第六百七十九話 百折不撓(後編)
---三人称視点---
ウェルガリア軍の空戦部隊の惨状を観て、
レスシーバ平原の本陣に陣取る魔王レクサーは憤慨していた。
「糞っ……まさかここまで惨敗するとは……」
座天使ソロネの予想外の活躍に、
魔王レクサーも驚きつつ、悔しさを滲ませていた。
「まあ空戦部隊と言っても、
急造の部隊ですからね。
我々を遙かに上回る科学兵器を用いる相手に、
惨敗するのは、ある意味、妥当な結果かもしれません」
「シーネンレムス、卿の意見は的を得ているが、
全軍を指揮する総司令官からすれば、少々不快であるぞ」
「すみませぬな、でも事実は事実なので……」
歯に衣を着せぬシーネンレムス。
それに対して不快感を抱きながらも、
自分達が置かれた立場を冷静に分析するレクサー。
「このまま制空権を握られたままだと、
あの黒い船を時限式結界まで誘い込むのも難しいな」
「そうかもしれませんな」
「相変わらず簡単に云うな。
何か良い策はないか?」
「予備戦力である竜騎士団を投入。
するのは少々時期尚早ですな。
ならばここは地上部隊に奮戦してもらうべきでしょう」
「成る程、地上部隊か」
この時に魔王レクサーが僅かに口の端を持ち上げた。
そこでシーネンレムスは、ある種の予感を抱いた。
そしてその予感は間違ってなかった。
「こういうのはどうだ?
余自らが最前線に立って、
敵の大天使と一戦を交える、という演出は……」
「魔王陛下、自らが最前線に立つのですか?」
探るようにそう言うシーネンレムス。
するとレクサーは、当然と云わんばかりに「嗚呼」と頷く。
「陛下が万が一、敵に討たれたら、魔族はどうなるのですか?」
「大丈夫だ、護衛にミルトバッハもつける。
当然、卿にも余の周囲で警護してもらう」
「……私も参戦するのですか?」
「……嫌か?」
「いえ、私が側に居た方がまだ良いでしょう。
しかし陛下自らが最前線に立つと、
部下や各種族の手柄を横取りする形になりますが?」
「それは承知の上だ。
だが魔王が前線に自ら立ち、
大天使を討てば、全軍の士気は上がるであろう?」
「まあそういう側面はあるでしょう」
「……卿は余の出撃に不満なのか?」
「不満はありませんが、不安はあります。
万が一、魔王陛下が敵に討たれたら、
と思うと正直、気が気でありません」
「ふむ、正直な意見だ」
「でも陛下が望むなら、
私は臣下としてこの事実を受け入れましょう」
「うむ、そう云う言い方は嫌いじゃない」
「では、魔王陛下。 馬を用意します」
さらりとそう告げる親衛隊長ミルトバッハ。
「うむ、余は黒鹿毛の軍馬を所望する。
シーネンレムス、卿のサポートを期待しているぞ」
「御意」
そして魔王レクサーは、
黒鹿毛の軍馬に乗り、
同じく馬に乗った大賢者と親衛隊長を引き連れて、
最前線へと向かうのであった。
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「諸手突きっ!」
「ギイィ……ギルッッッッアアアアァッ!」
「――ヴォーパル・スラストッ!」
「――ギルッッッッアアアァァァッ!
前回の戦い同様に、
ラサミスはレーザー剣、ミネルバはレーザー槍で、
迫り来る戦闘バイオロイドを迎え撃った。
「ハイパー・トマホークッ!」
「スピニング・ドライバーッ!」
「――キリング・サイスッ!」
小柄な獣人のバルデロンとジュリー。
そしてジウバルトは無理にレーザー剣などは使わず、
自前の武器で応戦したが、
やはり巨体の戦闘バイオロイド相手だと、やや力負けしていた。
「……此奴ら、固てえな」
と、ジウバルト。
「ですな、ここは魔法攻撃の方が良いかもしれません」
「私もバルデロンの意見に賛成よ」
と、相槌を打つジュリー。
だが彼等がそう言うと、彼等の前に立つラサミスが――
「まだ慌てるような時間じゃねえよ。
とりあえずオレが雷炎剣と雷神剣で揺さぶってみるよ」
と、言ったので三人も「嗚呼」とか「はい」とこの場は素直に従った。
「行くぜえええぇっ! ――雷炎剣っ!!!」
ラサミスはレーザー剣から、
聖刀に武器を持ち替えて、
神帝級の刀術スキル「雷炎剣」を放った。
ラサミスの聖刀に紅蓮の炎が宿り、
戦闘バイオロイドに狙いを定めて、、その聖刀を振った。
次の瞬間、紅蓮の炎が戦闘バイオロイド目掛けて放たれた。
「ギ、ギ、ギギギァァァアァァッ!!!」
「コレハヤバイ! 逃ゲロッ!!!」
紅蓮の炎がうねりを生じて、
戦闘バイオロイドの全身を覆い尽くして、
高温でその機械の身体を焼き焦がした。
そして追い打ちをかけるべく、
ミネルバも前線に躍り出て、漆黒の魔槍を振り上げて――
「――龍炎波っ!!!」
ここで先日覚えた帝王級スキルの炎属性の遠隔攻撃「龍炎波」を発動。
すると漆黒の魔槍の穂先から、
渦巻く炎塊が放出されて、
前方の戦闘バイオロイド集団を更に焼き尽くした。
「ギ、ギ、ギァァァアァァッ!!!」
「や、ヤバイ……ギ、ギルアアアァァァッ!!!」
通常攻撃が効かなければ、
属性攻撃で攻められば良い。
戦闘における基本戦術を実行して、
ラサミス達は戦闘バイオロイドを瞬く間に追い詰めた。
「良し、いい流れを掴んだぜ。 ……ん?」
「後方に味方の援軍が現れたね。
アレは魔王直属の部隊だわ。
そしてあの黒鹿毛の軍馬に跨がってるのは、魔王……陛下よ!」
「レクサーが自ら最前線に出てきたのか!?」
周囲がざわめく中、
魔王レクサーは口の端を持ち上げて、
右手に持った魔王剣アルカンレガムを頭上に掲げた。
「これより余自ら戦場に立つっ!
天使軍などこの魔王剣で斬り伏せてくれるわっ!
勇気がある者は余の後に続けっ!!」
次回の更新は2025年9月23日(火)の予定です。
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