第五百七十九話 精神攻撃(後編)
---三人称視点---
プリシンパティが技名コールを終えると、
眩い波動が巻き起こり、
前方のヨハン達を力強く呑み込んだ。
「くっ……また精神攻撃か!?
クロエ、錬金魔法で治せないか?」
「うっっ……ヨハン団長……。
駄目です、心が……精神が……痛みます……」
「ホワット! またマインド攻撃なのか!
まるでマインド攻撃のバーゲンセールだぜ!!」
「だ、駄目……心が……壊されていく……」
この能力「マインド・ブラスター」は、
対象者の心や精神の弱いところにつけ込んで、
不安や焦りを増幅させる精神攻撃だ。
更には対象者の心の傷を呼び起こして、
更に心と精神が傷つくように幻影と幻覚もみせる効果があった。
「うっ……わ、私は……好きで女侍をしている。
……ち、違う! 無理なんかしてない。 本当よ!」
「ホワット! 何故か裸のサキュバスが!!
ホワット! オレ様のプレイが下手っぴだと!!
ただ勢いで誤魔化しているだけだと!!
そ、そ、そんな事はない! オレ様はテクニシャンだ!」
「ば、馬鹿なんて幻覚を見てるのよ!」
近くに居たカリンが左手でラモンの後頭部を軽くぶった。
「ぶったな! お袋にもぶたれた事ないのに!」
「ふ、ふざけてる場合じゃないでしょ!
う、う、うっ……目の前にラサミスくんが見える……」
そう呻くカリンの眼前には、
ラサミスらしき銀髪の青年の幻影が映った。
「……オレはオマエなんか興味ないっ!
目障りだから、オレの前をうろつくな」
ラサミスらしき幻影の青年がそう言う。
この言葉にはカリンも精神的ダメージを受けた。
「くっ……なんて嫌な幻影なの!!
で、でも地味に心が蝕まれるわ……」
「皆、正気を保つんだァッ!!
クロエ、なんとかならないかっ!?」
「くっ……や、やってみます!」
苦しみながらクロエは、
腰帯にぶらさげた皮袋に右手を突っ込んだ。
そして皮袋の中から七色水晶の欠片を取り出した。
その七色水晶の欠片を右手に握りしめて、
周囲の仲間の頭上に目掛けて投げつけた。
「水晶よ、弾けよっ!!
ハアアァッ……アァッ! 『マインド・リカバー』」
クロエがそう叫ぶなり、
仲間の頭上に放られた七色水晶の欠片が眩い輝きを放った。
そして七色水晶の欠片が砕けると同時に、
七色の光がシャワーのように周囲の仲間に降り注いだ。
それと同時に周囲の仲間の精神攻撃のダメージも少し弱まった。
「……ある程度は治まったな。
現時点で戦闘不能な者! 自己申告せよ!」
「うっ……オイラは厳しいかも?」
「わ、私も少し厳しいわ」
ジョルディーとアーリアが自己申告する。
「そうか、ならば二人は中衛に下がるんだ。
他の者はどうだ? ラモンは大丈夫なのか!」
「イエッス! もう幻影なんか見えないぜ。
そしてオレ様は名実ともにテクニシャン。
この事実は決して変わる事はないぜっ!」
「大丈夫なのか、大丈夫でないか。
分かりにくいなあ~」
ラモンの言葉に剣聖ヨハンも呆れた表情をする。
「兎に角、大丈夫だぜっ!
敵もあれだけの能力やスキルをそうは連発出来んだろう。
蓄積時間が溜まる前にヤるべきだぜ!」
「うん、一応大丈夫のようだね。
クロエとカリンはどうだ?」
「「大丈夫です!」」
「良し、良い返事だ」
とりあえず窮地を脱したヨハン達。
そしてピンチの後はチャンスあり。
という言葉が具現化された。
「あっ、ヨハン団長!
大丈夫ですか? オレ達も加勢しますよ!」
後方からラサミス達「暁の大地」のメンバーが駆けつけた。
先頭にラサミス、ミネルバ、ジュリー。
中衛にメイリンとバルデロンという並びだった。
「これは僥倖だな。
ラサミスくん、ここからはボクが指揮するが、
構わないかい?」
「ええ、ヨハン団長の指揮なら安心です」
「ではまず陣形を決めよう。
前衛はボク、ラサミスくん、ミネルバくんだ。
中衛はクロエ、ラモン、ジュリーくん、そこの犬のような……」
「バルデロンです、私の名はバルデロン」
「了解だ、バルデロンくんも中衛で!」
「ハイ!」
「そして後衛にカリン、メイリンくんという陣形を組む。
基本的には前衛が敵の司令官と天使兵と戦う。
中衛の者はスキルなどで前衛をアシスト。
頃合いを見て攻撃やサポートするように!」
「「「はいっ!!」」」
「了解です」「オーケーだぜ」「「はい」」
剣聖ヨハンの言葉に各々が頷く。
「後衛のカリンは、遠距離攻撃で前方の敵。
あるいは宙に浮いた天使兵を矢で射貫け!」
「はいっ!」
「メイリンくんも臨機応変に動き。
攻撃魔法や対魔結界を状況に応じて使うんだ!」
「了解ッス!」
これで陣形と基本戦術は決まった。
「暁の大地」と「ヴァンキッシュ」の共闘は、
あの第二次ウェルガリア大戦以来であった。
「この面子なら敵の司令官とも渡り合えるだろうが、
敵の能力やスキルの全容は分からないので、
皆、気になる事があったら、声を掛け合うように!」
剣聖ヨハンは、的確な指示を出していく。
周囲の味方もその指示に「はい」や「ええ」と答えた。
合計9人の精鋭部隊。
だが権天使プリシンパティは、思ったよりも落ち着いていた
「高い魔力と闘気ね。
恐らく敵の主力級ね、いいでしょう。
受けて立つわ、天使騎士部隊!!」
主の言葉に周囲の天使兵が「はっ!」と応じる。
「とりあえずこの場に居る天使兵30体を我が指揮下に入れる。
最初の10体は、攻撃役を!
次の10体は、時魔法で相手を弱体化。
残る10体は、魔法を主体において、
回復魔法と攻撃魔法を使い分けよ。
そしてその三つの役割を適度に入れ替えて、
万全な陣形を組むから、各自、臨機応変に対応せよっ!」
こうしてラサミスと剣聖ヨハン。
その団員達の共闘に対して、
プリシンパティも全力で迎え討つ態勢を整えた。
次回の更新は2025年2月4日(火)の予定です。
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