第五話「謎の女騎士」
「これでクエスト完了。 四十五万グランだから三等分で一人十五万グランね。
悪くない稼ぎだわ。 これで新しい魔法の杖やローブも買えるわ。
これだからゴブ、コボ狩りはやめられないのよねえ~、うふふふ」
上機嫌に口笛を吹くメイリン。
「十五万グランか。 一日の稼ぎとしては破格だな。 俺も何か買おうかな~」
「うんうん、凄いね。 私、活躍してないけど、本当に貰っていいの?」
「勿論よ、報酬は均等に分けるのが冒険者の決まり。
でも予想外だな~。 正直ラサミスが怪我すると思ってたけど、
意外といい動きしてたわよ、アンタ」
「そうか? まあ一応、戦士以外の職業も経験してるからな。
最初の時みたいにいい格好しようとしたり、
目立とうという考えはなくなったからな」
「なるほど、ラサミスも成長してるんだ~」
感心したようにエリスが呟く。
「まあ正直少しだけ見直したわ。 少しだけね。
最近のアンタは死んだ目で一人旅してたから、
引退や廃業寸前と思ってたけど、やる時はやるじゃん!」
「そいつはどうも!」
自然と俺の顔にも笑みが浮かぶ。
ああ、いいなあ。
やっぱり一人旅よりパーティ組むのが断然楽しい。
そうだな、いじけるのは止めだ。 せめて気持ちくらいは前向きじゃないとな。
「おっ、いい笑顔じゃん。 それよ、それ!
アンタ元は悪くないんだから、もっと笑いなさいよ。
シケた顔して溜息ばかりついてると、流石のエリスも愛想尽かすぞ?」
「わ、私はいつもラサミスの味方だよ? 愛想なんか尽かさないわ。
で、でも私も笑顔の方が好きよ。
なんか冒険者に成りたてのラサミスを思い出す!」
幼馴染と女友達にこう言われると、やっぱり悪い気はしない。
そうだな、最近は全てにおいて及び腰だったんだよな、
結局弱気が陰気を引き起こし、陰気が他人を遠ざけるんだよな。
そりゃ暗い奴は男女問わず敬遠されるよなぁ。
そして俺達は禿山を降りて、平原地帯へと進んだ。
ここからハイネガルまで徒歩で約三時間くらい。
夜には着くだろう。
そしたら俺の家で宴会だ。 今夜は奮発してエリスやメイリンに何か奢ろう!
などと思いながら、歩いてると前方に人影が映る。
そういやここは国境付近だったな。
基本どの国も国境付近は警備が厳重なので、
難民や密入国者は事前に排除される。
だから盗賊や追い剥ぎの類ではないだろう。
次第に前方の人影と距離が狭まり、相手の顔と服装が視界に入った。
一言で言うなら女騎士。 それも、とびっきり美人の金髪碧眼の女騎士。
クールな印象を受けるその金髪の美女は、
やや呼吸を乱して、こちらを見ていた。
よく見ると負傷しているようだ。 俺達三人は思わず身構えた。
それを制するように女騎士は右手を前に突き出して――
「身構えないでくれ! ……私は怪しい者じゃない。 君達は冒険者か?」
と、凛とした声で語りかけてきた。
「……そうだけど? アンタは何処から来たんだ?」
俺はやや警戒しながら、返答する。嫌な感じがする。
これは面倒事に巻き込まれるパターンだ。
とはいえ負傷した女性、しかも美人を見捨てるのは心が痛む。
「……私はこの国境を越えた先にある中立都市リアーナからやって来た。
もしよろしければ、私を城下町ハイネガルへ連れて行ってもらえないか?」
中立都市リアーナかあ。 確かリアーナには色んな種族が居るんだよなあ。
ヒューマンを含めた四種族は今も緊張状態にあるが、リアーナは例外だ。
どの種族問わず街にひしめき合っており、それでいて友好関係で平和らしい。
よく見れば目の前の女騎士も僅かだが耳が尖っている。
だがそれ以外はほぼヒューマンと変わらない。
もしかしてヒューマンとエルフの混血か?
「リアーナから遥々ハイネガルへ向うのかい?
まあちょうど俺もハイネガルに帰る所だけど…
…一応冒険者の証とかみたいな身分証明書を見せてくれないか?」
「ああ、わかった。 私の冒険者の証をそちらに投げるので確認してくれ。
私はアイラ。 アイラ・クライス。
見ての通りヒューマンとエルフの混血児だ。
職業は聖騎士。 所属の連合は『暁の大地』だ……」
女騎士……アイラがこちらに投げた冒険者の証を拾い、俺は目を通す。
アイラ・クライス。 職業・聖騎士レベル35。
種族・ハーフエルフ。 冒険者ランク・A級。 所属・連合『暁の大地』。
どうやら嘘はついてないようだ。
というか全体的パラメータ高けえ! ……少し自信なくすぜ。
「……どうやら嘘じゃないみたいだな。
いいだろう、道案内くらいならするよ」
俺はアイラに彼女の冒険者の証を手渡した。
よく見ると本当に美人だ。 切れ長の蒼い瞳。 整いきった目鼻立ち。
プルッとした艶めかしい唇。
アイラは青い金属製の鎧に緑のマントを羽織り、優雅に着こなしている。
手足はスラッと長く、身長も俺とそう変わらない。
……百七十ってとこか?
「あ、ありがとう。 見ての通り私は少々トラブルを抱えている。
勿論、君達を巻き込むつもりはない。 ハイネガルに着いたらお礼をしよう。
それで私と君達の関係は終わりだ? ……これでいいかな?」
「ん? ああ……いいよ。 俺らも深くは追求しないさ! なあ?」
俺は振り返り、エリスとメイリンを見ると彼女達も「うん、うん」と小さく頷いていた。
「あ、ありがとう……君達はハイネガルの住人か?」
「ん? そうだけど、それがどうかしたか?」
「……ならハイネガルに着いたら『龍之亭』という
酒場へ案内してもらえないか?」
……この女、今なんて言った? 龍之亭だと!?
「……なんでその酒場に用があるんだよ?」
「悪いがそれは話せない。 話すと君達に迷惑がかかる……」
心臓がドクン、ドクンと波打つ。 嫌な予感がする。
そして俺のこういう勘は当る。
「いや……そこ俺の実家なんだけど?」
「えっ!?」
女騎士アイラが目を大きく見開いた。
数秒程、アイラは硬直していたが真剣な眼差しで俺の顔を凝視する。
「……もしかして君の名前は……ラサミス? ラサミス・カーマインか?」
「……そうだけど、――もしかしてアンタッ!?」
アイラは微笑しながら、俺の言葉を遮った。
「――そうだ、私は君の兄ライル・カーマインの仲間だ!
そして我々『暁の大地』はとんでもない大事件に巻き込まれた。
ラサミス、兄を……ライルを助けると思って、
私に……『暁の大地』に力を貸してくれないか!!」