第六百二十六話 流星光底(後編)
---ラサミス視点---
相手は腹に氷と風の合成弾が撃たれた状態だ。
腹の中で弾丸の破片が漂流するんだ。
その痛みは計り知れないだろう。
ならば小細工は無用だ。
力業で一気に決めてやるぜ。
「――雷炎剣っ!」
オレは躊躇無く、
神帝級の刀術スキル「雷炎剣」を放った。
次の瞬間、オレの聖刀に紅蓮の炎が宿り、
照準をパワーに合わせて、その聖刀を振った。
それと同時に紅蓮の炎がパワー目掛けて放たれた。
「喰らいなぁっっ!」
聖刀の刀身から紅蓮の炎がうねりを生じて、
パワー目掛けて放出されるが――
「――ディバイン・ガードッ!」
パワーがそう技名コールをすると、
前方に眩く輝いた障壁が展開された。
間を置かずして、紅蓮の炎が着弾。
爆音が鳴り響き、張り巡らされた障壁が激しく振動する。
「くっ……耐えきれぬかっ!」
「能天使パワー、今お助けします。
行きます、――ディバイン……」
「そうはさせぬ! ――ハイパー・トマホークッ!!」
中列からバルデロンが躍り出て、
小型の白金製の手斧を投擲すると、
回復魔法を使おうとした天使兵の左手の甲に突き刺さった。
「今ですぞ、ラサミス殿!」
「嗚呼、雑魚はオレ達が相手する。
アンタはアイツを倒す事だけに集中しろ!」
「バルデロン、ジウバルト! 分かったぜ!」
オレが放った紅蓮の炎は、
パワーの張った障壁を破壊して、
割れた合間から、パワーの身体に一部燃え移ったようだ。
「ク、クソッ……腹の調子が悪くて、
思うように魔力が練れん!」
忌々しげにそう言うパワー。
だがそんな事はオレの知った事ではない。
そして相手のピンチはこちらのチャンス。
そのチャンスを逃す訳にはいかないぜっ!
「――黄金の息吹」
まずはここで職業能力「黄金の息吹」を発動。
注ぎ込む魔力は……全体の六割で良いだろう。
すると聖刀を持つオレの右手に膨大な魔力が蓄積された。
そしてオレはもう一つの神帝級の刀術スキル「雷神剣」を発動させた。
「――雷神剣っ!!!」
オレがそう叫ぶと、右手に持った聖刀に雷光が宿り始めた。
くっ……かなりの手応えだが、
手に掛かる負担も大きいな。
しかしここが踏ん張りどころだ。
だからここは攻める。
攻めて、相手を一気に叩き潰すっ!
「うおおおぉっ……あああぁっ!」
オレは大声で叫びながら、
雷光を宿らせた聖刀を頭上に掲げる。
標的は云うまでもない。
パワーに狙いを絞って、聖刀から雷光を解き放つ。
その刹那、耳朶を打つ雷鳴が轟き、
標的としたパワーの身体に稲妻が落ちた。
「なっ、なっ……ぬううう……わあああぁぁぁっ!」
稲妻に撃たれたパワーは、狂ったような悲鳴を上げた。
そこには大天使としての威厳などまるでない。
パワーは全細胞が破壊されたかのように激しく喘いだ。
だがこれだけの稲妻が直撃したんだ。
いくら大天使であろうと、
一溜まりもないだろうさ。
そして稲妻の直撃を受けたパワーは、
地面に背中から倒れ込んで、
全身を黒く焦がしながら、
口を何度か開閉させて、白目を剥いた。
「やったのか!」
後ろからジウバルトがそう声を掛けてきた。
「油断禁物よ、とにかく警戒は怠らないように」
副団長らしく釘を刺すミネルバ。
この突然の状況に敵だけでなく、
味方も同様に驚いてた。
だがパワーはしばらくすると、
完全に動かなくなり、その身体から魔力も消え失せた。
するとパワーの身体が徐々に消えて、
過去の大天使の時と同じように、
謎の石を二個だけ残して、その姿が完全に消滅した。
「……とりあえず回収しておくぜ」
オレは地面に落ちた二つの石を拾い、
自分の携帯ポーチの中に入れた。
そしてやや間を置いて、オレの全身に物凄い力が漲った。
「う、うはぁっ……また来たかぁっ!」
またしてもとんでもない経験値を得たようだ。
全身から溢れる力と万能感。
悪くない感じだ、いや正直最高の気分だ。
オレはそう思いながら、
腰のポーチから自分の冒険者の証を取り出した。
「……また二つもレベルが上がったぜ」
オレの冒険者の証には、
レベル90と表記されていた。
確か100でカンストだったよな?
というかレベル100まで後たったの10なのか。
数年前までは一人旅で雑魚モンスター狩っていたオレが
今では全種族の中でも一、二を争う高レベル冒険者か。
人生なんか分からないもんだな。
でもこれで満足なんかしないぜ。
こうなったらレベル100でも目指すか!
「ラサミス、やったわね」
「レベルが2上がったってレベル90になったの!?」
ミネルバとメイリンがこちらに駆け寄って来た。
それに対して、オレは右手でサムズアップしてみせた。
「嗚呼、このままレベル100を目指すぜっ!」
「凄えな、アンタ……」
「ええ、本当に凄いわ」
ジウバルトとジュリーも驚きを声を上げた。
ふふふっ、悪くない気分だな。
でもまだ戦いは終わった訳じゃない。
「良し、これでまた大天使を倒した。
残る敵を倒して、エルバインに攻め込もう」
「ヨハン殿、その考えに賛成です」
ニャラード団長がそう言って相槌を打つ。
そうだな、ここはちゃっちゃっと残敵掃討でもするか。
「っ!?」
その時、前方上空にとんでもない魔力を感じた。
いや魔力だけでない、とんでもない重圧感だ。
「ま、待て! 前方上空に歪みが起こっている」
オレだけじゃなく、
ニャラード団長もこの異変に勘づいたようだ。
「な、何だ、コレは……。
こんな物凄い魔力……何が起きている!!」
ヨハン団長も目を見開いて驚いている。
すると前方上空に、
とてつもなく大きな黒い影が突如現れた。
あの空中要塞、いやそれ以上の大きさだ。
そんな巨大な物体が宙に浮いていた。
「……アレは天使軍の新型兵器のようだニャ。
だ、だがあんな物をどうしろと言うのだ!!」
ニャラード団長も珍しく動揺していた。
オレも緊張で全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。
周囲の仲間も唖然とした表情で上空に視線を向けていた。
一難去ってまた一難。
オレ達――ウェルガリア軍の前に、
天使軍の巨大な黒い船が立ち塞がろうとしていた。
次回の更新は2025年5月22日(木)の予定です。
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