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第六百三十三話 慷慨憤激(前編)


---三人称視点---



 メルカバーの「メギドのほのお」の放射により、

 大聖林だいせいりんは壊滅状態に追いやられた。

 その中でも大聖林から巫女ミリアムのもとに、

 伝令兵からその惨状が伝えられた。


「て、敵の謎の砲撃によって、

 大聖林は壊滅状態となりました。

 確認出来たところで約9000人以上の死者。

 負傷者を含めれば、その数は15000人に達する、との話です」


「……そうですか」


 伝令からその報告を聞いた巫女ミリアムは、

 唇を噛みしめながら、両肩を震わせた。


 彼女も高魔力を有するエルフ族の首領。

 メルカバーが放った「メギドのほのお」の膨大な魔力の波動を

 その身で感じ取っていたが、

 いざその惨状を聞かされると、やはり動揺は隠せなかった。


「……大聖林の壊滅状態は、

 我々としては、看過出来ない出来事ですが、

 まだ危機が去った訳ではありません」


 エリアス参謀長の言葉に、

 巫女ミリアムも「そうね」と力なく頷いた。


「あの空飛ぶ黒い船の戦闘力は、

 我々の科学力や技術力を遙かに凌駕しております。

 まともに交戦すれば、大聖林だけでなく、

 このエルフィッシュ・パレスやエルドリア城も

 陥落させられる危険性は極めて高いです。

 ですので巫女ミリアムの今後の方針を是非お聞きしたいです」


 エリアス参謀長の言葉は一見して冷淡に聞こえるが、

 彼として穏健派エルフ族の端くれ。

 この惨状に彼の心も強い衝撃と怒りを滾らせていたが、

 この場においては、総参謀長としての役割を優先させていた。


「つまり状況次第では、

 この私がエルフ領を見捨てて、

 猫族ニャーマン領へ逃亡する。

 あるいはあくまでエルフ領に残る。

 そのどちらかを述べて欲しい、という事かしら?」


「……端的に云えばそうです」


「そう」


 そう言葉を交わして、

 巫女ミリアムはしばしの間、沈思黙考する。

 すると考えがまとまったようで、少し目を細める巫女ミリアム。


「私は最後までこのエルフィッシュ・パレスに留まるわ。

 もし私が戦死、あるいは囚われの身になれば、

 次の頭目にエリアス参謀長、貴方を指名します。

 またエルフ領からの逃亡、亡命を望む者を

 エルフ軍が全力でサポートする事にしましょう」


「了解致しました。

 ではこれよりエルドリア城のマリウス王弟殿下おうていでんか宛てに、

 それらの内容をしるした書状を送りたいと思います」


「……ちなみエリアス参謀長。

 貴方はこの状況なら、これからどう動くつもりかしら?」


「私は限界まで巫女ミリアムにお付き合いします。

 頭目の座にまるで興味が無いと云えば、

 嘘になりますが、穏健派エルフ族の頭目はあくまで貴方です。

 なので限界の限界が来るまで、

 貴方の傍で貴方を支えるつもりです」


 エリアス参謀長の言葉に嘘偽りはなかった。

 総参謀長という立場から、

 時には冷酷な判断をする事もあるが、

 彼も穏健派エルフ族を愛する愛国者。


 巫女ミリアムを見捨てて、

 頭目の座に就くなんて真似は彼の矜持が赦さなかった。


「エリアス参謀長、貴方の心意気は分かったわ。

 ならば私もエルフ族の頭目としての意地を見せるわ。

 但し限界が来たら、貴方はお逃げなさい。

 次なるエルフ族の頭目は貴方しか出来ないわ」


「……はい」


「でも私も易々と死ぬつもりはないわ。

 あの空飛ぶ黒い船に一太刀でも浴びせる。

 そのくらいのつもりで、これから戦うわよ」


「はいっ!」


 こうして巫女ミリアムは、決意を固めて、

 このエルフィッシュ・パレスで、

 最後まで戦うという選択肢を選んだ。



---------


 一方、その頃、エルドリア城で応戦するラサミス達も

 伝令兵によって、大聖林にメギドのほのおが放たれた事を知る由となった。


「北北東のエリアで何か強大な魔力とエネルギーを感じたが、

 まさかそんな事になってるとはな……」


 大聖林の壊滅という伝令を聞いて、

 ラサミスも大きなショックを受けていた。

 そこで視線をマリベーレに向けると、

 彼女は唇を歯で強く噛んでいた。


「ショックな気持ちは分かるが、

 我々もあの大軍の機械兵きかいへいの相手をせねばならん状況。

 ここはあえて心を鬼にして、敵を迎え撃つぞっ!」


「ラサミスくん、ニャラード団長の言う通りだ。

 ここで我々まで巻けたら、

 それこそエルフ領は完全に天使軍のは占領下におかれることになる。

 そうなれば次は猫族ニャーマン領。

 その次は中立都市リアーナか、ヒューマン領が犠牲となるだろう」


 剣聖ヨハンの言葉は一見厳しく聞こえるが、

 このまま負け続けたら、彼の言葉通りになる。

 

 特にリアーナにはラサミスの妻子が居り、

 連合ユニオン拠点ホームもある。


 自分の妻子や仲間の拠点が蹂躙される。

 そう頭で想像すると、何とも言えない恐怖感を感じたが、

 それと同時に「それだけは絶対させない」という強い意志も湧き出てきた。


「分かったぜ、ニャラード団長、ヨハン団長。

 オレもこんな所で死ぬつもりはないし、

 猫族ニャーマン領やリアーナが犠牲になるのは、

 我慢できねえ、だから死ぬ気でこのエルドリア城を護るよ」


「ラサミスくん、その意気だよ」


 団長ヨハンが微かに微笑みを浮かべ、前線に立った。


「そろそろ大結界が破られそうだな。

 ニャーラン、ツシマンッ!」


「はいニャン」「はいでニャんす」


「あの機械兵と奴等が扱う乗り物(ヴィークル)の性能が知りたい。

 だがいくら連中が優れた兵器や機動性を持ってたとしても、

 気象の急激な変化が起これば、奴等とて無傷ではいられないだろう」


「ニャー、そうだニャン。

 それでニャラード団長には、ニャにか良い策があるのかニャ?」


「ニャーラン、無くはない。

 端的に云おう! 連中に対して最大級の風属性魔法で攻撃。

 あるいは風と土の合成魔法で竜巻を起こす。

 それらを上手く駆使すれば、奴等にも勝てるかもしれん」


「成る程、それは名案ですね。

 流石はニャラード団長っ!」


「嗚呼、それなら何とかなりそうだな」


 団長ヨハンとラサミスも相槌を打つ。


「だが厳しい戦いにはなるぞっ!

 ヨハン団長、ラサミスくん。 君達の力を貸してくれ」


「「はい」」


 そして大結界が遂に破られて、

 戦闘艇や小型戦闘艇、エアバイクに乗った戦闘バイオロイド達が

 レーザーライフルや熱光線銃を構えながら、

 ラサミス達目掛けて突撃して来た。


 こうしてラサミス達の負けられない戦いが幕を開けた。


次回の更新は2025年6月9日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
∀・)更新お疲れ様です。 ∀・)メギドの炎は映像で見たら凄い迫力ありそうですね。アニメでも神作画になりそうって妄想しました。 ∀;)ラミサスたち、ウェルガリアの団結シーンが熱いなぁ♡♡♡
更新お疲れ様です。 ミリアム、それなりに登場し活躍していたキャラなので失うのは痛いですね。 できればここで勝てればいいのですが、メギドの炎もあるし難しそう... ここで負けたらエルフ領には後がありま…
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