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第六百六十話 屍山血河(中編)



---三人称視点---


「次から次へときりがねえぜっ!

 オラァッ! ――諸手突きっ!」


「確かに多いわね。

 でもやるしかないわ! ――ダブル・スラスト!」


 ラサミスとミネルバが文句を言いながらも、

 手にしたフォトン・ブレードやフォトン・ランスで

 機械兵きかいへい――戦闘バイオロイド達の胸部を貫く。


 この二人をジウバルトとバルデロンがフォローして、

 メイリンが魔法攻撃、あるいは対魔結界を張り、

 後方のマリベーレがレーザーライフルで機械兵の胸部を狙撃。


 といった動きを駆使して、

 周囲のシモーヌ副隊長や「竜のいかずち」のシャルク団長等と

 連携して、天使軍の前衛部隊を一網打尽にする。


 だが五分後に戦況が一変した。

 黒褐色の髪、茶色の瞳、日に焼けた黄色の肌。

 顔立ちは女性的で、体つきも丸みがある黒いインナースーツの上に、

 赤銅色の軽鎧ライト・アーマーを装着した背中から、

 一対二枚の漆黒の翼を生やした天使が現れた。


 そう、力天使りきてんしヴァーチャだ。

 見るからに他の天使とは、一線を画している。


 ラサミス達も一目見て、ヴァーチャが大天使と悟った。

 そのヴァーチャの周囲に天使兵てんしへい

 それと戦闘バイオロイド達が隊列を組んでいた。


「アイツが大天使で間違いないようね」


「ミネルバ、オレもそう思うよ。

 だが手下に囲まれた状態だ。

 まあ向こうもわざわざ一騎打ちを挑みやしないか。

 となるとこちらも陣形を組んだ方がいいな」


「ここは前衛にラサミス達やシモーヌ副隊長を配置して、

 周囲の防御役タンクがガード及びサポート。

 そして中衛にアタシ等、魔導師部隊や狙撃部隊。

 後方に回復役ヒーラーを置くという布陣にすべきよ」


 ラサミスの後ろに立つメイリンがそう進言する。

 ラサミスもメイリンと同じ考えであったので、

 彼女の提案通りの陣形を組んだ。


 それを見て、ヴァーチャも似たような布陣を組んだ。

 前衛にフォトン・ブレードやフォトン・ランスを装備した戦闘バイオロイド。

 中衛に魔法全般を使う天使兵てんしへい

 後衛に回復魔法を中心とする天使兵。


 という布陣を組んだ。

 そして彼等の司令官であるヴァーチャは、

 中列の中央に陣取り、両手にディバイン・ランスを持って、

 周囲の兵士達に声高らかに命じた。


「よく聞きなさい! この私がこれから次々と魔法を使うので、

 アナタ達は全力で私を護りなさい。

 とりあえず手始めに吹雪を降らせてみせるわ。

 偉大なる水と風の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 

 我が願いを叶え、母なる大地ウェルガリアに大いなる恵みをもたらしたまえ!

 嗚呼、空よ! この大地に天の恵みを与えたまえっ!」


 ヴァーチャがそう呪文を紡ぐと、

 彼女の頭上の雲が急速に広がり始めた。


 この氷結の天候操作魔法の範囲は、

 三キール(約三キロ)」の範囲に設定。 

 範囲は狭いが、消耗する魔力は結構な消費量だった。

 ヴァーチャは、眉間に皺を寄せて、魔力を放出する。


「嗚呼、空よ! この大地を凍らせたまえっ!

 ――『マグナ氷結・コンゲラーティオ』ッ!!」


 ヴァーチャの呪文の詠唱が完全に終わると、

 上空の雲が常識では考えられない速度で広がり始めた。

 そして天に広がった雲は雪雲と化して、雪が降り始めた。


 前回は真夏であったが、今の9月中旬という季節。

 それなり涼しいが、程よく暖かいという気候。

 それが急遽、雪が降ってきたのだ。


 これで驚くな、という方が無理であるが、

 前線のラサミスは慌てず、メイリンに問いかけた。


「また吹雪かよ。 メイリンは天候操作魔法を使えたっけ?」


「ちょっとね。 でもあのお爺ちゃん――大賢者ワイズマンほどじゃないわ。

 でもこちらも熱風を起こせば、

 この吹雪による寒さを和らげる事が出来るわ」


「そうか、なら頼めるか?」


「いやアタシはこの中衛でアンタ達のサポートをするわ。

 熱風を起こす魔導師は、三十人も居れば充分でしょう」


 そこからメイリンが指示を出して、

 約三十名程の魔導師達が炎属性魔法と風属性魔法を

 上空に目掛けて放って、至る所で魔力反応「熱風」を起こした。

 これによって周囲の気温もかなり和らいだ。


 その光景を見て、ヴァーチャは「ほう」と感心したように声を上げた。


「敵も意外と頭が切れるわね。

 これならアーク・エンジェルやプリンシパティ達が

 負けたのも頷けるわ、でも私は絶対に負けないわよっ!

 この力天使りきてんしヴァーチャの真の力を見せてくれよう!

 ――我は汝、汝は我。 我が名は大天使ヴァーチャ。 

 我は力を求める。 偉大なる水の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 

 嗚呼、氷よ! 全ての物を凍てつかせよっ!!」


 呪文が紡がれて、ヴァーチャの周囲に膨大な魔力が生じた。

 ヴァーチャの周囲の大気が激しく振動していたが、

 当の本人は表情一つ変えず、呪文を更に唱えた。


「天の覇者、氷帝ひょうていよ! 

 我が名は大天使ヴァーチャ! 

 我が身を氷帝に捧ぐ! 

 偉大なる氷帝よ。 我に力を与えたまえ!」


 ヴァーチャはそう言って、両腕を頭上に掲げた。

 攻撃する座標地点は、敵の前衛部隊の中心部。


 速度と威力は最大、但し範囲は程々。

 そして両腕を頭上に突き上げながら、

 ヴァーチャは大声で呪文を唱えた。


「――絶対零度アブソリュート・ゼロッ!!」


 ヴァーチャがそう叫ぶなり、

 すると前方のウェルガリア軍の前衛部隊の周囲の大気が激しく揺れた。

 そして瞬間的にその気温が急激に低下した。


 ヴァーチャの得意とする神帝級しんていきゅうの氷結魔法。

 ありとあらゆるを凍りつかせる最強クラスの氷結魔法。


「マズいッ! とんでもない魔法が来るぞっ!

 全員、対魔結界か! 障壁を張れっ!

 うおおおっ! ――黄金の壁(ゴールデン・ウォール)


 非常事態に慌てながらも、

 ラサミスは咄嗟に職業能力ジョブ・アビリティ黄金の壁(ゴールデン・ウォール)」を発動させたが、

 絶対零度の冷気が周囲で渦巻き、一部の者を除いて、

 多くの兵士の身体が凍りついた。



次回の更新は2025年8月10日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
∀・)更新お疲れ様です♪♪♪ ∀・;)ヴァーチャ、敵ながら……敵ながら……カッコイイ♡♡♡ ∀・)でも、ピュアな読者である僕はラサミスを応援する!!! ∀・)がんばれラサミス!!!がんばれウェル…
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