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第六百四十七話 進取果敢



---三人称視点---



「ムシャムシャ、ウーン、ウマイッ!!!」


 多くの者は控えめに紅茶か、珈琲コーヒーを飲んでいたが、

 マリウス王弟おうていだけは、グビグビと珈琲コーヒーを飲み、

 お茶菓子のクッキーを左手で掴んで、口の中に放り込んでいた。


 今では色々と成長した彼だが、

 この辺は子猫の猫族ニャーマンと大差なかった。


「コホン、マリウス王弟殿下おうていでんか

 口元にクッキーの欠片がついてますぞ」


「ニャー、大臣。 分かってるニャン」


「……」


 緊張感が欠ける雰囲気だが、

 魔王レクサーは「クスリ」と笑った。


「もう良いでしょ?

 お茶とお茶菓子を下げたまえっ!」


 ニャルドーム大臣に言われて、

 猫族ニャーマンとエルフ族の従者が「はい」と返事して、

 手際よくお茶とお茶菓子をトレイに乗せて部屋から出た。


「休憩も充分であろう。 では話を元に戻そう。

 ここまでの戦いの記録と噂の空飛ぶ黒い船について、

 知ってる限りの情報を教えてもらえないか?」


「そうですな、ではニャラード団長。

 貴方の口から魔王陛下にお伝えください」


「はい、実は――」


 大臣に指名されたニャラード団長は、要点を掻い摘まんで、

 これまでの戦いの流れを説明した。

 するとレクサーは「そうか」や「成る程」と相槌を打った。

 そして表情を引き締めて、言葉を紡いだ。


「成る程、現時点でも空飛ぶ黒い船にダメージを与えたのか。

 ならば今後も戦い方によっては、

 互角以上に渡りあえるかもしれんな」


「ふぉっ、ふぉっ、具体的にどうするおつもりで?」


 と、先王ガリウス三世がそう問うた。

 それに対してレクサーは理路整然と答える。


「限定的な状況だが、ニャラード団長達の力で

 敵の障壁バリアを貫通してダメージが与えられる事が分かった。

 奴等の超兵器は、我等の予想を遙かに上回る物だが、

 まるで歯が立たないという訳でもなさそうだ。

 ニャラード団長達が実行したように、

 高度6、7000メーレル(約6、7000メートル)まで上昇して、

 一斉に魔法攻撃を放てば、敵艦を沈めれるかもしれん」


「ですが敵の反撃はかなり強力です。

 エルフ軍なんか数分で千人単位の犠牲者が出ました」


 ここでレフ団長が初めて口を開いた。


「うむ、敵の超兵器が危険な事は理解した。

 ならば敵艦の動きを封じれば良いだろう。

 そこでシーネンレムスッ!」


「御意っ!」


けいの意見と知恵が欲しい」


「……何なりとお聞き下さい」


「上空一万メーレルに居る敵艦相手に、

 天候操作魔法で揺さぶりをかけれる事は可能か?」


「……正直分かりかねますな。

 ただ相手の高度が8000くらいに下がって、

 こちらが高度3、4000まで上昇して、

 ワタシと陛下が協力すれば可能かもしれません」


「そうか、可能か。

 ならば我々にも勝機はあるかもしれん」


 そう言うレクサーは、とても嬉しそうに口の端を上げた。


「ニャル程、長距離魔法攻撃に加えて、

 天候操作魔法で敵艦に揺さぶりをかける。

 確かにやりようによっては行けそうだね」


 と、マリウス王弟おうてい


「ですが魔王陛下、自ら前線に出るのは……」


「グリファム、余は後方から暢気に高見の見物をする気はない。

 ここで連合軍が負けたら、

 恐らく軍としての統率力を維持するのは、

 かなり難しくなるであろう。

 兵やたみがあってこその魔王。

 だから余も前線に出て戦う」


「……ならば私としては、

 陛下のお考えに従うまでです」


「うむ、だが余一人では戦えない。

 だからグリファム、貴公の獣魔団じゅうまだんの力を借りたい。

 貴公の信頼出来る魔物や魔獣に余やシーネンレムスを相乗りさせて欲しい」


「はい、おおせのままに!」


「魔王陛下自らが戦場に立っていただけると、

 我々としても非常に心強いですニャ」


「ええ、私もマリウスと同じ気持ちです」


 と、アーベル国王。

 だがレクサーの話はこれで終わりではなかった。


「仮の話だが、空飛ぶ黒い船の船底や装甲に

 強力な魔法で穴を開けて、

 内部に突入するという考えはどう思う?」


 このレクサーの意見には、

 周囲の者達も唖然とした顔をしていた。


「不可能ではないですが、

 仮に成功したとして、

 魔王陛下は侵入させた兵をどうするおつもりでしょうか?」


 と、シーネンレムス。


「無論、知れた事よ。

 突入させた兵士に艦内を制圧させて、

 あの空飛ぶ黒い船を我等の手中に収める」


「ニャ、それは大胆ですニャ」


 と、マリウス王弟おうてい


「しかし我々であの黒い船を使いこなせるでしょうか?」

 それと魔王陛下の真の狙いも知りたいです」


「シーネンレムス、良かろう。

 余の真の狙いはあの黒い船を操り、

 奴等――天使共の本拠地へ殴り込む事にある。

 あの黒い船は恐らく時空を超えて、

 このウェルガリアにやって来ただろう。

 ならば同じようにこの世界から奴等の世界へ

 行く事も可能な筈だ」


 レクサーのこの大胆な試みに、

 シーネンレムスだけでなく、

 周囲の者達も唖然とした表情を浮かべてしまっていた。


「そこまで覚悟を決めましたか。

 魔王陛下がそう言うならワタシも覚悟を決めましょう。

 ですが一言だけ申し上げたい事があります」


「何だ、申してみよ?」


 シーネンレムスの言葉にそう返すレクサー。

 するとシーネンレムスは、落ち着いた口調で語り出した。


「相手と……天使側と最低限の交渉の窓口は、

 設けておくべきでしょう。

 そうでないとどちらかが滅ぶまでの戦いになりかねない」


「無論、余とてそのつもりだ。

 だが向こうがどういうつもりかは分からんがな。

 ただ相手が折れてきたら、こちらも折れるつもりだ」


「……そう願いたいものですな」


「いずれにせよ、和平交渉を結ぶ前に、

 お互いに多量の血を流す事になるだろう。

 だから今日一日は全兵士に休暇を与えよう。

 また食事や酒の代金も余が全額負担させてもらう」


「おお、太っ腹ですな」


 マリウス王弟が素直な感想を述べた。

 典型的な飴と鞭の飴だが、

 兵士としては有り難い魔王の配慮だった。


 そして会議は終わり、

 ラサミスとミネルバは他の団員と合流した。


「そう、最後の晩餐という訳ね」


 と、メイリン。


「まあそう言う事だ。

 だから今日ぐらいはゆっくり羽根を伸ばそうぜ」


「とりあえずアタシはお店を確保しておくわ。

 ラサミスは何かやりたい事があるかしら?」


「嗚呼、ミネルバ。 冒険者ギルドに寄って、

 スキルポイントを的確に割り振りたいと思ってる」


「あっ、それいいな。 オレも付き合うよ」


 と、ジウバルト。


「私も同行して宜しいですか?」


「あ、私も行きたいです」


「あたしもお兄ちゃんに付き合いたい」


「ジウバルト、バルデロン、ジュリー、マリベーレ。

 勿論、良いさ。 これを機に皆もスキルの割り振りを

 見直しておくのも良いかもな」


 こうしてラサミスとその仲間は、

 この休暇でスキルポイントの割り振りと

 スキルの調整に時間を割くことにした。


 ――正直、この先どうなるか分からん。

 ――だから悔いの無いように下準備はしておこう。


 ――しかしあの黒い船を強奪する、というのか。

 ――流石はレクサー、流石は魔王。

 ――発想のスケールが常人とは違うな。


 ――だがそう簡単に行くとも思えん。

 ――ならばオレは自身を強化して、次の戦いに挑むぜ。


 こうして兵士達に一日だけだが、

 突如、休暇を与えられたが、ラサミスは気を抜くことなく、

 次なる戦いに向けての下準備に取りかかるのであった。


次回の更新は2025年7月10日(木)の予定です。


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― 新着の感想 ―
∀・)更新お疲れ様です。 ∀・)レクサーに脚光があたっていますね。戦争を統べるような知恵を働かせるのも彼の才能というところでしょう。ラミサスがどう動き、どうなっていくのかも注目です☆☆☆彡
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