



次回の更新は2025年9月25日(木)の予定です。


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