第六百五十七話 苛烈な地上戦(中編)
---三人称視点---
戦闘バイオロイド達がエア・バイクや小型戦闘艇に乗る中、
ラサミスの的確な指示で魔法攻撃が仕掛けられた。
エア・バイクの移動速度は60~300キール(約60~300キロ)ぐらいだが、
小型戦闘艇に関しては、60~200キール(約60~200キロ)ぐらいの移動速度だ。
小型戦闘艇は元々、宇宙戦を想定して作られた乗り物で、
地上のような重力があり、狭いエリアでの移動はあまり向いてなかったが、
地上や低空にエア・バイクを置いて、
空中戦を中心に攻め立てると、ウェルガリア軍は苦戦した。
ウェルガリア軍としても、
エア・バイクや小型戦闘艇との戦闘は未知なる部分が多くて、
想像以上のスピードで地上や空中を移動する標的に苦戦を重ねた。
だがラサミスやシモーヌ副隊長。
また「竜の雷」の団長で竜人軍を率いるシャルクは、
周囲の部下達を落ち着かせて、
魔導師部隊による魔法攻撃でエア・バイクと小型戦闘艇を
確実に撃破していき、徐々に戦いの主導権を握っていく。
その光景を後衛の本陣で見守っていた力天使ヴァーチャは――
「敵の反応が予想以上に早いわね。
向こうにも良い指揮官が居るようね。
ならばこちらは通常通りの攻撃を行いながら、
戦闘バイオロイドにレーザー剣やレーザー槍を持たせて、
多少強引でも白兵戦を仕掛けましょう」
という指示を出して、戦局の打開を図った。
エア・バイクに戦闘バイオロイドを相乗りさせて、
一体ずつ確実に地上に降下させて、
指示通りにレーザー剣やレーザー槍を持たせて、
ウェルガリア軍の地上部隊目掛けて突撃させた。
「くっ……敵のあの光る武器は危険だわ。
こちらの剣や槍、斧を野菜を切るように、
簡単に切断しているわっ!」
「……おまけに魔物や魔獣と違って、
耐久力が異様に高くて、なかなか戦闘不能に追い込めない。
このままでは地上戦で敵に押し切られるぞっ!」
シモーヌ副隊長とシャルク団長が喘ぐ中、
ラサミスは落ち着いた様子で新たな指示を出した。
「確かに接近戦では向こうに分があるようだな。
ならばここは最初の方針通りに魔法攻撃中心で攻めて、
敵が落としたレーザーライフルやレーザー剣を奪って、
中・長距離から狙撃、接近戦ではレーザー剣で応戦せよっ!」
敵の武器を拾い、それを使って応戦する。
という戦術に対して、抵抗感を示す兵も少なくなかったが、
いざそれを実行してみると、想像以上に効果的であった。
「うおっ……信じられん速度で敵に光線を放てるぞ。
確かにこんな物があれば、戦いが優位になるわけだ」
「あの小型戦闘艇は移動速度が速い上に、
上空を自由自在に飛び交うが、
あの空飛ぶ乗り物(※エア・バイクの事)は、
前進か、上昇か、下降する事が基本の動きのようだ。
だからあの前輪の車輪に目掛けて、
この光線ライフル、あるいは魔法攻撃を放てば、
あの空飛ぶ乗り物の動きは止めれるだろう」
ラサミスの指示通りに動いた兵士達は、
「やれるもの」から「やるもの」に変貌を遂げて、
今までやられた仕返しをすべく、
レーザーライフルやレーザー剣で応戦した。
「――雷炎剣っ!!!」
そんな中でもラサミスは、敵を確実に撃破すべく、
神帝級の刀術スキル「雷炎剣」を放った。
ラサミスの聖刀に紅蓮の炎が宿り、
照準を前方の戦闘バイオロイドに合わせて、その聖刀を振った。
すると紅蓮の炎が戦闘バイオロイド目掛けて放たれた。
「ギ、ギ、ギギギァアァァッ!!!」
「ヤバイ! 逃ゲロッ!!!」
紅蓮の炎がうねりを生じて、
戦闘バイオロイドの全身を覆い尽くして、
高温でその機械の身体を焼いた。
機械の身体と云えど、
数百度を超える炎の前では無力であった。
だがラサミスの攻撃はこれで終わらない。
「――黄金の息吹」
ラサミスはここで職業能力「黄金の息吹」を発動。
注ぎ込む魔力は、全体の四割程度。
すると聖刀を持つラサミスの右手に膨大な魔力が蓄積される。
そしてラサミスは、今度は神帝級の刀術スキル「雷神剣」を発動させた。
「――雷神剣っ!!!」
ラサミスがそう叫ぶなり、
右手に持った聖刀に雷光が宿り始めた。
その重みに耐えながら――
「うおおおぉっ……おおおぉっ!」
ラサミスは大声で叫びながら、
雷光を宿らせた聖刀を頭上に掲げた。
標的は前方のバイオロイドの集団。
それに狙いを絞って、聖刀から雷光を解き放った。
その刹那、耳に響く雷鳴が轟き、
標的である前方のバイオロイドの集団の身体に稲妻が落ちた。
「ギ、ギ、ギギギァアァァッ!!!」
「ガ、ガ、ガアアア……ガルキャァッ!!!」
機械の弱点は雷。
それは戦闘バイオロイド達も同じであった。
その電撃で彼等を構成する高性能AIが破壊されて、
その機械の身体の回路も綺麗に焼き切った。
今の一連の攻撃で、
ラサミスは瞬く間に五十体近くの戦闘バイオロイドを
戦闘不能状態へと追いやった。
「奴ダッ! アノ銀髪ノヒューマンヲ殺セッ!」
運良く生き残った戦闘バイオロイドがそう叫ぶが、
次の瞬間、後方から放たれたレーザーで頭部を破壊された。
これにはラサミスも驚いて、
思わず後ろに振り向くと、
そこにはレーザーライフルを構えたマリベーレの姿があった。
「マリベーレ! そのレーザー銃を使ってるのか?」
「そうよ、ラサミスお兄ちゃん。
魔法銃と構造が似てるから、
結構簡単に使えるわ」
よく見ると周囲の銃士や魔法銃士らしき
エルフ兵達がレーザーライフルや熱光線銃を両手に持っていた。
「成る程、ならば全員で敵目掛けてレーザー光線や熱光線を放つのだ」
ラサミスに言われるまでもなく、
マリベーレを初めとしたエルフ兵が手にした
レーザーライフルや熱光線銃の引き金を引いた。
それと同時に無数のレーザー光線と熱光線が放たれて、
前衛に居た戦闘バイオロイド達や魔物、魔獣が
次々と狙い撃ちされて、悲鳴を上げて息絶えた。
それに業を煮やした力天使ヴァーチャが周囲に大声で命じた。
「こうなれば私が前線に出て、陣頭指揮を執るわ。
戦闘バイオロイドと天使兵も前に出て、
私のサポートを! また行動停止になる前に敵に目掛けて自爆なさいっ!
ここが正念場よ! 皆、覚悟を決めなさいっ!」
次回の更新は2025年8月3日(日)の予定です。
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