第六百六十四話 力天使ヴァーチャ(後編)
---三人称視点---
ラサミスの猛攻で力天使ヴァーチャとその配下は、
あっという間に十数体まで減らされていた。
だがヴァーチャにも大天使の矜持というものがある。
絶体絶命の状況でも彼女は狼狽せず、
毅然とした態度で新たな呪文を唱え始めた。
「――我は汝、汝は我。 我が名は大天使ヴァーチャ。
我は力を求める。 偉大なる水の精霊よ、我が願いを叶えたまえ!
嗚呼、氷よ! 全ての物を凍てつかせよっ!!」
呪文が紡がれるなり、
ヴァーチャの周囲に膨大な魔力が生じた。
ヴァーチャの周囲の大気が激しく振動する。
それに対してラサミス達も防御態勢に入るが、
ヴァーチャは凍てつく表情で呪文を更に唱えた。
「天の覇者、氷帝よ!
我が名は大天使ヴァーチャ!
我が身を氷帝に捧ぐ!
偉大なる氷帝よ。 我に力を与えたまえ!」
ヴァーチャは、そう口ずさんで左腕を頭上に掲げた。
攻撃する座標地点は、ラサミス達が居る地点。
彼我の距離は凡そ400メーレル(約400メートル)。
近距離が故に、魔法の威力はやや少し低めに設定。
但し速度に関しては最高に設定。
そして最後の呪文を大声で叫んだ。
「――凍てつく世界っ!!」
「こ、これはヤバい!
対魔結界を張れる者は全力で張れ。
張れない者はオレの後ろに回れっ!!」
咄嗟にそう指示を出すラサミス。
と、同時にヴァーチャの前方にとんでもない冷気が生じた。
そしてそれは前方に瞬く間に広がり、
地面に生える草や石があっという間に凍りついた。
ヴァーチャの切り札と云える神帝級の氷結魔法。
あっという間に周囲の景色を雪化粧するが、
ラサミス達も自分を護るべく、自衛手段に出た。
「――黄金の息吹っ!」
まずは黄金の息吹を発動。
発動する魔力は六割中の四割程度。
そこから「黄金の壁」を解き放った。
「――「黄金の壁」っ!!」
「――我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ウェルガリアよ!
この大地を風で埋め尽くしたまえ!
せいやぁぁぁっ! 『風の障壁』ッ!!
ラサミスとメイリンが中心となって、
障壁を張る中、
シモーヌ副隊長やシャルク団長。
その部下達もラサミスとメイリンの後ろに隠れた。
だが逃げ遅れた者は、
物の見事に大冷気の餌食となって、
身体の大半を氷結状態とされた。
「くっ……えげつねえ魔法だ。
ああなったらもう助からないだろう。
ラサミス団長、こっちは何とか防げそうなのか!」
「ジウバルト、多分何とかなりそうだが、
オレの魔力がもう底をつきそうだ。
だからあの大天使を倒すには、
お前等の力が必要だ!」
「そうか! オレ達はどうすればいいっ!」
と、ジウバルト。
「それよりも今は防御だ!
絶対にオレの後ろから離れるなよ!」
「あ、嗚呼っ!」
解き放たれた大冷気が長方形型の黄金の障壁に押し迫る。
だが黄金の息吹からの黄金の壁。
この最強の防御コンボの前では、
大天使の神帝級魔法でも見事に封じこまれた。
だが逃げ遅れた十名は、
大冷気によって、その身体機能と心臓の鼓動が止められた。
これによって残されたのは、
ラサミス達「暁の大地」七名。
シモーヌ副隊長とその部下二名。
シャルク団長と部下二名の合計十三人だけが生き残った。
「残ったのは、これだけか。
長期戦は危険だな、短期戦で一気に倒すぞ。
まずはオレが「雷炎剣」を使うから、
その後にミネルバとシャルク団長は、
魔槍と魔剣で魔力を解き放ってください」
「分かったわ」「了解だ」
「恐らく敵は対魔結界か。
障壁を張るだろう。
その間にオレ、ミネルバ、シモーヌ副隊長。
そしてシャルク団長の四人が一気に間合いを詰めて、
敵に猛攻を掛ける」
「「了解」」「分かった」
「おい、おい、オレ達は出番なしかよ?」
「ジウバルトとバルデロンは、
中衛待機で支援及びサポートを頼む。
同様にジュリーも中衛でいつでも回復魔法出来るように!
マリベーレは魔法銃か、レーザーライフルで狙撃。
メイリンは敵の魔法に対して、対魔結界を!」
「サポートか、まあ良かろう」
「ジウバルト殿、一緒に頑張りましょう」
「おう」
「あたしもきっちりスナイプするわ」
「あたしも敵の大魔法に備えるわ」
団員全員の了承を取れたところで、
ラサミスが微笑を浮かべた。
「よし、ではまずオレが行くぜっ!
――喰らいやがれっ! 雷炎剣っ!!」
ラサミスが地面を蹴って、
間合いを詰めるなり、右手に持った聖刀を激しく振った。
すると聖刀の切っ先に紅蓮の炎が宿り、
ヴァーチャ目掛けて放射された。
「俺も続くぜっ! せいっ!」
シャルク団長が同じく前へ出て、
右手に持った漆黒の魔剣を勢いよく振り上げた。
そして漆黒の魔剣に闘気を宿らせて、豪快に振った。
次の瞬間、漆黒の魔剣から放たれた巨大の炎塊が放たれた。
だが標的であるヴァーチャは、落ち着いていた。
度重なる高レベルの障壁を張った為、
ヴァーチャにもそれ相応の蓄積時間が発生していた。
だからヴァーチャは、
無詠唱で中級の氷属性の対魔結界「アイス・ウォール」を張った。
但し無詠唱で魔法を連発して、
氷の壁を十数程、重ねに重ねて強固な壁を生み出した。
まずはラサミスの紅蓮の炎が着弾。
半瞬後に四枚の氷の壁が打ち砕かれた。
次にシャルク団長の巨大の炎塊が着弾。
間を置かずして、五枚の氷の壁が一気に蒸発した。
だがまだ三枚ほど氷の壁が残されていたが、
ヴァーチャも護りに徹せず、攻めに転じた。
「我が名は力天使ヴァーチャ!
貴様等、地上人なんぞ私一人で蹴散らせてくれよう」
こうしてラサミス達とヴァーチャによる接近戦が開始された。
次回の更新は2025年8月19日(火)の予定です。
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