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第六百二十話 竜驤虎視(中編)



---三人称視点---



「――諸手突き!」


「――ヴォーパル・スラスト!」


「ハイパー・トマホークッ!」


「スピニング・ドライバーッ!」


「――トリプル・サイスッ!」


 迫り来る洗脳状態の魔物、魔獣に対して、

 ラサミス達「暁の大地」の面々は果敢に応戦する。


「お前等だけにいい顔はさせねえぜっ!

 ――ライガー・クロウッ!!」


「――我々も続くぞ!

 ――ゾディアック・ブレードッ!」


「せいっ! 五月雨突さみだれづきっ!」


「ハアァアッ! ――デス・ジャグリングッ!」


 デュークハルト、ヨハン、アーリア、ジョルディーも後に続き、

 オーガ、リザードマン、人狼ワーウルフ、ゴブリン、コボルトなどの

 人型モンスターを次々と切り伏せた。


 しかし天使軍てんしぐん

 それに従属するエルドリア解放軍も後がない状況。

 そしてその土壇場で彼等は窮鼠きゅうそと化した。


「これはエルフ族の命運を分ける一戦であるっ!

 この戦いに負ければ、

 我々文明派は穏健派にその存在を抹殺させるだろう。

 それは何としても避けねばならんっ!

 だから貴公等も文明派、そして己自身の為に戦えっ!」


 エドワード・マクドガル隊長は、

 大仰な口調でありきたりのアジ演説を行うが、

 予想に反して、兵士達は勇猛果敢に戦った。


 特にその中でもダークエルフ部隊の活躍がめざましい活躍を見せた。

 ほんの数年前には、彼等は魔王軍と組んだが、

 それで彼等の現状は改善させる事はなかった。


 そして今度は大天使と手を結んだ。

 彼等としては、自分達の状況を変える最後のチャンス。

 そう思う者が多く、そしてその気持ちを最前線で爆発させた。


「くっ……賊軍の中にダークエルフが居るとは……。

 奴等め、天使のいぬと化したか。

 だが我等にも意地があるっ!

 兵士達よ、正義は我等にあるっ!

 だから恐れず前進して剣を振るうのだ!」


 今度はネイティブ・ガーディアンのシモーヌ副隊長が熱弁を振るうが、

 こちらの方は、さして兵士達の士気向上に繋がらなかった。


「どのみち我等には後がないっ!

 ここで天使軍てんしぐんに加勢して、

 勝利の際には、我等の待遇改善。

 状況に応じては、領土を貰う事も可能だ。

 だから同士達よ! 勇ましく戦え、そして潔く死ねっ!」


 ダークエルフの隊長であるラルレイドが勇ましくそう叫ぶ。

 彼はダークエルフのおさリーンバッシュから、

 実戦部隊の全権を任された身。


 過去の第二次ウェルガリア大戦でも、

 前線で指揮を振るったが、思うような戦果は上げれなかった。

 それ故にこの戦いは、絶対に負けられない。

 という気持ちは他のダークエルフも同じであった。


「次から次へとキリがないぜ。

 特にダークエルフ部隊の気合いが凄い。

 まさに死に物狂いという感じだ」


「ラサミス、ここは少し受けに回りましょう。

 どうせ後で大天使戦が控えているのだから、

 ここで無駄な消耗をする必要はないわ」


「私もミネルバさんと同じ考えです」


「自分も今は少し引くべきと思います」


 ジュリーとバルデロンの提案に、

 ラサミスも「そうだな」と答えて、少しだけ後退した。


「ここはボク達も後退しよう。

 予想以上に敵の反撃が激しい。

 このまま敵とやり合うのは得策じゃない」


「オイラはヨハン団長に従うよ」


「私もよ」


「……戦いはまだまだ続くしね。

 ここは一旦退いて様子見をみるべきよ」


 ジョルディー、アーリア、クロエ。

 そして他の団員達もここは素直にヨハンの言葉に従った。


 「暁の大地」と「ヴァンキッシュ」が後退した為、

 シモーヌ副隊長達が前線で孤立する形となった。

 それを見て力天使りきてんしヴァーチャが動いた。


「偉大なる水と風の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 

 我が願いを叶え、母なる大地ウェルガリアに大いなる恵みをもたらしたまえ!」

 嗚呼、空よ! この大地に天の恵みを与えたまえっ!」


 するとヴァーチャの頭上の雲が急速に広がり始めた。

 魔法の種類では、水と風の合成魔法に該当する。 


 この氷結の天候操作魔法の範囲は、

 五キール(約五キロ」の範囲に設定。 

 消耗する魔力も結構な消費量であったが、

 ヴァーチャは、柳眉を逆立てて魔力を放出する。


「嗚呼、空よ! この大地を凍らせたまえっ!

 ――『大氷結マグナ・コンゲラーティオ』ッ!!」


 ヴァーチャの呪文の詠唱が完全に終わると、

 上空の雲が異常な速度で広がり始めた。

 そして天に広がった雲は雪雲と化して、雪が降り始めた。


 真夏に雪が降る。

 通常ではまず滅多に起きない事だが、

 力天使ヴァーチャは、それを自身の魔法力を持って強引に実現化させた。


 本来ならば、これで連合軍は大きく動揺する所だったが、

 連合軍にも大魔導師は、存在した。

 そう、全身真っ赤な猫族ニャーマンニャラード団長だ。


「真夏に雪を降らせるとはニャ。

 大天使の名は伊達じゃニャいな。

 だが思い通りにはさせニャいっ!

 偉大なる光と風の精霊よ、我が願いを叶えたまえ! 

 そして母なる大地ウェルガリアに太陽の恵みをもたらしたまえ!」


 ニャラード団長は、即座に魔法陣を描き、

 その上に乗りながら、呪文を紡ぎ出した。

 すると頭上の雪雲が急に散りばり始めて、雪が一瞬止んだ。


「メイリンくん、君や他の魔導師も詠唱に参加。

 あるいは私に魔力を分けてくれっ!」


「り、了解ッス! あたしも詠唱します」


「私も加わろう!」


 メイリンだけでなく、

 レストマイヤーもこの天候操作魔法の詠唱に加わった。


 メイリンやレストマイヤーも一流の魔導師。

 二人に参加によって、

 ニャラード団長の負担も激減した。


「行くニャン! 嗚呼、空よ! この大地に太陽の恵みを与えたまえっ!

 ニャアアアッ……『大快晴グレート・ウェザー』ッ!!」


「「ハアァア……アァァァッ!!」」


 ニャラード団長に続くように、

 メイリンとレストマイヤーも点に向かって両手を挙げた。

 呪文の詠唱が終わると、

 数十秒間ほど、間を置いてから、

 雪雲が異常な速度で押し流された。


 ニャラード団長達による天候操作魔法は、

 無事成功して、ヴァーチャが展開した雪雲を物の見事に消滅させた。


「良し、これで元通りに戻った。

 後の事は前線部隊に任せるニャ!

 さあ、心置きなく戦うニャン!」


 ピンチから一転して好機。

 ここでやらねば男が廃る。

 ラサミスやヨハン、デュークハルト。

 またシモーヌ副隊長やその他の前衛部隊の兵士達は、

 同様の思いを胸に秘めながら、決死の特攻を仕掛けた。



次回の更新は2025年5月11日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ここ最近、天候を操る魔法が多いですね。 地形変化だったり、天候変化は高魔力な代わりに広範囲に被害を出せるので雑兵の足止めに向いてそう? 魔導士部隊で、雪雲は吹き飛ばせましたね。ヴ…
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