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第六百二話 能天使パワー(中編)



---三人称視点---


「――シャドウ・パイルッ!」


「ぐ、ぐふっ!?」


「――スピニング・ドライバーッ!」


「き、きゃあああ……あああっ!!」


 能天使のうてんしパワーと剣聖ヨハン、アーリアとの戦いが続く中、

 女性錬金術師クロエと戦乙女ヴァルキリージュリーが

 錬金魔法で、細剣スキルで天使兵てんしへいを戦闘不能に追いやった。


「良し、これで敵は十二体まで減ったわ。

 この調子で能天使はヨハンさんやラサミスに任せて、

 アタシ達は残りの天使兵てんしへいを叩くわよ!」


 ミネルバは空中に浮遊する飛竜ギルガストに跨がって、

 周囲を鼓舞するようにそう叫んだ。

 すると周囲の味方の士気も自然と上がった。


 対するラサミス達は、

 十二人全員がほぼ無傷の状態をキープしていた。

 この事態には冷静なパワーも僅かに焦りの色を見せた。


 ――あまり戦いを長引かせん方が良いな。

 ――こちらの味方が八体まで減ったら、

 ――俺も撤退する事にしよう。


 ――だが手ぶらで帰るつもりはない。

 ――一人でも多く敵を倒して見せるっ!


「ハアァア……アァァァッ!!」


 能天使のうてんしパワーは、そう心に刻み、

 気勢を上げて、全身から魔力を解放した。


 それと同時に彼の周囲の地面から、

 複数の石や岩が宙に浮遊して、魔力を帯び始めた。

 そしてパワーが左手を前に突き出すなり、

 それらの石や岩が前方のラサミス達に迫った。


「くっ、無詠唱魔法攻撃か!!

 ――ライト・ウォールッ!」


「クロエっ! 対魔結界か、障壁バリアを……。

 うわあああぁっ……駄目だ、間に合わないっ!?」


 ヨハンは咄嗟に光属性の対魔結界を張ったが、

 対魔結界を張れないアーリアは、

 飛来してくる石や岩を防げず、

 彼女の肉体に、そして彼女が乗る馬に直撃を喰らった。


「ヒ、ヒヒヒィンッ!!」


 悲痛な馬の嘶きが周囲に響き渡る。

 だがパワーも躊躇せず、

 石や岩を再度、浮遊させて次々と解き放った。


「くっ、アーリアさん!

 オレの後ろに下がるんだ! ――ライト・ウォールッ!」


 見るに見かねたラサミスが黒い軍馬を走らせて、

 馬と同様に怯んでいたアーリアの前に出て、

 間髪入れず対魔結界を張った。


 彼が対魔結界を習得したのは、

 わりと最近の話であったが、

 魔力や知力の数値はそれなりに戦ったので、

 俄仕込みの対魔結界でも、

 何とかパワーの念動魔法及び土魔法を防ぐ事が出来た。


「ヨハン団長、アーリアさんは馬がやられた状態だ。

 だからここは中衛か、後衛に後退させましょう!

 代わりにオレが前線に出ますっ!」


 このラサミスの判断は、妥当であったので、

 ヨハンも反対する事無く、ラサミスの言葉を素直に受け入れた。


「分かった、アーリアは下がりたまえっ!

 ラサミスくんは強化能力きょうかアビリティをかけて、

 前線へ上がれ! 敵は強いぞ、技の出し惜しみはするな」


「はいっ! ならば全力全開で行くぜっ!

 ウオオオッ! ――明鏡止水めいきょうしすいっ!!」


 ラサミスは、言葉の通り職業能力ジョブ・アビリティ明鏡止水めいきょうしすい』を発動させた。

 次の瞬間、ラサミスの全身に物凄い力が宿った。

 能力値ステータスの倍化。

 だが発動時間は五分、蓄積時間チャージ・タイムは十分。


 勿論パワーはその事は知らない。

 だが彼も急激に増したラサミスの力と魔力から、

 特殊な能力アビリティを使用した事を悟る。

 そしてパワーは、左手を頭上にかざした。


 すると彼の周囲に次々と岩石が生み出された。

 これは無詠唱で土魔法「ロック・シャワー」を発動させた結果だ。

 そして大中小と様々な大きさの岩石が高速で横回転して、

 ラサミス達目掛けて、放たれたが――


「――黄金の壁(ゴールデン・ウォール)っ!!!」


 ラサミスはここでも躊躇いなく奥の手を使った。

 彼の前方に長方形型の黄金の障壁が生み出されて、

 飛来して来る岩石を完璧に防いだ。


 ――あの銀髪のヒューマンが特異点だったな。

 ――確かにその名に恥じぬ実力者のようだ。

 ――しかしこの程度で憶する俺ではないっ!


「――地形変化テレイン・チェンジっ!!!」


 ここでパワーは、初めて短縮詠唱で魔法を唱えた。

 するとジョルディー、ジュリー、バルデロン。

 ラモンとクロエが陣取った中列の地面に急遽、泥沼が発生した。


「――まずいわ! 皆、馬を捨てて、

 後衛に逃げてっ!


 クロエは自身が同じ魔法をよく使う為、

 パワーが地面を泥沼化させた事を瞬時に見抜いたが、

 他の者達は、突然の出来事に激しく狼狽した。


「なっ……これはクロエがよく使う泥沼化か!?」


「うっ……雨で地面が泥濘ぬかるんでいるから、

 効果が倍増しているみたい」


 ジョルディーとジュリーがそう叫ぶ。


「これはマズい! ラモン殿。

 一緒にクロエさんの後を追いましょう!」


「グット・イット! ハアァア……アァァァッ!」


 バルデロンとラモンはポニーを乗り捨てて、

 クロエが逃げた安全地帯まで全力で逃げた。

 間一髪でこの二匹は助かった。


 だがジョルディーとジュリーを乗せたポニーは、

 泥沼の中で暴れるが、徐々に身を沈めて行く。

 

「――大丈夫! 私が助けるわ!

 二人とも私の飛竜に乗って頂戴。

 行くわよっ! ――アクセル・ターンッ!」


 ミネルバが咄嗟に上級風魔法『アクセル・ターン』を唱えた。 

 すると彼女が乗っていた飛竜ギルガストは、

 低空飛行しながら、高速でターン旋回してジョルディー達に迫った。


「今よ、この飛竜の背中に乗って!」


「分かったニャ」「了解です」


 ジョルディーとジュリーもポニーを乗り捨てて、

 ミネルバを乗せた飛竜の背中に飛び乗った。

 幸い小柄な猫族ニャーマンだったので、

 ジョルディーとジュリーの二匹を乗せても問題なかった。


「二人は無事、救出したわ。

 ラサミス、ヨハン団長、デュークハルト……さん。

 後の事は任せたわ」


「「嗚呼」」「あいよっ!」


 ミネルバの機転によって、

 味方のピンチが救われた。


 ならばここからは攻勢に転じる。

 そう言い聞かせて、ラサミス達は馬を走らせて、

 前方で悠然と構えるパワーに向かって行った。


次回の更新は2025年3月30日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 泥沼化、かなり厄介ですね。 足止めにも利用できますし、そのまま相手を飲み込むこともできますし。 相手を瞬時に拘束できれば動き方も変わりましたが、今回は全員何らかの動物に乗っていた…
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