第六百十四話 宇宙船ドック
---三人称視点---
天界エリシオンの宇宙船ドック。
完全に整備された天空の方舟メルカバーが桟橋に寄せて係留されていた。
その光景を観ながら、
他の大天使を引き連れた熾天使ミカエルが表情を引き締めた。
「メルカバーも完全に整備された。
更には天使騎士は1500体以上。
戦闘バイオロイドに関しては、5000体以上。
通常のバイオロイドも1000体前後。
それに加えて、工作ロボ、リペア・マシーン、掃除ロボ。
工業ロボも各種数百体以上揃えた。
また小型、中型戦闘艇も搭載済みだ。
これだけの数が揃えば、
このメルカバーを問題なく運用出来るだろう」
「だけどメルカバーを完全にコントロールするには、
大天使が何人か必要となるわよ」
ミカエルの左隣に立つ熾天使ガブリエルがそう言う。
するとミカエルは、僅かに口の端を持ち上げた。
「無論、それに関してもちゃんと考えている。
地上部隊の新たな総司令官として同士ラファエル。
それと座天使ソロネをこの天空の方舟に同席させる」
そう言ってミカエルは、
ラファエル、そして座天使ソロネを見据えた。
ラファエルは、白銀の鎧に身を包んで両腕を組んでいた。
座天使ソロネは、漆黒のローブ姿に身を包んおり、
手足もすっぽり覆われてるので、肌の色は分からなかった。
身長は175前後、顔には中央部に大きな目が記された仮面を被っている。
更には背中に二対四枚の白い翼を生やしていた。
「その大役、引き受けさせてもらう。
必ずや天使長の期待に応えてみせよう」
「うむ、期待しているぞ。 同士ラファエル」
「わたくしも天使長の期待に応えてみせましょう」
座天使ソロネもそう言った。
女性とも男性ともつかない、中性的な声色であった。
「でも向こうで他の大天使と合流するとしても、
出撃時に二人しか大天使が居ないのは、少々不安だわ」
ガブリエルは、そう言ってミカエル。
そして彼の右隣に立つ智天使ケルプに視線を向けた。
身長は180前後、白皙、前に流した銀髪。
顔つきや体つきは、男性的なフォルムだ。
一見華奢に見えるが、よく見ると所々に筋肉がついている。
金糸の刺繍が施された純白の法衣に黒いブーツという格好。
背中には一対二枚の漆黒の翼が生えていた。
見るからに自信ありげな表情で、
ガブリエルの視線を真正面から受け止めていた。
「智天使ケルプには、天界に残って、
私のサポートをしてもらう予定だ」
「ええ、誰かさんが何か企む危険性もありますからな。
だから天使長のお側に居て、
過ちが起きないように、用心に用心を重ねたいと思います」
「……」
見え見えの挑発。
だがガブリエルは、ケルプの挑発を無視した。
「では天使長、同士ガブリエル、ケルプ。
私は同士ソロネと共に、
このメルカバーに搭乗して、出撃させてもらう」
「……熾天使ラファエルのサポートに全力を尽します」
中性的な声でそう言う座天使ソロネ。
そしてラファエルは、
メルカバーの出入り口の傍らにあるタッチパネルに右手で触れて指紋認証を解除する。
次に右眼をモニターに映し、網膜認証。
それから指紋登録された右手の指で、
パスコードを二度、三度と入力すると、
メルカバーの出入口を開いて、ソロネと共に船内へ入った。
船内廊下には、人工重力発生装置を備えて付けているので、
船内でもちゃんと重力はあった。
尤もこの宇宙船ドック内は、無重力下ではなかった。
船内には、天使騎士が1500体以上。
戦闘バイオロイドが5000体以上。
通常のバイオロイドも1000体以上。
工作ロボ、リペア・マシーン、掃除ロボ。
工業ロボも各種数百体以上配備されており、
細かい指示は必要なく、
それぞれの天使兵や各種ロボが持ち場についていた。
「これほどの戦力を揃えるとは……。
此度の派遣先の惑星の知的生命体は、
そんなにも危険な相手なんでしょうか?」
「同士ソロネ、俺自身はそうは思わんのだが、
結果的に二体の大天使が派遣先の惑星の人間に敗れ、
空中要塞アーケインが破壊されたのは事実だ」
「……噂で聞きましたが、
『特異点』が居るらしいですね」
「……貴公等の間でも噂になっていたか。
天使長はやたら気にしていたが、
俺は大して気を止めてなかった。
だがどうやら天使長が懸念した通り、
想像以上に厄介な事態となったようだ」
ラファエルとソロネは、
船尾に繋がる長い廊下を横に並んで歩き続けた。
廊下は結構広くて、
船体補修及び修理用のリペア・マシーン。
また工業ロボが通り道と廊下を行き来しており、
何かあれば、すぐに補修及び修理出来る状態を保っていた。
天空の方舟メルカバーは、
巨大かつ複雑な構造の宇宙戦艦だ。
だがその艦体は、大雑把に言えば、
わずか二つの区画に分ける事が可能だ。
前部分は、小型及び中型戦闘艇などの格納庫。
ミサイルやビーム、レーザー兵器の発射装置。
各種の武具や兵器を揃えた武器弾薬庫。
また時空転移装置やワープ装置制御室もあった。
後部分は、艦長室、ミーティングルーム、発令所、動力炉。
機関室、居住区やレストルーム。
何しろ全長で980メーレル(約980メートル)にも及ぶ巨大宇宙戦艦。
何度も何度も改造と改良を繰り返して、今の姿になった。
そして歩くこと、五分以上。
ラファエルとソロネは、中央発令所に到着した。
中央発令所は小さ過ぎず、大き過ぎずの程よい広さであった。
数十席近くある席は八割ほど埋まっていた。
クルーの大半が高性能AIを保有する通常のバイオロイドだ。
残りの数名が天使騎士。
また5体程、戦闘用バイオロイドも配置されていた。
だが彼等は職務に忠実で、
ラファエル達が入室して来ても、
最低限の挨拶を交わす程度であった。
そしてラファエルは、
コツコツと床を白銀の脚甲で踏みならして。
そのまま艦長席に腰を下ろした。
ラファエルは、艦長席用の液晶スクリーンと、
そこに接続された高性能コンピュータに視線を落とす。
この高性能コンピューターは、
メルカバー全体を統合管理する中枢AIに、
直結された稀少な端末の一つであった。
それからラファエルは、
両足を組み替えて、懐から一枚の透明なディスクを取り出した。
「――では始めようか」
挿入口を確認して、
ラファエルは右手に持った透明なディスクを挿入した。
次回の更新は2025年4月27日(日)の予定です。
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