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第六百三十四話 慷慨憤激(後編)



---三人称視点---



 ラサミス達が激闘を繰り広げる中、

 エルドリア城の三階の謁見の間にて、

 マリウス王弟おうていと魔将軍グリファムが眉間に皺を寄せて、ううむと唸った。


「まさか一瞬にして、大聖林だいせいりんが壊滅状態になるとはニャ。

 あの空飛ぶ黒い船の戦闘力は、そこまで高いのか」


「……自分もその事実に驚いております。

 ですが敵がこのエルドリア城へ攻め込んで来るのも、

 最早、時間の問題でしょう。

 ですのでマリウス王弟殿下おうていでんか

 貴方の忌憚のない意見をお聞かせください」


「魔将軍グリファム、それはつまりエルフ族の居城を見限って、

 猫族ニャーマン領に撤退するか、どうかとの話だよね?」


「はい、そうです」


「そうか~」


 マリウス王弟は、両手を胸の前で組んで首を捻った。

 彼も猫族ニャーマンの王族の一人、否、一匹。

 当然、この後にある猫族領ニャーマンりょうにおける本土決戦を考慮すれば、

 程よい所でこのエルドリア城を放棄する。

 それが賢い選択肢だという事も理解出来ていた。


 しかしながらこの段階でそれを実行すれば、

 このウェルガリア軍は崩壊するであろう。


 誰かって自分の身や自分の国は大事である。

 しかし相手はオーバーテクノロジーを有した宇宙戦艦だ。


 たった一撃で種族の根拠地が破壊された。

 それに対してマリウス王弟もごく自然に恐怖心を抱いた。


 だがそれは誰しもが同じである。

 誰かって死にたくないし、自分の国は滅びて欲しくない。

 

 でもここでエルフ族を見捨てれば、

 今後は各種族が疑心暗鬼になるのは明白だ。

 だからここはあえて限界までエルフ族の居城を護る。


 それが猫族ニャーマンの軍司令官。

 そして王族として、マリウス王弟が出した答えであった。


「正直、本音を云えば、今すぐにも撤退したいニャ。

 でも仲間であるエルフ族を見捨てて、

 それを実行すれば、連合軍は間違いなく瓦解する。

 だからボクは限界まで、エルフの居城に留まるつもりだ。

 その中であの空飛ぶ黒い船に弱点はあるか。

 あるいは我々の攻撃魔法でダメージを与えられるか。

 それだけでも見極めたいと思うニャ」


「……素晴らしいです」


「えっ?」


「このグリファム、マリウス王弟殿下のお考えに感動しております」


 真顔でそう褒め称えるグリファム。

 それに対して、マリウス王弟は、

 照れた表情で左手で頭の後ろを掻いた。


「ニャー、そう褒められると照れるニャ」


「正直、申し上げますと、

 普通の司令官や王族、貴族だと自身の安全を優先するでしょうし、

 それが普通と思います、だがこの危機的状況で貴方は、

 自分以外の者や国の安全などに目を向けた。

 これは簡単なようで、なかなか出来る事ではないです」


「まあボクも先の大戦で君達――魔族と大戦争したからね。

 仲間の間のやり取りで、随分嫌な思いもしたけど、

 こういう時は全軍の兵士や種族に対して公平フェアであるべき。

 それが正しい司令官、統治者としての姿と思うよ」


「……この状況でこういう台詞を言える事。

 それ自体が素晴らしい事です」


「ニャー、褒めても何も出ニャいよ?」


 するとグリファムは表情を引き締めて――


「そんな貴方だから申し上げます。

 このエルドリア城とエルフィッシュ・パレスの防衛には、

 私も賛成しますが、その間に敵のあの黒い船。

 あの敵艦の能力や攻撃力、そして耐久力を知りたい。

 前の空中要塞には、ニャラード団長の巨大化攻撃が通じた。

 だからあの黒い船にもそれを試して欲しいです」


 この言葉にマリウス王弟も真顔になった。


「そうだね、確かにこのまま防戦しても

 味方の犠牲者が増大するのも明白だ。

 それ自体は避けられないけど、

 彼等の死を無駄にしない為にも、

 敵――あの黒い船を倒せる可能性はあるのか。

 それだけでも探りたいところだね」


「ご理解が早くて助かります」


「いやいや、ボクも一応は王族で司令官だからね。

 戦争である限り、戦死者が出るのは仕方ニャいけど、

 彼等の死に報いるためにも、

 敵船の情報を得て、一太刀でも浴びせる。

 それが戦場に置ける司令官の正しい姿でしょうよ」


「仰る通りです」


「では早速、今からエルドリア城で防戦するニャラード団長。

 そしてその腹心の部下二匹に救援妖精を出すニャン。

 それを伝える伝令兵には、幾つか転移石を持たせるよ」


「流石です、やることに抜かりがありませんな」


「だが正直云うと、ボクはそろそろ限界を感じている。

 君達――魔族との戦いもまさに死闘であったが、

 まだ常識の範疇の戦いであったニャ。

 でも天使軍てんしぐんは違う。

 先の空中要塞、今度は空飛ぶ黒い船だ。

 たった一撃で大聖林を壊滅に追いやる超兵器。

 本当はボクらが戦うべき相手ではニャいかもしれない」


「……」


 グリファムは無言でマリウス王弟の言葉に耳を傾ける。


「それに怖いという気持ちもある。

 でもそれと同時に納得出来ないという強い怒りもある。

 ボク達が何をしたというのだ?

 彼等は――天使達は問答無用でこの世界に攻め込んで来た。

 だからボクらは応戦した。

 例え相手が天使だとしても、不条理な要求には従えニャい。

 と思ったら、この仕打ちだ。

 正直ボクもどうしていいか分からニャい」


「それは私も同じですよ。

 ですが我等は連合軍を束ねる司令官。

 相手が殴って来たら、殴り返す。

 それが軍、軍司令官というものです。

 しかし最悪の事態も想定すべきですな」


「……最悪の事態?

 例えばどんなケースかニャ?」


「我々、連合軍が完膚なきまで叩きのめされて、

 各種族、各国の首都、拠点が天使軍に制圧される。

 そうなれば五代種族、否、このウェルガリアは終わりだ。

 だから我々は限界の限界まで戦うべきでしょう」


 グリファムの言葉に、

 マリウス王弟もある種の共感を抱いた。

 そしてマリウス王弟は――


「魔将軍グリファム殿。

 我々、猫族ニャーマンは限界まで戦おう。

 だからアナタがた――魔族も同じように戦って欲しい。

 魔王陛下と大賢者ワイズマン殿に救援要請して、

 魔王陛下が率いる魔族の大軍を猫族ニャーマン領に派遣して欲しい」


「……確約は出来ませんが、

 私の出来る範囲で魔王陛下に救援要請を出します。

 ですが要らぬ心配ですよ」


「何がだね?」


「魔王陛下は誰よりも約束を護る御方です。

 きっと魔王陛下、御自ら救援に駆けつけて下さるでしょう」


「そう信じてますよ」


「ええ、信じてください。

 我等――魔族は約束を重んじる種族です」


 その言葉に嘘はなかったが、

 マリウス王弟も素直にはその言葉を信用出来ず、

 この危機的状況の中で何処まで奮戦するか。

 どの段階で猫族領ニャーマンりょうへ撤退するか。


 その事を頭の片隅に常に入れながら、

 まずは自分の役割を果たすべく、

 目の前の任務を全うしようとしていた。



次回の更新は2025年6月10日(火)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 マリウス王弟の英断。 モブ貴族であればすぐにても撤退しそうなところを、残る判断ができる。 マリウス王弟はまだ失いたくない状態ですね。 そして、魔王さまが登場しそう!楽しみですね、…
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