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第六百七十五話 談論風発(中編)



---三人称視点---


「ではまずは地上部隊の陣形を決めたいと思う。

 恐らく敵も地上部隊に一人は大天使クラスを配置するであろうから、

 こちらも地上部隊には、それなりの部隊を配置したいと思う。

 まずグリファムに三万兵を率いてもらう。

 その配下としてレストマイヤーとアグネシャールを配置する」


「「「了解です」」」


 魔族の三人の幹部は即答した。

 魔族にとっては、魔王は絶対的存在。

 故に彼には拒否するという選択肢はなかった。


「そしてエルフ軍の残党部隊。

 またカーマインや剣聖ヨハン殿も前線に出て欲しい」


「それは構わないが、

 封印結界で閉め出し喰らう。

 といった真似はしないでくれよ」


「カーマイン、心配するな。 余を信じろ」


「嗚呼、信じさせてもらうよ」


「では続いて、空戦部隊の陣容を発表する。


 そこでレクサーは、一度呼吸を整えて間を置いた。

 周囲の者達も必然と魔王の次の言葉を待つ。


「空戦部隊はエンドラ率いるサキュバス部隊が五百名。

 キャスパーとバーナックにもそれぞれ五千の兵を率いてもらう」


「分かったわ」「「御意」」


 この三人も特に不平は述べなかった。

 だが竜騎士団のレフ団長が――


「魔王陛下、我々――竜騎士団は参戦しないのですか?」


 不満、ではなく疑問を投げかけるが、

 レクサーはレフ団長を刺激しないように、温和な声で応じた。


「貴公等には傘下の竜人軍や他の兵士を飛竜に相乗りさせて、

 高度を限界まで上げて、あの黒い船の内部に潜入してもらいたい。

 そして艦内を制圧する、というのが余の目的である」


「……正直、必ず出来る、とは言えませんが、

 成功出来るように全力を尽くします」


「嗚呼、期待しているぞ」


 これで大まかな地上及び空戦部隊の陣容は決まった。

 それからレクサーが基本戦術と戦略を伝えていく。


「地上部隊は適度に戦い、余裕があれば敵の大天使を撃破しても構わん。

 そして兵を退く時は、相手に怪しまれない程度の速度で頼む。

 また敵艦の内部潜入に関して、余に一つアイデアがある」


 レクサーはそう言って、右手をパチンと鳴らした。

 すると天使軍のエア・バイクに跨がった工作兵らしき男性魔族が数人現れた。


 工作兵の男性魔族は、右手でエア・バイクのアクセルを吹かせて、

 ゆっくりとした速度で天幕の中央に近づいて来た。

 これはラサミスだけでなく、他の者も目を丸くしていた。


「魔王……陛下、どういうつもりなんだい?」


「カーマイン、見ての通りだ。

 捕獲した敵の自動鉄馬じどうてつばを我が軍の工作兵に解析させた。

 工作兵によるとこの自動鉄馬じどうてつばや強襲揚陸艇の操作は、

 それ程、難しくないとの話だ」


「成る程、奪った敵の兵器で敵船を攻める、という事か!」


 ラサミスの言葉にレクサーは「嗚呼」と相槌を打つ。

 そしてエア・バイクを操縦する魔族の工作兵に視線を向けた。


「首尾はどうだ?」


「そうですね、この自動鉄馬じどうてつば――名式名称はエア・バイクと言うみたいです。

 慣れれば乗馬や馬車を操るより簡単ですね。

 捕獲したエア・バイクは五十台近くありますので、

 三十台くらいなら実戦投入出来そうです」


 と、魔族の工作兵がそう答えた。


「そうか、ならあの大きな強襲揚陸艇の方はどうだ?」


「あちらの方の解析も順調に進んでます。

 操作法はやや癖がありますが、

 ある種の魔道具と思えば、それ程、苦になりません。

 あの強襲揚陸艇一台に五十人くらいの兵士が乗せれそうです」


「そうか、稼働可能な強襲揚陸艇は何台ある?」


「……現時点では十台程度ですね。

 他にある十台の揚陸艇は分解して解析してますが、

 こちらも慣れれば、意外に簡単に操作出来ます」


「そうか……」


 どうやらレクサーは、本気で敵から奪った兵器を実戦投入するつもりのようだ。

 ある意味、戦術としては正しいが、

 敵の兵器だけに急に動きが止められたり、自爆させられる危険性もある。

 その危険性をあえて指摘するラサミス。


「敵の操作一つでその鉄馬や強襲揚陸艇が強制的に自爆させられる。

 という可能性も拭いきれないぞ?」


 ラサミスの指摘は、至極全うであった。

 だがレクサーもその辺を考えない訳ではない。


「だから工作兵を総動員させて解析に当たらせている。

 だが竜騎士団の飛竜で敵艦へ攻め込むよりかは、

 こちらの方が幾分、成功率が高いと思わぬか?」


「まあ……確かにそうだが、

 本当に敵艦に潜入して、艦内を制圧するつもりなのか?」


「カーマイン、そうしないと我々に勝ちの目はないぞ。

 敵がまた異世界から似たような船を呼び寄せてみろ?

 そうなれば我々は、また多くの犠牲を出す事になるのだ。

 だからあの黒い船を奪い、天使共の本拠地へ攻め込む。

 それをしない限り、この戦いは終わらない」


「……まあ一理あるな」


 このまま延々とウェルガリアに天使軍が攻めて来たら、

 いずれはウェルガリア軍が瓦解して、天使軍の制圧下に置かれるだろう。


 だが天使の本拠地――仮にそんなものがあるとしても、

 そんな所まで攻めて行けば、

 それこそ取り返しのつかない事になるのではないか。


 と、ラサミスは内心で思いながらも発言は控えた。

 これ以上の発言は、魔王に対する越権行為になる。

 レクサーもラサミスの心中を察したようで、穏やかな声で――


「別に貴公や貴公の仲間を無理矢理乗艦させるつもりはない。

 最悪の事態を想定して、乗艦させるのは魔族兵に限定しても構わんよ」


「いや安全性さえ確認出来れば、

 俺も同乗させてもらうよ、オレも天使の親玉には頭にきてる。

 連中に文句の一つや二つを言って、

 話が通じなければ、武力を持って制圧するつもりだ」


「そうか、貴公ならそれも可能かもしれんな。

 いずれにせよ、戦闘中にも各兵器の解析を進めるつもりだ。

 そして時が来たら、貴公等の力を借りるかもしれん」


「……オレで良ければ力を貸すぜ」


「それは心強い」


 その後、他の頭目と司令官を交えて、

 作戦会議が続けられて、お互いに戦術と戦略が共有化された。


 正直、レクサーの策が通じるか分からん。

 だがあの黒い船を拿捕しなければ、

 また敵は違う戦艦に乗って攻めて来る可能性は高い。


 ならば多少は無理してでも、あの黒い船を拿捕すべきかもしれん。

 ラサミスは心の中でそう呟いて、決心を固めた。


 だがその前にまずは地上部隊として、

 敵の地上部隊を牽制、あるいは撃破する必要がある。


 こうしてウェルガリア軍にとって負けられない戦いが始まろうとしていた。


次回の更新は2025年9月14日(日)の予定です。


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