第六百五十五話 勢力伯仲(後編)
---三人称視点---
「ご命令承りました。
これより自動攻撃モードを発動します。
使用武器はレーザー砲。
攻撃対象は前方の巨大な猫一匹とします」
メルカバーに備えられた黒いレーザー砲が自動的に動き出す。
レーザー砲脇に備えられた遠隔高性能カメラで、
標的の位置と座標を僅か十数秒で正確に算出する。
そして砲身制御システムが黒いレーザー砲の角度を微調整して、
狙いをニャーランに定めた。
「攻撃対象をロックオンしました。
レーザービーム砲の三連射で、
前方の巨大猫を狙います。
宜しい時は「撃て」と合図してください」
「撃てだ、今すぐ撃てっ!!!」
するとメルカバーのレーザー砲がニャーランに、
狙いを定めて、砲門からレーザービームが三連射された。
青い三本のレーザービームが前方ニャーラン目掛けて掃射される。
「そうそう簡単にやられニャいッ!!!
――ニャーマン・バリアァッ!!」
手負いの状態ながらニャーランが
巨大化した状態で強力なバリアを張り巡らせた。
バリアの強度はツシマン以上ニャラード団長以下の強度だ。
ニャラード団長には及ばないが、
バリアの範囲も広く、強度もかなりのレベルに達していた。
そのニャーランの強力なバリアに、
メルカバーの青い三本のレーザービームが命中した。
ニャーランの張った広範囲のバリアに、
レーザービームが激しく衝突して、
太陽光のような光が生じて、
耳に響く甲高い衝撃音が周囲に響き渡る。
「ニャアアァァァ……アァァァッ!
ニャーマン・バリアァッ、フルパワーッ!!!」
ニャーランは全身に火傷を負った状態で、
更に魔力を練り上げて、バリアの強度を上げた。
うねりを生じた三本の青いレーザービームは、
バリアに衝突し続けたが、
一部に亀裂が生じたが、破壊するまでには至らなかった。
その光景を中央発令所の液晶スクリーンで見据えながら、
熾天使ラファエルは、苛立たしげに叫んだ。
「もっとだ! もっと撃て!
ファイアだ、ファイア、撃ちまくれっ!」
「攻撃対象をロックオンしました。
レーザービーム砲の三連射で、
前方の巨大猫を再び狙います」
再びメルカバーのレーザー砲から、
三本の青いレーザービームが掃射された。
すると今度は完璧に防御出来ず、
一本の青いレーザービームがバリアを貫通して、
ニャーランの巨体に命中した。
「ニャ、ニャ、ニャアァァァッ!!!」
レーザーの直撃を受けたニャーランは、
断末魔のような悲鳴を上げて、
身体がくの字に折れ曲がり、白目を剥いて地面に落下した。
身体は消し炭にこそならなかったが、
全身がまっ黒けに焼け焦げの状態。
そして落下の途中でニャーランの巨大化が解除されて、
元通りの普通のサイズに戻っていた。
その姿を見て、
グリファムの愛獣に相乗りするシーネンレムスが咄嗟に指示を出した。
「残念ながらニャーラン殿は戦死したようだ。
ここからは我々が対応せねばならんっ!
レストマイヤーとアグネシャールッ!!」
「「はいっ!」」
「ワシは今から渾身の魔法攻撃を放つから、
貴公等は敵の攻撃と同時に障壁を張れっ!」
「「了解しました」」
「ではワシは今から闇属性の魔法攻撃を行う。
闇の覇者、暗黒神ドルガネスよ! 我が名はシーネンレムス!
我が身を暗黒神に捧ぐ! 偉大なる暗黒神ドルガネスよ。
我に力を与えたまえ! 『闇の審判』っ!」
そう呪文を唱えると、
シーネンレムスの左腕に膨大な魔力を帯びた漆黒の波動が生じた。
そしてシーネンレムスは左腕を大きく引き絞った。
次の瞬間、シーネンレムスの左手から迸った漆黒の波動が神速の速さで、
前方のメルカバー目掛けて急接近した。
「緊急事態発生、緊急事態発生!
前方より強力な攻撃魔法が急接中です!
自動操縦システムで、バリアを張りますが、
防げる保証はないので、
各員は安全な場所に退避してください!」
AI制御システムが事務的にそうアナウンスする。
「今すぐバリアを張れっっ!」
熾天使ラファエルは、大きな声でそう命じた。
「ご命令承りました。
直ちにバリアを展開しますっ!!」
命じられた通りに、
AI制御システムがメルカバーの前方にバリアを展開した。
間を置かずして、漆黒の波動がバリアに着弾。
それと同時に耳障りな衝撃音と爆発音が沸き起こった。
シーネンレムスが放った魔法は、
闇属性の魔帝級の攻撃魔法であった。
激しい衝撃がメルカバーの周囲に張られたバリアを襲う。
その結果、バリアの強度は一気に低下した。
だがバリアを破壊するまでには至らなかった。
「チッ、バリアを破壊する事は敵わなかったか。
ワシも魔帝級レベルの攻撃魔法を使うのは随分久しぶりであった。
だが効果がまるでない訳ではない。
周囲の魔導師達に告ぐ!
余裕がある者は前方の敵艦目掛けて攻撃魔法を放つのじゃ!」
シーネンレムスの言葉に従い、
周囲の魔導師達も「はい」や「おう!」と返事して、
魔力を振り絞って、強力な魔法攻撃を仕掛けた。
対する熾天使ラファエルも――
「バリアが破壊されるまでは、防御に徹しよ。
そしてバリア破壊と同時にビーム及びレーザー攻撃で応戦せよ」
「了解致しました」
その後、ウェルガリア軍の魔導師部隊は、
魔法攻撃、敵の攻撃に対して障壁を張り、
熾天使ラファエルもメルカバーに、
バリアを張らせて、ビーム及びレーザー攻撃で応戦した。
激しい攻防が続いたが、
勢いではウェルガリア軍が勝ったので、
ラファエルも戦闘バイオロイド達を戦闘艇や小型戦闘に搭乗させて、
ウェルガリア軍の空戦部隊目掛けて突撃させた。
数十分間の間に凄まじい攻防戦が繰り広げられた。
そして空の戦いが続く中、
地上に控えるラサミス達――地上部隊も動こうとしていた。
「どうやら空の戦いは互角のようだな。
ならばオレ達も動いて、敵の地上部隊を制圧するぞっっ!」
ラサミスがそう言うと、
周囲の仲間達も無言で相槌を打った。
こうして空の戦いに続き、
本格的な地上戦が繰り広げられようとしていた。
次回の更新は2025年7月29日(火)の予定です。
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