第六百五十九話 屍山血河(前編)
---三人称視点---
「――我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。
ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 炎殺ッ!』」
「行きますぞ! ――アーク・テンペスト」
「行くぜっ! ――ダークネス・フレアッ!」
魔導師部隊の先頭にメイリン、バルデロン。
そしてジウバルトが立ち、続々と魔法攻撃を放つ。
「我々も後に続くぞ! ――スーパーフレアッ!」
「撃て、撃て、撃てっ! 兎に角、撃ちまくれっ!」
ここぞとばかりに魔導師部隊は、
自分等の存在を誇示するように奮闘した。
だが力天使ヴァーチャ率いる天使軍も
統率された動きで対魔結界と障壁を張り巡らせる。
「我は汝、汝は我。 我が名はヴァーチャ!
嗚呼、創造神グノーシアよ! この空を光で埋め尽くしたまえ!
行くわよっ! ――シャイニング・ウォールッ!!」
「――ライト・ウォールッ!」
ヴァーチャの前方に長方形方の白く輝いた障壁が張られた。
するとウェルガリア軍の魔導師部隊が放った数々の魔法攻撃が
炸裂するが、爆発や衝撃波は生じたが、
白く輝いた障壁は、多少罅が入った程度で、
着弾した様々の属性の魔法攻撃をほぼ完封した。
だがヴァーチャ以外の対魔結界や障壁は、
次々と放たれるウェルガリア軍の地上部隊の魔法攻撃。
そしてマリベーレを軸とした狙撃部隊による
レーザーライフルや熱光線銃による狙撃で大きな損害を被った。
「ここで退いたら、負けよ!
我々もこのまま前衛と中衛部隊が連動して、
魔法攻撃と対魔結界を交互に仕掛けるのよ。
後、死にかけの天使兵や戦闘バイオロイドは、
自爆覚悟、あるいは本当に自爆して、
一人でも多く道連れになさいっ!」
ヴァーチャが大声でそう叱咤激励するが、
自爆を命じられた天使兵と戦闘バイオロイドは、
その命令に対して、少なからずの不満を抱いた。
実際に自爆特攻する者は少なく、
魔法戦でも接近戦でもウェルガリア軍が上回った。
「敵の大将は恐らく大天使だろう。
とりあえず目の前の敵兵をドンドン蹴散らせ。
そうすりゃ親玉の大天使が前線に出てくるだろう。
そこをオレや主力部隊が協力して、大天使を倒す。
そうすりゃ後々の戦いも楽になるというものさ」
ラサミスのこの命令は非常に単純明快かつ、
合理的であったので、周囲の兵士達の彼の言葉に素直に耳を傾けた。
「敵のレーザー剣に味方の防御役が苦戦している。
オレやウチの団員が前線に出て、
機械兵を倒すから、余裕ある者は後に続いてくれっ!」
これまた非常に分かりやすい命令。
味方の防御役は、強固な防具を纏っていたが、
フォトン・ブレードが相手となると、
手にした剣や戦鎚が簡単に両断されて、
少々慌てていたが、ラサミス達の参戦で状況が変わった。
「兎に角、胸部の核を狙えっ!
まずはオレがお手本を見せてやるぜっ!
こうやるのさっ! ――諸手突きっ!」
「ガ、ガ、ガ、ガギギギッ!!!」
ラサミスが右手に持ったフォトン・ブレードで、
眼前の機械兵の胸部を貫いた。
それによって高性能AIが破壊されて、
目の前の戦闘バイオロイドは、行動停止となった。
「あたしも続くわっ! ――ヴォーパル・スラストッ!」
今度はミネルバがフォトン・ランスことレーザー槍の
穂先で同じ要領で次々と戦闘バイオロイドの胸部を突き刺した。
「オレ達は小柄だから、普通に鎌や手斧を使おうぜ」
「ええ、ジウバルト殿。
我々はこのまま中衛に居て、
状況に応じて攻撃、フォローに入りましょう!」
「嗚呼、そうさせてもらうぜっ!」
こうしてラサミス達が最前線で暴れる事によって、
天使軍の戦闘バイオロイド達が次々と撃破されて行く。
最初は二千体近くいたのが、今では半数以下に減らされていた。
この状況に天使軍も動いた。
「力天使ヴァーチャ、味方の損害が増えつつあります。
どうやら敵は味方から奪ったフォトン・ブレードやレーザーライフルを
活用して、こちらの味方を狙い撃ちしているようです」
伝令役の天使兵がそう言って、
ヴァーチャの前で跪いた。
するとヴァチャーは、胸の前で両腕を組んで――
「そうか、敵も莫迦ではないようね。
状況に応じて敵の武器を利用している。
とはいえ味方に武器を使うな。
あるいは武器を変えろ、とは云えないわね」
「このままでは危険です。
何か手立てはないのでしょうか?」
と、伝令役の天使兵。
「単純に火力で負けてるのよね。
ならばこちらも火力で押すまでよ。
この私――ヴァーチャが前線に立ち、
敵の主力部隊を迎え撃つから、
天使兵は100名ほど、戦闘バイオロイドは、
三百体程、私と一緒に戦いなさいっ!」
「ヴァーチャ殿、ご自身が戦われるのですか?」
伝令兵の言葉にヴァーチャは「そうよ」と答えた。
そして近くの天使兵に持たせた白銀のランスを右手で掴んだ。
この白銀のランスは、ディバイン・セイバー同様に
大天使以上の天使に与えられたある種の神器のディバイン・ランスだ。
ヴァーチャは、全長2メーレル(約2メートル)はあるディバイン・ランスを
軽く頭上に掲げると、凜とした声で周囲に叫んだ。
「勇気と誇りを持つ者は、
私――ヴァーチャと共に来るが良い。
地上人如きに舐められてたまるかっ!
このヴァーチャが奴等に裁きの鉄槌を下してみせよう!」
こうしてヴァーチャ率いる天使軍の精鋭部隊が
数百体ほど固まって、
ヴァーチャを中央に配置して、
ラサミス達が居る最前線へと向かおうとしていた。
次回の更新は2025年8月7日(木)の予定です。
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