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第六百三話 能天使パワー(後編)



---三人称視点---



 ここがチャンス。

 と言わんばかりにラサミス達は、

 馬を走らせて、能天使のうてんしパワーに迫るが、

 当の本人は、落ち着いていた。


 白い一角獣ユニコーンに跨がり、

 左手を前に突き出して、魔力を篭め始めた。

 

「そうはさせないニャ!

 ミネルバちゃん、ちょっと距離を詰めて!」


「了解! アクセル・ドライブッ!」


 上空に居たミネルバがジュリーとジョルディーを

 乗せた状態で中級風魔法を発動。

 そしてパワーに近づくべく、降下した。


「――行くだニャ! ――『デス・ジャグリング』ッ!!」


 ジョルディーはそう言って、

 両手に持った鉄球を地上に居るパワーに向けて投擲。

 闇の闘気オーラを宿らせた鉄球は、

 パワーの左腕の二の腕に綺麗に命中した。


「くっ……」


 不意を突かれたパワーも思わずたじろぐが

 彼の近くに居た天使兵てんしへいが咄嗟に上級回復魔法を唱えた。


能天使殿のうてんしどの、今癒やしますっ!

 ――ディバイン・ヒールッ!」


 味方も多数居るが、

 敵もまだ十体以上居たので、

 このような乱戦でも自らの役割を正確に果たすべく、

 機転の利かす天使兵が居てもおかしくはなかった。


「……助かった。

 良し、気を取り直して攻めるっ!

 ――地形変化テレイン・チェンジっ!」


 パワーは再度、左腕を前に突き出した。

 狙いは再び地面を泥沼化される事。

 範囲は今、ラサミス達が居る地点を中心に、

 円状に広がるように、再び地面を泥沼化させた。


「くっ……また泥沼化かよっ!」


「カーマイン、剣聖さんよ~っ!

 ここは馬を捨てて、

 前方目掛けてジャンプ、あるいはスプリントしろ!」


「分かった!」「了解した」


 デュークハルトの言葉に従い、

 ラサミスとヨハンは軍馬を乗り捨てて、

 両足に風の闘気オーラを宿らせてハイ・ジャンプした。


 数メートルに及ぶハイ・ジャンプで、

 ラサミスとヨハンは、

 泥沼化されていない地面に無事着地した。


 同様にデュークハルトも馬を乗り捨てて、

 得意の風魔法を使って、

 雨で泥濘んだ地面を全録で疾走していた。


「――相手は馬上だが、

 こちらは三人居る。

 恥を捨てて、三対一で挑むぞっ!」


「嗚呼」「了解した」


 ラサミス達も小さな自尊心プライドを捨てて、

 この数的有利を生かすべく、

 三人が横一列になって、

 ブーツや脚甲 (ソルレット)で地面を駆けて、

 周囲に泥を飛散させた。


「前方の三人! 左右に散開してっ!」


 分断された後方からカリンの声が響いた。

 それと同時にヨハンが左にサイドステップ。

 一瞬の間を置いて、

 ラサミスとデュークハルトも右にサイドステップした。


 すると後方で馬上で、聖弓を構えるカリンから見れば、

 良い感じに中央が空いて、

 白い一角獣ユニコーンに乗るパワーの姿が露わになった。


「貫けっ! ――ピンポイント・ショットォッ!!」


 カリンは栗毛の馬を走らせて、

 射程圏内に入るなり、馬上から矢を射った。

 馬上から放たれたカリンの英雄級えいゆうきゅうの弓術スキル。


 放たれた矢は「びゅっ」という音を立てて、

 前方のパワーを乗せた白い一角獣ユニコーンの左前足に見事に命中した。


「ヒヒィンッ!!」


 一角獣ユニコーンと言えど、

 身体の構造は通常の馬と同じだった為、

 左前足を矢に撃たれるなり、

 悲鳴を上げ、地面に倒れた。


「ちっ……小癪な真似をっ!!」


 カリンの流れるような攻撃で、

 パワーは背中の一対二枚の純白の翼を羽ばたかせて、

 崩れ落ちた一角獣ユニコーンに見切りをつけて、

 そのまま空中に浮遊した。


「これで相手も同じ条件になったわ!

 ラサミスくん、ヨハン団長、後は任せたわ」


「おお! カリンちゃん、ありがとうな」


「カリン、見事な動きだった。

 後はボク達に任せろ!」


「あ~、オレは名前呼ばれてねえんだけど~?」


「デュークハルト、気にするな。

 この後で大活躍すればいいのさ」


「カーマイン、そういう考えは好きだぜ」


「よーし、恥も外聞も捨てて、

 三対一であの巨漢の大天使を倒そうぜ」


「嗚呼」


「おうよ! なあ、カーマイン、剣聖さんよ~。

 まず最初はオレに任せてくれねえか。

 オレの得意なアレ(・・)をやるからよ~」


アレか(・・)!!

 成る程、確かに初見の相手には通用するだろう。

 分かった、ここはアンタに任せるよ」


「ボクもデュークハルト殿に任せるよ」


「あいよ! ――我は汝、汝は我。 

 我が名はデュークハルト。 暗黒神ドルガネスよ!

 我に力を与えたまえ! ――『オメガ・オーバードライブ』!!」


 デュークハルトが魔王級まおうきゅう風魔法を詠唱すると、

 次の瞬間にデュークハルトは風と化した。

 漆黒の鉤爪を残し、

 デュークハルトがラサミス達、パワーの視界から完全に消えた。


「なっ……消えた! どういう事だっ!?」


 これには流石のパワーも驚いたようだ。

 彼には今のデュークハルトの姿と動きはまるで見えない。 

 まるで完全に透明化したように見えた。


 そう思った瞬間――真横から鋭い衝撃音と共にパワーの右側頭部が殴打された。


「ぐふぅっっ!?」


 拳と思しき感触がパワーの右側頭部、顎の側面に突き刺さる。

 強烈な一撃にパワーは後ろに吹き飛んだが、

 両足を踏ん張り何とか転倒は回避した。


 だがデュークハルトは、

 躊躇う事なく、容赦のない見えない連続攻撃を繰り出した。


 「ヒュッ」と空気の鳴る音とともにパワーの腹部に飛び膝蹴りがめり込む。

 肺から空気を吐き出し、何度かえづいたがパワーは、左手で腹部を押さえて後退した。


 だが休む間もなく、不可視の殴打の嵐が始まる。

 パワーは口から、血の混ざった唾液を飛ばし、

 何度も左へ右へと仰け反った。


 デュークハルトの姿は依然として見えない。 

 だがその気配や魔力は確かに感じる。

 デュークハルト以外の何者かが特殊なスキルや魔法を使っている可能性は低い。


 となるとこの透明の暴行人は、

 先程まで居た獣人らしきあの金色の狼であろう。


 透明の暴行人の動作の音は、

 確かに存在しているし、耳にも聞こえる。 

 呼吸音も空気が揺れる音も間違いなく聞こえる。


 パワーは何度も何度も殴り飛ばされ、

 全身を左右に揺らしながら、

 この状況を冷静に分析した。


 ――完全に消えた、という訳ではない。

 ――あくまで視認できないだけだ。

 ――そして目で追うから、戸惑うのだ。

 ――ならば目ではなく、心眼で相手の気配を捉える。


 パワーは呼吸を整えて、両眼を素早く閉じた。

 そして右手に持った青い大剣を構えて、腰を落とした。


 ――次に来た瞬間、逆に斬り返す。


 そう深く心に刻むパワーだが、

 その後は透明の暴行人が迫って来る気配がなかった。


「おっ、両眼を閉じて、

 気配を察して斬り返すつもりか。

 前にカーマインにもやられたよな。

 でも何度も同じ手を喰らうオレじゃねえよ。

 はい、透明化解除。

 カーマイン、剣聖さんよ~。

 とりあえず痛めつけたから、後は任せたぜ」


 デュークハルトの声が聞こえたので、

 パワーも両眼を明けた。

 すると今度はデュークハルトの姿がハッキリ見えた。


 だがその当人はもう戦う気はないようだ。

 散々、殴った挙げ句、尻尾を巻いて逃げたのだ。


「こ、この……卑怯者っ!!」


 抗議の声を上げるパワー。

 だがデュークハルトは、両肩を竦めて――


阿呆あほか? これは殺し合いだぜ?

 卑怯も糞もあるか、お前等みたいな得体の知れない大天使様相手に

 馬鹿正直に戦えるかよ、卑怯でもなんでもやれる事はやる。

 それだけの事さ」


 そう言うデュークハルトの言葉に、

 パワーだけでなく、ラサミスとヨハンも唖然としていた。

 だが二人は直ぐに我に返り、こう言葉を交わした。


「ヨハンさん、このチャンスを生かそう!」


「嗚呼、ラサミスくん! そうしよう」


 こうして第一ラウンドは、

 デュークハルトの殴り逃げで、

 彼に軍配が上がる形となった。



次回の更新は2025年4月1日(火)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 パワー攻略戦。 数の差もあり、ラサミス達の方が優勢ですね。 これが覆されなければいいけれど... それにしても、デュークハルトもかなりの遣り手ですね。 しっかりパワーにダメージを…
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