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第五百七十話 有備無患(中編)



---三人称視点---



 旧エルドリア城の北東部。

 ネザライト平原と呼ばれる平地に、

 空中要塞アーケインが着陸しながら、

 天使騎士エンジェル・ナイトやリペア・マシーン。

 また工作ロボなどをフル動員して、

 大きなダメージを受けたアーケインの修理作業を行っていた。


 リペア・マシーンは、

 体長160セレチ(約160センチ)の二足歩行の作業用ロボットだ。

 銀色と黒のツートンカラーで、

 人間同様に二本の腕と足を持っていて、

 基本は二足歩行して移動する。


 手は基本的に人間同様、五本指だが、

 状況に応じて、手首の部分を取り外しして、

 ドリルやハンマー状のアームに交換する事も珍しくない。


 リペア・マシーン以外にも工作ロボ。

 あるいは掃除ロボや工業ロボなどのロボットが存在する。


 だが大打撃を負った今の空中要塞アーケインが必要とするのは、

 リペア・マシーンや工作ロボの類いの修理機能があるロボットだ。


 この広い要塞内で既に三百体以上のリペア・マシーン。

 工作ロボも二百体以上、動員されて、

 各所にダメージを負った要塞の修理作業に勤しんでいた。


 幸い空中要塞が大空に浮遊出来る原動力である超浮遊石ちょうふゆうせきは、

 大した損傷を受けていないので、

 後、数十時間くらい修理作業を行えば、

 アーケインは、再び空に浮遊する事が可能であった。


 また要塞内の修理は、

 ロボットだけでなく、天使騎士エンジェル・ナイトが役割分担を決めて、

 時魔法の時戻ときもどしの魔法で、

 壊れた機械や部品を巻き戻し状態にする。


 あるいは工具を片手に手作業で直接修理。

 と天使の姿をした一団が大勢で、

 要塞内を修理する姿は、なかなかにシュールな絵面であった。


 だが彼等は至って真面目であった。

 そしてこんな時でも天界エリシオンから、

 空中要塞内の転移室に、

 能天使のうてんしパワーと力天使りきてんしヴァーチャ。

 また数百に及ぶ天使騎士エンジェル・ナイトが続々と転移されていた。


 そして熾天使してんしウリエルは、

 要塞の中枢部の玉座に腰掛けながら、

 新たに派遣された二人の大天使と対面していた。


「よく来てくれた。

 同士パワーと同時ヴァーチャよ」


「いえ」


「お目にかかれて光栄です、熾天使してんしウリエル」


 パワーとヴァーチャは、

 鷹揚に頷いて答えた。


「話は既に聞いていると思うが、

 この世界の住人は、意外と強い。

 だから貴公等もくれぐれも油断しないようにな」


熾天使してんしウリエル、その事でお話があります」


「同士パワー、何だね?」


 能天使のうてんしパワーは、浅黒い肌を包んだ薄紫色の軽鎧ライト・アーマー

 カチャカチャと鳴らして、前へ一歩出た。

 身長195前後の長身だから、

 玉座に座る身長175前後のウリエルを見下ろす形となった。


 だがウリエルも熾天使してんしの一人。

 この程度の事で躊躇う程、やわな精神の持ち主ではない。


「天界で先の戦いを観察させて頂きましたが、

 彼奴きゃつ――特異点には最大限の警戒をするべきでしょう。

 無論、彼奴きゃつは、我々からすれば貧弱な人間に過ぎない。

 ですがそんな人間が上位種の天使を倒した。

 この事実から目を反らすべきではないでしょう」


 パワーは淡々たる口調でそう告げる。

 するとウリエルの表情が次第に強張っていく。

 だが彼も逆上はせず、落ち着いた口調で応じた。


「……そんな事は百も承知だ。

 だが必要以上に警戒する必要もなかろう。

 アーク・エンジェルは、所詮大天使の中では、

 最弱の位置に居た存在に過ぎん。

 同士パワー、君なら特異点相手でも

 不覚を取る事はなかろう、違うか?」


「無論です、私にも大天使としての誇りがあります。

 そうですね、少し口が過ぎたかもしれません。

 アーク・エンジェルが敗れたのは、彼の力量不足。

 それを熾天使してんしウリエルのせいのように言うのは、

 横暴であり、礼節を欠いた発言でした。

 申し訳ありませんでした」


 パワーの真っ直ぐな謝罪は、

 ウリエルの心にも大きく響いた。

 だからウリエルは、

 眼前のパワーに対して右手を上げて制した。


「いや分かってくれたのであれば、それで良い。

 私とて特異点の存在が気にならぬ訳ではない。

 だが私は天使長に直々にこの空中要塞の指揮を任された。

 だから特異点一人に拘らず、

 私は大きな視点で戦局を見据える義務があるのだよ」


「仰る通りです」


「うむ、では同士パワー、同士ヴァーチャ。

 貴公等も我が指揮下に入って、

 次なる戦いに向けて準備を整えるが良い」


「「はいっ!」」


「うむ、良い返事だ」


「同士ウリエル、私も一言申して宜しいですか?」


 今度は力天使りきてんしヴァーチャが問いかけてきた。

 だがここで無碍にする訳にもいかない。

 だからウリエルは、ヴァーチャの言葉にも耳を傾けた。


「特異点の存在も危険ですが、

 この空中要塞を撃退した巨大猫の存在も気になります。

 確か猫族ニャーマンという獣人の仕業ですよね?」


「嗚呼、ある意味、特異点より危険かもしれんな。

 だから次の戦いでは、

 そのか猫族ニャーマンの魔導師の動きを封じる必要があるな。

 とはいえ敵にとっても奴の動きは生命線。

 恐らく奴の周囲の警備も厳重になるだろう」


「では部隊を地上部隊と空戦部隊の二つに分けるべきですね。

 あの猫の獣人の巨大化を事前に阻む必要がありますね」


「それが出来たら、苦労はせんよ。

 ただ貴公や同士パワーが戦列に加わったら、

 あの猫の魔導師や特異点の動きも封じられるであろう」


「はい、全力を持って任務にあたります」


 ヴァーチャの凛とした声がその場に響き渡る。


「とりあえず地上部隊は、

 権天使けんてんしプリシンパティに任せる。

 同士ヴァーチャは、同士パワーと組んで空戦部隊を率いて欲しい」


「了解致しました。 ただそれでは、

 主天使しゅてんしドミニオンがお暇になりそうですが……」


「同士ヴァーチャ、同士ドミニオンには、

 私の傍に居てもらい、色々補助をしてもらうつもりだ」


「そうですか、了解致しました」


「うむ、では諸君。 共に協力して、

 敵を――地上の民をこの手で討ち取ろう!」


 ウリエルの言葉に、

 パワー、ヴァーチャ、プリシンパティ。

 そしてドミニオンも「おお」と大声で呼応する。


 こうして天使軍とウェルガリア軍。

 両軍による新たな戦いが始まろうとしていた。



次回の更新は2025年1月13日(月)の予定です。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 次なる敵が決まりましたね。 なにか特殊な能力があるかもしれませんから注意する必要がありますね。 天使の存在の全貌がわかっていない以上、こちらとしても色々と考察の幅が広がっていいで…
戦いはどうなるのか……楽しみにしています!
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