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第六百七十六話 談論風発(後編)



---三人称視点---



 一方、その頃、熾天使してんしラファエル率いる天空の方舟はこぶねメルカバーは、

 ガルフ砦の北西にあるニャンニャンに着水して、

 次なる戦いの様子を見ていた。


 ニャンニャンは、約105平方キールメーレル(約105平方キロメートル)の大きさの湖で、メルカバーを地上に着陸させるには、丁度良い場所であった。


 既に主天使しゅてんしドミニオンと座天使ざてんしソロネは、艦外に出て、

 天使兵と戦闘バイオロイドを引き連れて、持ち場についていた。


 ラファエルとしては、そろそろ出撃したい所であったが、

 メルカバーの中央発令所にある液晶モニターが

 強制的に天界と通信回線が開かれた。


 ラファエルとウリエルは、

 液晶モニターの前で立っていたが、

 液晶モニターに金髪碧眼の熾天使してんし

 天使長ミカエルの姿が映ると、姿勢を正し、表情を引き締めた。


『同士ラファエル、同士ウリエル。

 こちらの声は聞こえているか?』


「天使長、ちゃんと聞こえているさ」


 ラファエルはウリエルに目配せする。

 するとウリエルは無言で頷く。

 ここは総司令官であるラファエルが返答する事となった。


『そうか、それは良かった。

 ……ソロネやドミニオン、ヴァーチャの姿が見えぬな』


「ソロネとドミニオンには、

 空戦部隊と地上部隊に入ってもらう事にした」


『……ヴァーチャはどうした?』


「……戦死したよ」


 ラファエルがそう言うと、天使長は眉間に皺を寄せた。

 

「他にも戦死した大天使は居るのか?」


「プリンシパティとパワーも戦死したよ……」


『敵に――ウェルガリアの民にられたのか?』


「嗚呼……」


『そうか』


「……」


『今、地上に居る天使は貴公等を入れて四人か?』


「そうだ」


『少し頭数が足らんな、良し!

 私とガブリエルが時空転移装置を使って、

 貴公等が居るメルカバーに時空転移しよう』


「いいのか? そうなると天界に居る大天使が手薄にならぬか?」


 と、熾天使してんしウリエル。


『同士ウリエル、心配はないさ。

 貴公等がメルカバーで地上に降臨した後で、

 また調整槽から数体の大天使を解放した』


「解放した大天使は?」


 と、ラファエル。


『サリエルにメルキセデク、そしてサンダルフォンだ」


「……蒼々たる顔ぶれだな。

 でも天使長ミカエルが天界を留守にするのには、

 一抹の不安を覚えるな、それと……」


『同士ウリエル、それと何だ?』


「……熾天使してんしが四人とも不在なのは気になる」


『まあその気持ちはよく分かるが、

 地上での戦いも最終局面に入りつつある。

 だからここは熾天使してんし全員が立ち会うべきであろう』


「分かった、とりあえず貴公等が来るまで、

 メルカバーは湖に着水させておくよ」


『嗚呼、すぐに向かう。 だから心配する事はない』


「嗚呼……」


 そこで通信が切れた。

 

「天使長とガブリエルが来るのか」


「同士ウリエル、その事に不服なのか?」


「いやそんな事はない。

 ただガブリエルの動向には注意すべきだな」


「俺も同じ考えだよ。

 まあ天使長も居る事だし、大丈夫であろう。

 後、また天界から天使兵と戦闘バイオロイドを

 派遣してもらって、戦力を補充しよう」


「嗚呼……」


 一方の天界エリシオンの中枢部にあるセントラル・エリア。

 そこの中央にある大型の液晶スクリーンの前に、

 天使長ミカエルと熾天使してんしガブリエルが立っていた。


「まさか貴方までがウェルガリアへ乗り込むとはね。

 少し意外だったわ」


猫族領ニャーマンりょうを陥落させたら、

 我等、天使軍の勝利がほぼ確定する。

 それに一目見ておきたくてな」


「……何をかしら?」


「……特異点さ」


「……やはり気になるの?」


 ガブリエルの言葉にミカエルが「嗚呼」と頷く。


「現時点で四体もの大天使が撃破された。

 これは通常では考えられない事態だ。

 だから状況次第では、私が彼奴きゃつを直接叩く。

 という事になるかもしれん」


「……私を同行させた理由は?」


「君の考えているとおりさ。

 天界に君だけを置いていくのは少々不安だ。

 ならば君も地上に降臨させた方が不安が少ない。

 だがガブリエル、くれぐれも妙な真似は起こすなよ?」


「……そのつもりよ」


「そう願いたいものだ。

 ガブリエル、君は基本的に母性が強くて、

 女性的な熾天使してんしだ。

 あの水の惑星でも度々、地上の民に干渉した。

 だが所詮、地上の民――人間は、

 肉体という牢獄に魂が囚われた生き物だ。

 我々がいくら干渉しようが、その本質は変わらん」


 天使長の言葉にガブリエルも沈思黙考する。

 天使長ミカエルは、個人的にガブリエルを嫌ってた訳ではない。


 むしろ彼女のニュートラルな立ち位置の意見は、

 これまで何度も重宝してきた。


 ミカエル自身、時々地上の民に興味などの感情を示す事はある。

 いや本音を言えば、今回のウェルガリア遠征においては、

 特異点であるラサミス・カーマインの事がずっと気になっている。


 実際にこうしてわざわざ地上に降臨する理由の何割かは、

 特異点を直接、自分の目で見てみたいという動機が強かった。


 だがその際に妙な感情は抱いてはならぬ。

 いざとなれば自分の手で特異点を殺す。

 そうでないと予想外の事態が起きかねない。

 そう事を胸に刻み込んで、

 ミカエルはガブリエルに語りかけた。


「いずれにせよ、楽な戦いにはならんだろう。

 準備が整い次第、このセントラル・エリアの時空転移装置から、

 地上のメルカバーの許に時空転移するぞ」


「ええ……では私も準備を整えるわ」


「嗚呼」


 そうしてガブリエルは、踵を返してこの場から去った。

 その後ろ姿を見て、ミカエルは独りごちた。


「何かが動き出している気がする。

 だが事態が大きくなる前に、この私が防いでみせる。

 それが天使長としての私の役割だ……」



次回の更新は2025年9月15日(月)の予定です。


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