第六百二十九話 メルカバー降臨(後編)
---三人称視点---
天空の方舟メルカバーの地上降臨。
それによってウェルガリア軍は一気に瓦解した。
メルカバーの低周波ミサイルを発射によって、
団長ケビンを含めた山猫騎士団は、
三百名以上の猫騎士が一瞬にして、身体を消し炭にされた。
二度目の低周波ミサイル攻撃は、
ラサミスやニャラード団長が先陣に立って、
障壁で何とか防ぐ事に成功したが、
その後は転移石で戦場から離脱した。
しかし全員が全員、転移石を持ってた訳ではない。
戦場に取り残された1500名近くの傭兵及び冒険者部隊は、
戦闘艇や強襲揚陸艇、また強襲エアバイクに騎乗した
戦闘バイオロイドの追撃を受けた。
戦闘バイオロイドは、体長二メーレル(約二メートル)。
体重は二百キール(約二百キロ)。
カラーはホワイトか、ブラックで、
人間同様に五本の指、二本の手足に一つの胴体と頭という姿形だ。
武装はレーザーライフルか、熱光線銃で中、遠距離攻撃。
接近戦はフォトン・ブレードと呼ばれるレーザー剣を使用している。
フォトン・ブレードは、筒状のグリップを握りしめて、
親指を動かしてスイッチを入れると、
ブゥンと低い振動音と共に、
ライトグリーンのエネルギーの刃が
一メーレル(約一メートル)ほど、伸長するという形だ。
このフォトン・ブレードは、
かなりの出力と切れ味を誇り、
金属であるならば大抵の物をが切れるし、
その気になれば、鋼鉄の鉄板を両断する事も可能だ。
このような科学力は、
完全にウェルガリア軍の予想の範疇外で、
陣形を組んで的確に攻撃して来る戦闘バイオロイドの集団に、
取り残された傭兵及び冒険者部隊は、無残に蹂躙された。
その間に強襲揚陸艇に乗った戦闘バイオロイド達は、
地上のエルバインに待機していた熾天使ウリエル達を
同乗させて、天空の方舟メルカバーまで運んだ。
こうして熾天使ウリエル達は、
熾天使ラファエルと座天使ソロネと無事に合流を果たした。
「同士ウリエル、無事であったか!!」
メルカバーの中央発令所に現れたウリエル達を見て、
熾天使ラファエルは、喜びから声を弾ませた。
「同士ラファエル、何とか無事に合流を果たせた。
しかしまさかメルカバーが地上に降臨するとはな。
まあそのお陰で我々は、助かったのだが……」
「うむ、天使長のご裁断だ。
ドミニオンとヴァーチャも無事のようだな」
「はい、何とか無事です」
「これもひとえに同士ラファエルのお陰です」
ドミニオンとヴァーチャが軽く頭を下げた。
ラファエルはその光景を見て、鷹揚に頷いたが、
プリンシパティとパワーがこの場に居ない事に気付いた。
「プリンシパティとパワーが居ないようだが、
あの二人はどうしたのだ?」
「……同士ラファエル、誠に申し訳ない。
あの二人は戦死したよ……」
「……何っ!?」
ウリエルの予想外の言葉に、
ラファエルも思わず大きな声を漏らした。
「あの二人は地上人に討ち取られたよ」
と、ウリエル。
「……そうか、俄には信じがたい話だが、
天使長が地上人が危険視していたのも、
今なら分かる気がする」
「……これからどうするおつもりですか?」
力天使ヴァーチャがそう問うと、
熾天使ラファエルは、数秒ほど「ううむ」と唸った。
「とりあえず地上に残った天使兵を全部回収しよう。
それから準備が整えば、
このメルカバーでエルフ族の根拠地を攻めよう」
「妥当な判断ですね。
私は熾天使ラファエルのお考えに賛成です」
主天使ドミニオンがまず最初に賛成の意を示した。
「確かにこのメルカバーの戦闘力と機動力があれば、
敵の根拠地を制圧する事も容易いでしょうな。
敵の根拠地はどのように制圧するおつもりですか?
やはり戦闘バイオロイド達を地上に降下させるのでしょうか?」
「同士ソロネ、無論、地上部隊も降下させるが、
貴公も聞いたように既にプリンシパティとパワーがやられた。
地上人の通常戦闘における戦闘能力は、
我々とさして差がないかもしれぬ。
だから今後は基本的にメルカバーが遠距離攻撃して、
敵を無力化してから、兵を降下させる事にする。
「成る程、確かにその方が良いかもしれませんね」
「ええ、私も同士ソロネと同じ意見よ。
連中は意外……いえかなり強いわ。
弱者にプリンシパティやパワーは討てないわ」
ソロネの言葉にヴァーチャが同意する。
「このメルカバーは今の状態でも約四ヶ月は、
補給無しで動くであろう。
加えて今は俺を含めて大天使クラスの天使が五人も居る状態。
我々が制御室でソウル・ストーンの魔力を注入すれば、
魔力が動力源のメルカバーを補給する事も可能だ」
と、ラファエル。
「しかしメルカバーは最強クラスの宇宙戦艦ですが、
ミサイルやビーム、レーザー砲も無制限に撃てる訳ではないでしょう。
あまり長期に渡る戦闘は控えるべきでしょう」
「同士ドミニオン、俺も貴君と同じ意見だ。
だから準備が整い次第、
我々はメルカバーをエルフの本拠地である大聖林に向かわせる。
そこで「メギドの炎」を使用するつもりだ」
「なっ……」
ラファエルの言葉にドミニオン。
いやそれ以外の大天使達も思わず言葉を詰まらせた。
「熾天使ラファエル、本気なのか?」
「同士ウリエル、俺は本気だ。
天使長に「メギドの炎」の使用許可を貰っている。
恐らく最高で三回は「メギドの炎」を使う事が可能であろう。
出来れば三度も使いたくないが、
ウェルガリアの民は我々の想像以上に手強い。
だから状況の応じては、三度使う機会が来るかもしれん」
「そうか、だがそれも有りかもしれんな。
正直、ここまでの戦いでは向こうは我々と互角。
いやそれ以上に渡り合ってきた。
私としてもこれ以上、大天使の犠牲は出したくない。
だから「メギドの炎」の使用もやむを得ないだろう」
「嗚呼、我々は数多の世界を統べる大天使。
その大天使が地上の民如きに苦戦してはならぬ。
だから我々の科学力で一気に勝負を決める」
「……」
こうして宇宙戦艦メルカバー。
それに同乗した熾天使ラファエル達は、
「メギドの炎」を使う決心をした。
それが実行されたならば、
また多くの血が流れるであろうが、
天使軍も既に引くに引けないところまで来ていた。
次回の更新は2025年5月29日(木)の予定です。
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