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第六百三十二話 メギドの炎



---三人称視点---



「大結界はまだ完全に破壊されてませんが、

 この状況で「メギドのほのお」を使うのですか?」


 座天使ざてんしソロネが確認するかのようにそう問いただす。


「嗚呼、あえて大結界に向けて、

 「メギドのほのお」を使用する。

 さすれば大結界のおかげで実際の被害は少し減るであろう」


「相手に慈悲をかける、という訳でしょうか?」


「同士ソロネ、つまりはそういう事だ。

 俺とて慈悲の心を持ち合わせている。

 あくまで「メギドのほのお」は、相手の心を折る手段に過ぎん。

 まあガブリエル辺りが五月蠅うるさいという部分もあるがな」


「私も同士ラファエルの考えに賛成だ。

 我々は世界をべる統治者ではあるが、

 神そのものではない。 ならば制裁対象にも最低限の慈悲を持つ。

 それは悪い事ではないだろう」


 熾天使してんしウリエルがそう言って、

 熾天使してんしラファエルに同調した。

 するとソロネもそれ以上の反論は控える事にした。


「まあお二方ふたがたがそう仰るのであれば、

 私もその方針に従わせて頂きます」


「うむ、では行くぞっ! 

 「メイドの炎」、発射態勢に入れっ!」


「――了解致しました」


 ラファエルの命令に、

 中央発令所の高性能コンピューターから、

 無機質な女性の音声アナウンスが再び流れてきた。


「――エネルギー充填開始っ!!!」


 天空の方舟メルカバーの先端の主砲発射口に光子が集まりだす。


「目標前方15キルメーレル(約15キロメートル)。

 攻撃対象、大聖林。 ターゲット・ロックオン。

 エネルギーレベル40、50、60……」


 無機質な女性の音声アナウンスが周囲に響く中、

 ラファエルは胸の前で両腕を組んで、

 その双眸で近くの液晶スクリーンを凝視する。


「照準オーケー、メギドの炎、発射20秒前、10秒前……」


「良し、撃て(ファイア)っ!!!」


「――メギドの炎っ! 発射ぁぁぁっ!!!」


 次の瞬間、メルカバーの先端の主砲発射口から、

 業火のような発光とともに、

 轟音を轟かせて光の塊が前方に向けて発射されて、

 真っすぐに大結界目掛けて飛んでいった。


 その業火のような光の塊は、

 一瞬で大結界を撃ち破って、

 その先にある大聖林を容赦なく蹂躙した。


 一瞬にして大聖林の木々や民家や建物は焼失した。

 あまりにも強大な高熱が木々や建物を容赦なく破壊して、

 美しい大聖林は、一瞬で山肌があらわになった無残な姿を露呈した。


 たった一撃の砲撃で、

 穏健派のエルフ族の本拠地「大聖林」は壊滅的なダメージを受けた。

 これには敵側である大天使ソロネも軽く両眼を瞬かせて、

 唇も半開きになっていた。


「ま、ま、まさかこれ程の威力とは……」


「同士ソロネ、驚いているようだな。

 まあ無理もない、これで大聖林は壊滅状態。

 エルフ族も慌てるであろう」


 と、熾天使してんしラファエル


「メギドの炎の発射により、

 メルカバーの総エネルギーが約10パーセント減少しました」


 無機質な女性の音声アナウンスがそう告げると、

 熾天使してんしラファエルは「フン」と鼻を鳴らした。


「たった一撃で総エネルギーの10パーセントを消費か。

 威力は大したものだが、そう何度も使えんな。

 使うとしたら、後、一、二回が限度だな」


「同士ラファエル、私も同じ考えだ。

 敵を殲滅する前にこちらがエネルギー切れすれば、

 本末転倒も良いところ、とりあえずしばらくは、

 「メギドのほのお」を使う必要はないだろう」


 熾天使してんしウリエルがそう言う。

 ラファエルにしてもウリエルと同意見であった。


 だがウェルガリアの民は侮れない部分がある。

 それに天使長ミカエルが特異点として、

 警戒していたラサミス・カーマインの動向も気になる。


「良し、とりあえず一旦この場を離れよう。

 そしてエルドリア城か、エルフィッシュ・パレスに向かおう。

 ここで奴等を叩けば、完全に心を折れるだろう。

 やるからには全力で、奴等を叩き潰すっ!!」


「嗚呼」「はいっ!」


 そしてラファエルは、AIエーアイ制御システムに命じて、

 南南東へと進路を取った。


 その背後でメギドの炎で、崩壊した大聖林の姿が映し出される。

 たった一撃で数千人以上の命が一瞬で奪われた。

 運良く生き残った者も周囲に燃え移った炎に怯えながら、

 逃げ出す者、泣き叫ぶ者、呆然とする者。


 まさに惨状、まさに悲劇、まさに地獄。

 だがソロネは別として、

 ラファエルとウリエルは堂々とした表情でその惨状を見据えていた。


「これは必要な制裁なのだ。

 だから俺は怯まぬ、後悔などせぬ。

 もし仮に神に罪を問われても、その罪をあえて受けよう」


「同士ラファエル、私も同じ気持ちだ。

 正直ウェルガリアの民は我々の想像以上に強かった。

 このまま大天使達が次々と死ぬのは避けたい。

 だからメギドの炎の使用は間違ってない。

 私はそう信じているよ……」


「そうだな、だがこれで終わりではない。

 次はエルドリア城か、エルフィッシュ・パレスの敵軍を叩くぞっ!」


 ある種の覚悟を決めたラファエルとウリエル。

 だがこのメギドの炎の一撃で、

 ウェルガリア軍の怒りは最高潮に達した。


 こうしてウェルガリア軍と天使軍の戦いは、

 退くに退けない状態へと追いやられた。


次回の更新は2025年6月5日(木)の予定です。


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― 新着の感想 ―
∀・)更新お疲れ様です! ∀・)天使軍、圧巻ですね。だけど「侮れないウェルガリア」という表しがあるのがポイントな気がします。
更新お疲れ様です。 メギドの炎、1発で大聖林を焼失させるとは... 核兵器に匹敵する力もありそうですね。これだけの威力があると... 次の1発、できれば防ぎたいけど難しそうですね。 バリアでなんとか…
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