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第五百九十八話 怯防勇戦(前編)



---三人称視点---


『あの黄金の戦車チャリオットに乗る白衣の天使は、

 大天使っぽいな、とりあえず我々で魔法攻撃を

 仕掛けてみよう、ニャーラン殿、エンドラ殿』


『そうですニャ、如何いかにも大天使って

 感じだけど、実力の程を確かめるニャン』


『いいけど、油断しない方がいいわよ?

 何というかあの大天使から出来るオーラを感じる』


 レフ団長、ニャーラン、エンドラは、

 お互いに「耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)」で、

 交信しながら、狙いを主天使しゅてんしドミニオンに定める。


「――我は汝、汝は我。 我が名はレフ。 

 竜神ガルガチェアよ、我に力を与えたまえ! 『トニトゥルス』!!


「ニャニャニャッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 

 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 ニャンニャン、ニャオーンッ! 『ライトニング・カッター!!』」


「はい、はい、行くよーん♪ 「――空圧弾ニューマティク・ボルトッ!!」


 三人は揃って、自分が最も得意な魔法劇を仕掛けた。


「マスター、強力ナ魔法攻撃ダヨッ!」


 使い魔であるグレムリンがそう言うが、

 ドミニオンは落ち着いた様子で、

 左手に持った魔道書グリモアを頭上に掲げた。


「我は汝、汝は我。 我が名はドミニオン!

 嗚呼、創造神グノーシアよ! この空を光で埋め尽くしたまえ!

 ハアアァッ……『シャイニング・ウォール』ッ!!」


 するとドミニオンの前方に、

 長方形型の白く輝いた障壁バリアが生み出された。


 雷光に光の刃。

 そしてエンドラの空圧弾がそのの白く輝いた障壁バリアに着弾。

 その直後、爆発や衝撃が発生するが、

 白く輝いた障壁バリアは、ほぼ無傷であった。


 ドミニオンの魔道書グリモアは、

 使用者の魔力と魔法力を増幅させる効果に加えて、

 魔法の短縮詠唱や無詠唱を補助する力がある。


 レフ達とて一線級の冒険者及び魔導師。

 その彼等の渾身の魔法攻撃がまるで通用しない。

 この時点でドミニオンが並の大天使でない事を彼等は瞬時に理解した。


『嘘でしょ? まるで効いてないわよ』


『ニャーン、アイツ只者じゃないニャン。

 ボクはこう見えて名うての魔導猫騎士まどうねこきし

 ニャラード団長ほどではないけど、

 ボクだって一線級の魔導師だニャン』


『……やはり奴は大天使のようだ。

 だが並の大天使ではない。

 我々の一撃をこうも完璧に防ぐとは……』


 エンドラやニャーラン、レフ団長が驚くのも無理はない。

 これに関しては、相手が一枚も二枚も上手だったのだ。


「マスター、凄イ、凄イ。

 アイツ等、驚イテルヨッ!」


「私は主天使しゅてんしドミニオンだ。

 これぐらい事は、造作も無く出来る」


「マスター、カッコイイ!

 ナラバ今度ハコッチノ番ダッ!!!」


「無論そうするさ。

 私も殴られたまま傍観する程、

 お人好しでも莫迦ばかでもない。

 ハアァア……アァァァ!!!」


 今度は主天使ドミニオンが魔法攻撃を仕掛けた。

 使用した魔法は、光属性の「ライトニング・カッター」。

 それを無詠唱で何連発も瞬時に解き放った。


 ドミニオンの魔道書グリモアから、

 無数の光の刃が解き放たれて、

 前方のレフ、ニャーラン、エンドラに迫った。


「くっ! ――アクセル・ターン!」


「せいやぁっ! フライ・ハイッ!」


「ニャ! 急に光の刃が来て……

 ニャー、ニャアアァァァッ!?」


 レフ団長は咄嗟に上級風魔法『アクセル・ターン』を唱えた。 

 すると彼が騎乗した黄金の飛竜は、

 高速でターン旋回しながら、迫り来る光の刃を躱した。


 エンドラも急上昇して、飛来して来た光の刃を回避。

 だがニャーランは、咄嗟の出来事に軽くパニックを起こして、

 飛来して来た光の刃の餌食となった。


 光の刃で全身を切り刻まれたニャーランは、

 そのダメージで地面に向かって急降下した。

 だがそんな彼を同僚のツシマンがフォローする。


「ニャーラン、気をしっかりもつでニャんす!

 ニャアアァッ! ――ディバイン・ヒールッ!」


「ニャアアァ! ツシマン、ありがとニャン」


 ツシマンの咄嗟の上級回復魔法で、

 ニャーランが全身に負った傷も綺麗に回復した。

 するとパニック状態から脱したニャーランは、

 「猫天使ねこてんしの鎧」の両翼に魔力を篭めて、

 再び空中に浮遊した。


 しかしドミニオンの怒濤の魔法攻撃で、

 レフ達は圧されたのか、暫しの間、黙り込んだ。


 ドミニオンにとっては、

 格好の追撃チャンスであったが、

 彼の右隣に浮遊するグレムリンが戦況を伝えた。


「味方部隊ハ無事ニ撤退出来タ模様。

 マスターモソロソロ逃ゲタ方ガイイヨッ!」


「そうだな、魔法戦ではこちらに分があるが、

 多数で接近戦を挑まれたら、少し厳しい。

 良かろう、ここは封印結界を張って、

 敵の空戦部隊の動きを食い止めた隙に、

 私もこの場から退く事にしよう」


「ウン、ソレガ良イト思ウヨッ!」


「では行くぞっ! 我は汝、汝は我。 

 我が名はドミニオン! 嗚呼、創造神グノーシアよ! 

 我が願いを叶えたまえっ! 『封印結界』ッ!!」


 ドミニオンがそう呪文を唱えると、

 周囲が透明な結界で覆われた。

 縦幅は10メーレル(約10メートル)くらいだが、

 横幅は1キール(約1キロ)に及ぶ広さであった。


 結界の強度は最高レベル。

 これでは連合軍の空戦部隊も

 数に物を言わせて、突撃する事は不可能となった。


「ではここから去ろう。

 地上の民よ、今度会う時は必ず倒す」


「ウン、ウン、マスターナラキット勝テルヨッ!」


 ドミニオンはそう言い残して、

 手綱一本で戦車チャリオットを引く天馬ペガサスを見事に操った。

 すると彼を乗せた黄金の戦車チャリオットが瞬く間に大空を駆け巡った。


 その後を追うべく、

 レフ団長達は前へ進んだが、

 ドミニオンの張った結界に触れると、

 強い衝撃と痺れを感じて、後ろに仰け反った。


「くっ……とてつもない強度の結界だ。

 恐らく神帝級しんていきゅうクラスの結界だろう」


「ニャー、ボクもレフ団長と同じ意見ニャ。

 これは無理に追撃しない方がいいね」


「まあ空中要塞自体は撃破出来たし、

 それでもいいんじゃないかしら?」


「そうだな、では全軍に後退を命じよう。

 地上部隊の事はマリウス王弟殿下おうていでんか

 あるいは魔将軍グリファムに任せよう」


「それがいいニャ」「そうね」


 こうして空中戦における戦いでは、

 ウェルガリア軍に軍配が上がった。

 完全勝利には至らなかったものの過酷な戦いを終えた空戦部隊は、

 満足げな表情を浮かべて、後退を開始した。



次回の更新は2025年3月20日(木)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 流石ドミニオン、かなりの実力者ですね。 とりあえず今回の戦闘では勝つことができましたが、次の戦いはどう動くか全く予想ができませんね。 どちらから攻めるかさえも予想できません。 次…
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