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第六百十七話 剛毅果断(中編)



---ラサミス視点---



 二階の謁見の間は、前に来た時とほぼ同じ景観だった。

 部屋の奥に玉座があり、巫女ミリアムが腰掛けている。

 その玉座の前に豪奢な赤い絨毯が敷かれている。

 この辺はどの城でも同じだな。


 巫女ミリアムのすぐ近くに壮年の男性エルフが立っていた。

 確かネイティブ・ガーディアンの参謀長だったな。

 名前はエリアス……参謀長だった筈。

 その近くにナース隊長が並んでた。


 またマリウス王弟おうていとそのお供の二匹のメイン・クーン。

 そう、ジョニーとガルバンだ。

 あ、よく見るとニャラード団長も居るな。


 いつものように真っ赤なコートとズボンという格好。

 こうして見ると、普通の猫族ニャーマンだが、

 その中身は連合軍最強の大魔導師だ。


 その他には竜人族の竜騎士団の団長レフと副団長ロムス。

 オレ達となじみ深い「ヴァンキッシュ」のヨハン団長と女侍おんなざむらいアーリアの姿も見えた。


 衛兵や従者を除いたら、

 部屋に居るのが連合軍の首脳部十一人。


 オレ達「暁の大地」を加えたら、十八人ってところか。

 さてさて、ここからは発言の一つ一つに注意を払うぜ。


「お疲れ様です、ラサミスくん。

 急にお呼び立てして、申し訳ありません」


「いえいえ、気になさらずに。

 本日は、お招きいただきありがとうございます」


 オレはそう言って、団員を一瞥する。

 するとミネルバとメイリンがオレの左隣と右隣に並ぶ。

 その後ろの列に左からジウバルト、マリベーレ、ジュリー、バルデロンが

 横一列に並んで、左膝を床につけてこうべを垂れた。


「では皆様も揃った事ですし、

 我々、連合軍の今後の方針について話し合いましょう」


 そう言って、巫女ミリアムは、

 その切れ長の瞳で周囲の者達を一瞥する。


 他の連合軍の首脳部は、

 だんまりを決め込んで、巫女ミリアムの言葉を待っていた。

 その空気を察した巫女ミリアムがゆっくりと言葉を紡ぐ。


「では具体的な方針を申し上げます。

 我々、連合軍はこのまま自治領エルバインに総攻撃をかけますが、

 「エルドリア解放軍」を自称する賊軍の首魁は、

 極力殺さず、生きたまま捕縛してもらいたいです」


「ふむ、巫女ミリアム自らが連中を制裁する。

 という事ですかニャ?」


 マリウス王弟の言葉に、巫女ミリアムが「ええ」と頷く。

 そして彼女は表情を引き締めて、二の句を継いだ。


「天使というイレギュラーな存在と

 自らの薄汚い野心の為に手を組んだ彼等を赦す気にはなれません。

 よってエルフ族の代表として、

 私は確固たる意思を持って、彼等を罰します」


「しかし全員生きたまま捕縛、というのも難しいですね」


 と、ヨハン団長。


「それは重々承知しております。

 ですので捕縛対象は、

 賊軍の首魁であるトーマス・ロイエンスのみに限定します」


 まあ正直これは助かるよなあ。

 巫女ミリアムの立場ならば、

 この機に生じて、不満分子を一掃したいところだろうが、

 現場を任される身としては、

 戦場にあまり私情を持ち込んで欲しくない。

 と思うのは、自然な感情だ。


「そうですね、巫女ミリアムにもお立場がありますからね。

 では現場の兵士の士気を上げる為にも、

 そのトーマス・ロイエンスの首に多額の褒賞金をかけてはどうでしょか?」


 マリウス王弟がさりげなくそう提案する。

 うむ、オレもこの案には賛成だな。


「それは良い案ですね、私は賛成します」


「私もマリウス王弟殿下の案に賛同します」


 レフ団長とヨハン団長も賛同の意を示す。

 良し、ここはオレも便乗するぜ。


「自分も他の方々と同じ意見です。

 ところで巫女ミリアムに、お聞きしたい事があります」


「ラサミスくん、何かしら?」


 ……。

 これから言う事はとても大事な事だ。

 だから憶する事無く、堂々とした態度で発言するぜ。


「敵の首魁を捕縛する、という件は賛成致します。

 尚、その際に残った敵の残存兵力。

 また自治領エルバインに残った住民の扱いはどうしますか?」


「……そうね、賊軍の敗残兵は、

 そのまま牢獄に投獄、あるいは処刑しても構いませんが、

 残された住民に対しては、

 私自身は何も手を下すつもりはないです」


「……つまりその後も自治領で暮らす事を許容する。

 と考えて宜しいのでしょうか?」


「ええ、そう考えてくれて良いわ」


「……」


 まあこの辺が無難な落としどころだろうな。

 今のエルフ領においては、

 旧文明派の扱いは、どう転んでも足枷になるだろう。


 このまま天使軍てんしぐんと一緒に旧文明派の軍勢を

 一掃出来たとしても、その全員を殺す訳にもいかないし、

 一定数の敗残兵が出るのは、自然な流れだ。


 とはいえオレ達の本当の目的は、

 天使軍てんしぐん、それを率いる大天使達と

 戦って、彼等をこのウェルガリアから追い出す事だ。


 でもそう簡単にそれが実行出来るとも思わん。

 あの空中要塞みたいな兵器がまた導入される可能性は高い。


 現時点では、オレ達が有利だが、

 天使軍の出方次第では戦局はどちらにも傾く。

 それはオレだけで無く、マリウス王弟。

 ニャラード団長やレフ団長も何処かで考えているだろう。


「まあまだ天使軍との戦いが終わった訳じゃニャいし、

 戦後処理に関しては、我々が正式な勝利を収めてからで、

 良いのではないでしょうか?」


「そうですね、マリウス王弟殿下の言う通りですわね。

 少し独断が過ぎたようです、すみませんでした」


「いえいえ」


 と、マリウス王弟。


「とりあえず私とエリアス参謀長は、

 しばらくこのエルフィッシュ・パレスに残ります。

 何かあればまたこのような機会を設けて、

 話し合いたいと思います」


「ハイ、そうしましょう。

 では我々は直ちにネザライト平原に戻ります。

 ラサミスくんとそのお仲間・

 そしてヨハン団長の「ヴァンキッシュ」もボク達と同行しないかい?」


「そうですね、そうさせて頂きます」


 と、ヨハン団長。


「はい、我々も同行させて頂きます」


 オレもこの場では、マリウス王弟の好意に甘える事にした。

 どのみちこのエルフィッシュ・パレスから、

 ネザライト平原へ移動する際には、

 馬車なんかの乗り物に乗るだろうからな。


 マリウス王弟が馬車や戦車チャリオットで移動する時には、

 万全な警備体制が敷かれるだろうしな。

 

「では巫女ミリアム殿とエリアス参謀長。

 ボク達はこれで失礼するニャン」


「はい、皆様ご苦労様でした」


 こうして連合軍の首脳部による会談は終結したが、

 オレ達は休む間もなく、

 マリウス王弟が用意してくれた二台の馬車に乗って、

 再びネザライト平原へ向かう事となった。


次回の更新は2025年5月4日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ミリアムと「暁の大地」の密談と思ってましたが、そうではありませんでしたね。 これまで、「敵のエルフ」としてある程度まとめられていた集団にも主要そうな人物が出てきましたが、実力は如…
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