第六百五十八話 苛烈な地上戦(後編)
---三人称視点---
最新武器という物は便利だが、
それが相手の手に渡れば、それはたちまち脅威となる。
戦闘バイオロイド達から、
レーザーライフルや熱光線銃を奪ったウェルガリア軍の狙撃部隊は、
マリベーレを主軸として、
奪った銃やライフルで前方のバイオロイド達を狙い撃つ。
だが戦闘バイオロイド達は、
強制洗脳状態にされた魔物や魔獣のように恐怖という感情とは無縁。
レーザー剣やレーザー槍を振るって、
戦闘バイオロイドの集団は、間合いを詰めてきたが、
ラサミス達も奪ったレーザー剣やレーザー槍で応戦した。
「せいっ! ――諸手突きっ!」
近未来のレーザー剣こと、
フォトン・ブレードで剣術スキルを放つラサミス。
するとフォトン・ブレードにも剣術スキルの補正がかかって、
ラサミスの放った突きで、眼前の戦闘バイオロイドの胸部を貫いた。
「ア、ア、ア……ァアァァッ!!!」
戦闘バイオロイドを管理する高性能AIは、
中央処理装置と同じく彼等の胸部にあり、
フォトン・ブレードで突き刺されると、脆くも崩れ落ちた。
「この機械兵の弱点は胸部だ!
レーザー剣やレーザー槍で相手の胸部を狙えっ!」
「……コレ以上好キニサセルカッ!!!」
人工的存在である戦闘バイオロイド達にも
怒りに近い感情を持つ事はある。
少なくとも味方が次々と撃破されてて、
何もせず手をこまねく程、彼等も無能ではない。
ギュウイイイインッ!
ラサミスと戦闘バイオロイドのフォトン・ブレードが衝突する。
耳障りな音と共に周囲に火花が飛ぶが、
条件は同じなので、どちらが一方的に切断される。
という事はなかった。
「――お兄ちゃん、左にサイドステップよ!」
「おうっ!」
後方からマリベーレの声が聞こえるなり、
ラサミスは指示通りに左に横っ飛びする。
間を置かずして、後方のレーザーライフルの銃口から、
レーザー光線が放射されて、
ラサミスの前に立つ戦闘バイオロイドの左足の太股に命中した。
「ナ、何ッ!?」
「お前等、随分と重量がありそうだな。
そりゃ足がヤラれたら、まともに立つ事も出来んよな。
でもそれでもオレは容赦しねえぜ! ――二の太刀っ!」
そう言って、ラサミスはフォトン・ブレードで二の太刀を繰り出す。
最初の横薙ぎで戦闘バイオロイドの首を撥ねて、
続いて胸部を綺麗に横一文字に斬りつけた。
「ァアァァ……アアァァ!!」
「効いているが、やはり突きの方が効くようだな。
皆、兎に角、レーザー剣で敵の胸部を突けっ!
オレがお手本見せてやる! ――諸手突きっ!!」
「グルァアァァ……アアァァッ!!!」
お手本を見せるべく、
ラサミスがフォトン・ブレードを再度、機械兵の胸部を突き刺した。
その刹那、電流と火花が生じたが、
十数秒後には戦闘バイオロイドが戦闘不能状態に陥った。
「この要領だ、この要領で機械兵をぶっ倒せっ!」
攻略法を自ら示した事によって、
周囲の者達もラサミスの言葉に素直に従った。
フォトン・ブレードやレーザー槍こと――フォトン・ランスで
機械兵――戦闘バイオロイド達の胸部を次々と突き刺して行く。
気が付けば、数十分足らずで、
三十体近くの戦闘バイオロイドが戦闘不能に追いやられた。
それを中列で見ていた力天使ヴァーチャが動き出した。
「慌てるな! 敵もフォトン・ブレードの扱いには慣れてない筈。
戦闘バイオロイドは、二人一組、あるいは三人一組になって、
敵の前衛部隊と戦いなさい! 天使兵は中列から、
時魔法で敵の動きを低下させて、
魔獣のガルムやフレイム・フォックスを各組、一体ずつ連れて、
敵に目掛けて、けしかけるのよ。 これで敵も混乱する筈よ!」
ヴァーチャのこの指示は、予想以上に功を制した。
戦闘バイオロイド達は命じられたように、
人一組、あるいは三人一組になった。
それを中衛の天使兵がフォローして、
捨て身覚悟でガルムやフレイム・フォックスが
ウェルガリア軍の前衛部隊に襲いかかった。
「敵も考えてきたみたいだな。
良し、ここはまず一旦前衛を後退させよう。
そして戦士や聖騎士などの
防御役で前衛を固めて、
狙撃部隊と魔導師部隊で機械兵や天使兵を蹴散らすんだ!」
ラサミスも状況を見て、そう指示を出した。
だが咄嗟の事で周囲の兵士達も思うように動けなかった。
そんな彼等に魔獣ガルムが飛びかかり、
フレイム・フォックスは口から炎を吐き出した。
「う、う、うわあああっ!」
「慌てるな! ガルムは足に闘気を纏って、
蹴りで首をへし折るんだっ!」
「ガルルルッ!」
「ラサミス殿、ガルムが飛びかかりました」
「バルデロン、言われなくても分かっている!
オラアァッ! くたばれやっ!」
ラサミスは右足に氷の闘気を纏い、
全力で蹴りを放って、ガルムの首をへし折った。
それを見てジウバルトやミネルバも
同じ要領でガルムの首をへし折る。
「天使兵の時魔法は、上手い具合に回避しろ。
機械兵は、二人一組、三人一組で来るなら、
これらも同じように複数で対応するんだ!」
ラサミスのこの指示は間違ってなかった。
だが前線部隊としては、
急に指示を出されても、混乱する。
といった者が一定数居た。
「仕方ねえ、オレとミネルバ、ジウで対応しよう」
「ええっ!」
「団長っ! ――フレイム・フォックスがこちらを狙っている!」
ラサミスは、ジウバルトの声を聞き、
周囲を見回すと、近くフレイム・フォックスが地に低く伏せていた。
口内が赤熱しており、鋭利な牙の隙間から白い煙が漏れている。
そしてフレイム・フォックスは頭を振って、
赤くなった口腔を開き、炎の塊を吐き出した。
だがラサミスは慌てず、
背中に背負った「吸収の盾」を左手に持って、
前にかざして、静かに魔力を篭めた。
すると吐き出された炎の塊が綺麗に吸収された。
「――諸手突きっ!」
すぐに間合いを詰めて、
渾身の突きを放つラサミス。
聖刀の切っ先が目の前の魔獣の喉笛を貫いた。
「この要領で魔獣を倒していけ。
余裕のない者は、遠慮する事無く後退せよ。
そして防御役と入れ替われ。
それが上手く行けば、魔導師部隊は魔法攻撃で応戦せよっ!」
こうしてラサミスが前線部隊と中衛部隊を上手く指揮して、
臨機応変に動いて、前線を盛り立たせる。
全て上手く行くといった訳ではなく、
多少の犠牲は出たが、上手い具合に隊列を入れ替えて、
前衛に防御役、中衛に魔導師部隊を配置して、
ラサミスは大声で叫んだ。
「よーし、魔導師部隊、全力で魔法をぶっ放せっ!」
次回の更新は2025年8月5日(火)の予定です。
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